悪役令嬢の本気を見せてやる
「いいだろう、受けて立ってやる!」
そう魔王ヤード様は自信満々に墓穴を掘りました。
でも自信満々な所からまだ自分の置かれている状況が、分かっていないようです。
ただそちらの方が都合が良いので私は黙っていましたが。
ちなみにユーグは確定です。
何だか先ほどから、ヤード魔王が出るから良いんじゃないかとユーグが言っていますが、愚かなこと。だって、
「私が見たいから、駄目」
「ル、ルナの趣味じゃないですか!」
「間違えたわ、三人で出た方があのローゼル君を倒せる可能性が上がるからじゃない(棒)」
「今すっごく建前のような発言をした!」
「私のお願い、聞いてくれないの?」
私は上目ずかいでユーグにお願いしてみた。
ユーグはたじたじして顔を真っ赤にしている。
見よ、これぞ女の武器!
そしてユーグは渋々頷いてくれました。
これで後はかの戦場に繰り出すのみ!
「よし、これで“男女混合女装コンテスト”に出るわよ!」
簡易ステージに向かって指をさし、宣言したのだった。
まずどうしてこうなったかについて話そうと思う。
私達はまず、そのローゼル君に会いにこのコンテスト会場にやってきた。
歩くたびに生徒達がざわめくが、こんな美男美女が三人いれば当然だろう。
それは良いのだが、会場にやってきた私達はローゼル君を探す。が、
「我々のローゼル様に、何の用だ!」
いかつい男達に取り囲まれる私達。
とりあえず私は、お話がしたい旨と、今日は見学に来ていると言った話を伝える。
けれどそのいかつい男は、
「今日はローゼル様の晴れ舞台である。それを邪魔しようとする者は何人たりとも許さない」
「そう? じゃあ、コンテストの後には暇が出来るからお話しできるかしら」
「否! コンテスト後はローゼル様の勝利を祝うために一昼夜、祝う事になっている!」
「え? で、でも少しだけ話すわけには……」
「くどい! 邪魔だ! どうせそう言って、このコンテストに出る競争相手を叩き潰そうとしているのだろう!」
「あのー、私達は全く関係ないのですが」
「ふん、嘘付きが。そうやって今まで何人もの美男美女がローゼル様に牙を向けようとした事か」
「……何だかうざいから、全員叩きのめして会いに行こうかしら。まあ、殺さない程度に手加減してあげるから、安心なさい?」
一歩も引かない彼らに私は小さく笑ってそう告げると、何かを感じたのかその男達は一歩後ずさりする。
そんなに怖がらなくてもいいのにと思いながら、私が魔法を使おうとしたそのとき声がする。
「そこで何をしているの?」
「ロ、ローゼル様!」
焦ったような声とともに現れる彼。
サラリとした銀色の髪に、色硝子のように澄んだ青い瞳。
色づいた唇はなまめかしく、肌は抜けるように白い。
「一体何をやって……!」
そこでローゼル君ははっとしたように目を見ひらいた。
その視線の先には、魔王ヤード様がいる。
そのヤード様といえば何で自分が見られているのかわからないようで、
「え、え?」
「お前、名前はなんて言うんだ」
「……人に名を尋ねる時は、まず自分からだろう?」
ヤード魔王様が、ローゼルを見てふんと笑う。
それに先ほどのいかつい連中が、ローゼル様になんてことをと憤っているが、
「……そうだね、もっともだ。でも君達は僕を訪ねてきたのだから僕の名前はもう知っているでしょう?」
「たしかにそうだな。私の名前はヤード。そして彼女がルナで、彼がユーグだ」
「他の二人はどうでもいいよ。僕は、お前が気に入らない」
初対面で言い切ったローゼル。
え?
もしかして自分より美しい女性は気に入らないとか?
というかよくも私をどうでもいい扱いしやがってと恨めしく思いながら話を聞いていると、女魔王ヤード様が不敵な笑みを浮かべて、
「ふん、何が気に入らない。私に喧嘩を売るとはいい度胸だな」
「何が気に入らないかって、そんなもの決まっている」
「ほう、言ってみろ」
「……お前からは、“男”を感じる!」
私は目が点になりました。
はっきり言ってこの女魔王様は、何処からどう見ても絶世の美女です。
それを男って……確かにローゼル君は可愛い美少女のようですが中性的な美しさです。
魔王ヤード様の女性的な美貌とは少し異なります。
ですが、そんな魔王ヤード様にローゼルは、
「僕より美しい奴は許せない」
「……私は今は女だ」
「いや、男だと僕の勘が告げている!」
魔王様が、それはもう、とても嬉しそうな笑顔を浮かべました。
自分が男だと認められて嬉しいのかもしれません。
そういえば男なのに女体化させられて、ハーレムに逃げられるわ男に迫られるわで逃げてきた部分もあるので当然なのかもしれません。
でも思うに私としては、
「私だって美少女なのに」
ポツリと呟いた私をローゼル君が見て、鼻で笑いました。
ゆ、許さん。
女としてのプライドが私の中でふつふつと浮かび上がります。
その僕のほうが可愛いしといった態度が気に入らない。
私だって美少女なのに、負けてたまるかと、気の強い私は思って、
「悪役令嬢の本気を見せてやる……」
「いえいえ、それは悪役令嬢と何の関係がありませんから」
ユーグのもっともな突っ込みは無視して私は決める。
このコンテストに私も出て、この生意気なローゼルを叩き潰してやると。
そこで今度はローゼルが魔王ヤード様に、
「コンテストで勝負だ! 僕に勝利したなら貴方方の話を聞いてあげてもいいよ」
「ほう、それは負けを認めるということか?」
「ふん、お前程度叩き伏せられなくて、女装の天才は名乗れない! それで受けて立つの? たたないの?」
「いいだろう、受けて立ってやる!」
そう告げた魔王ヤード様。
女装コンテストだってわっているのかという野暮なツッコミはしない。
その場の勢いに流されている内に女装をさせて、女魔王様の女装写真ゲット……では無く、コンテストに放り込む弾は多い方がいいというだけ。
決して私のプライドを傷つけた仕返しというわけではない。
そこでユーグが私に、
「では僕は客席で応援をしているので」
「あんたも行くのよ! さあ、全員登録してくるわよ!」
こうして私達は、このコンテストに出場することになったのでした。




