魔王様を騙したのでした
自宅に帰って来た私は、さっそく“流石の暗殺者”なる、名前を名乗る暗殺者全員をユーグと魔王ヤード様と一緒に全員返り討ちにして倒しました。
優雅な仕草で私が倒すまでもなく二人して倒してしまったので、私の分がまるで残されていませんでした。
しかたがないので後でサンドバックで運動不足を解消しないとと私が思っていると、魔王ヤード様が、
「こんなものがよく襲ってくるのか。まあ、私の側近を倒す程度に強いお前ならば、この程度相手にはならないだろうな」
「ええ。ただ運動不足でどうしようかとは思いますが」
それを聞いた途端、魔王ヤード様がニヤリと笑った。
「では、ルナ。手合わせを願おうか」
「? 何故です?」
「前から思っていたのだが、お前は強い! だから戦いたいのだ!」
「何だか少年向けの物語の主人公みたいですね。そんなふうに強くなってどうするんですか?」
「そこにいる邪悪な新米神、ユーグをいずれは倒すためだ! 何が悲しくて女にさせられた挙句、男に体を狙われねばならないんだ!」
「きっとヤード様の人徳ですよ」
「そんな人徳いらない! 昔のように綺麗な女の子を侍らせて、素晴らしいですわヤード様と微笑まれる人生を送りたいのだ!」
魔王ヤード様は幸せそうにうっとりとしながら言います。
何だかダメな発言をしているようにみえるのですが、きっと本気なのでしょう。
けれど私は気づいてしまったのです。
このヤード魔王様のハーレムの実態を。
あれについて色々と思う所がたくさんあるのです。
一緒に旅をしたので情が湧いたし、敵対しなければ性格いいし、見た目も可愛いくて遊ぶと楽しい魔王様はそれを聞くとショックを受けて立ち直れないかもしれません。
でも、問題が一つ。
なので私は好奇心で聞いてみました。
「でももしももう男に戻れなかったならどうするのですか?」
「いや、戻ってみせる」
「いえ、もしも……」
「必ずあのユーグという邪神を滅ぼしてみせる。絶対にだ。そして私は再び男となり、魔王として君臨するのだ」
言い切った魔王様。
どうやらどうあってもこのまま女でいるのが嫌みたいです。
でも考えてみてください。
「でも魔王様、その女性の姿なら、男性にモテモテですよ?」
「男にもててどうする! 私は女の子にもてもてになりたい!」
「魔王様、女の人が好きですね」
「当たり前だ! 私は男なのだ! なのに、なのに……」
じろりと睨みつける魔王ヤード様の視線を、ユーグは素知らぬ顔で無視しました。
それに更に魔王ヤード様は苛立ったようなので、
「では、私と戦ってみますか?」
そう私は、魔王様に告げたのでした。
時間を操る私の前に、魔王ヤード様は苦戦しており、今の所五回ほど戦ったのですがすべて魔王様の負けに終わっています。
それが悔しいのか魔王ヤード様はうめいて、
「く、後もう1回」
「でも魔王様、もうこんなにぼろぼろじゃないですか。この辺で止めたほうがいいと思いますよ?」
「まだだ、まだ終わらない。こんな六歳児に負けたままなんて、私のプライドが許さない」
「では次に負けたら私の云うことを聞いてもらいますからね」
「う、うぐ、分かった、いいだろう!」
そうして戦闘を開始した私達ですが、途中ユーグが手出しをしたために私の勝利となりました。
何でも私がヤード魔王様の相手をシてばかりいるので気に入らなかったらしいです。しかも、
「このまま女のままで過ごすほうが幸せだと思うよ? そばにいる一番の側近二人が、魔王の事好きみたいだし」
「ふ、ふざけるな! こんなふうに女になった原因はお前のくせに……お前も男にモテモテになった気持ちがわからないのか?」
「さあ、この前の女装コンテストでは僕、男性票をかなり取りましたから。でも女性票も手に入ったみたいですしね。僕はどちらの方々にも人気があるようですね、貴方と違って」
「く、この……いつか必ずギャフンと言わせてやる! お前のような……何だ、ルナ?」
そこで肩を叩く私に、魔王様は気づいたようです。
いえいえ、私としてはそろそろ魔王ヤード様には、お約束を叶えて欲しいと思うのです。なので、
「魔王様は負けたようなので、約束は守ってくださいね」
「う、し、仕方がない。約束は約束だからな」
渋々と頷く魔王様に私はニヤッと笑った。
お新しい玩具……ではなく、お姉さん? お兄さん? 今は性別が女なので、お姉さんな魔王ヤード様に向かって私は、
「メイド服を着ましょう! ちょうどミニスカとニーソでフリルが付いた凄く可愛いメイド服があるんです!」
「それはメイド服じゃないだろう! メイド服は作業着のはずだ!」
「ふ、分かっていませんね。女の服は、戦闘服なのです。ですから戦闘メイドは、そういった着飾った服を着るのが我家での習わしなのです!」
もちろん嘘だが。
個人的に私がこの綺麗な魔王様をお人形遊びのごとき着飾りたいだけなのです。
ですがそれに魔王様は、
「そ、そうだったのか。メイドとはそのような過酷な職業もあったのか」
「そうなんです、なのでさっそく着替えてくださいね。お手伝いしますから!」
そうして私は、まんまと魔王ヤード様を騙したのでした。




