vs神様!
ある晴れた日の事。
六歳の誕生日を迎えた私。
そんな私は悪役令嬢になってしまった自分に気づいた。
「な、何で私がこんな事に……」
「いや、えっと……全部こちらのミスです」
銀髪に青と緑の瞳をした私と同い年くらいの少年が、申し訳無さそうに告げた。
ちなみに彼は、この世界の“神”らしい。
先ほど、憂さ晴らしで部屋に吊るされている562個めのサンドバックに蹴りを入れていた所、勢いあまって宙を蹴りあげ、そこで彼が悲鳴をあげて姿を現したのだ。
「ひ、酷いです。何をするんですか!」
「貴方、一体何処から入り込んだの? この私に気づかれないなんて、中々の手練ね」
今度は何処の暗殺者だろうと思って、私は傍にあった剣を持ち出す。
貴族で優れた力を持つこの家に生を受けたのだから、仕方がないと思う作業の一つだ。
本来であればこの屋敷の敷地内に異質なものが紛れ込んだ時点で、暗殺者であろうが魔物であろうが殲滅する手はずになっているはずだった。
なのに彼はここにいる。
防衛網を突破されたということは、その警備の何処かに穴があるのだろう。
それを知るにはこの暗殺者の同い年の少年を生け捕りにして、吐かせたほうが早いのかもしれない。それならば、
「“時間よ、止まれ”」
小さく私は呟き、私の固有の特殊能力、“時間操作”だと呼ばれている能力を使う。
呼ばれているというのは、おそらくはそういった能力だろうと私が推定しているからだ。
もしかしたら似たような効果を持つ別の力なのかもしれないが。
そして私がつぶやき、効力範囲をこの部屋に限定した私の力によって全ての動きが止まる。
この時空間上で動けるのは私のみ。そのはずだった。
目の前の彼が、すっと大きな紙を折った細い棒のようなものを取り出して――後に私はそれが“ハリセン”と呼ばれる、前世の世界の武器だったと思い出す――私の頭を叩いた。
軽快な音を聞きながら、私ともあろうものが攻撃を受けるなんて油断した! と焦るが……そこで私はぼんやりと前世の記憶を思い出した。
ついでに私は、この世界を救う“勇者”になるはずだったと自分を思い出す。
それを告げたのは目の前にいる、以前の神から仕事を引き継いだばかりの新米の神様だ。
だがここで私は現状を思い出して、
「ちょっと! 勇者として世界を救ってくれって話はどうなったの!」
「本当にすみません! 神様を引き継いだばかりの新米なので、何が出来て何が出来ないのかがよく分からなくて、うっかり貴方の世界のゲームの、悪役令嬢に当たる方に転生させてしまいました」
「どうするのよ! 私若くして死ぬんだけれど!」
「分かっています! なので僕がサポートして、運命に一部介入しながらヒロインとともに世界を救う“勇者”になって頂きます!」
「もう一声!」
「わ、分かりました、どうすれば納得して頂けますか?」
オシの弱そうなその神様に私はにっこり笑って、
「逆ハーレムなモテモテ展開と、ユニークスキルを一つください!」
「ええ! モテモテ展開は自分でどうにかしてもらいたいです、神様には人の心は恋愛的な意味では操れないですから。あとその固有で特殊なスキルじゃ足りないんですか!」
「年齢詐称魔法が欲しいの。でないと、その場その場で、例えば学園やら酒場やらに潜入したりは出来ないから」
年齢的な意味で出来る事が制限されるのは、ゲームで死ぬ間際に悪役令嬢が言っていた言葉で確認済みだ。
そう、私がこの先生き残るためにはその力が必要不可欠なのだ。
そう告げるとその神様は納得したように頷いて、
「なるほど、確かにその力は好都合ですね。それに早めに準備出来たほうが先手が打てる」
「そうでしょう。これで私は若くして死なずに済むわ」
「いえ、そちらではなく……貴方が若くして死ぬ前に、世界が滅ぶんです」
あっさり言い切ったその神の顔を私はまじまじと見て、そこで気づいた。
そういえば私は勇者としてこの世界に召喚されるはずで、そしてゲームでは主人公だったヒロインと力を合わせてこの世界を救うはずだった。
けれど私は今、私は悪役令嬢になっている。
つまり、この世界には勇者がいない。
「どうするの! 世界が滅んでも私死んじゃうじゃない!」
「いえ、ですから勇者をやりながら、悪役令嬢ルートを回避ということで」
「……手伝ってくれるのね」
「はい、もちろん! 世界が滅んだら再就職先を探さないと。今は神様業の就職が厳しくて……」
神様の個人的な事情で、手伝ってくれるようだ。
元々は彼のミスだが、神様という最強のカードを手にした私に敵はない……と思いたい。
そこで私は彼に問いかける。
「それでどうする? 私の執事としてお父様達にお願いしておく?」
「そうしていただければ助かります」
「じゃあ決まりね。えっと名前は……」
「普通にこの地方で信じられている神、ユーグで構いません。多分本当の僕の名前は、この世界の人間には発音が難しいでしょうから」
「そう、これからよろしくね、ユーグ」
そして私は彼と握手を交わしたのだった。
ここで思い出した私の現状について説明しようと思う。
つまりこの世界にそっくりなゲームについてだ。
そのゲームとは、ノベルゲーム“その日私は世界の秘密を知る~天の冠を抱く者~”という、女性向け恋愛ファンタジーシミュレーションゲーム、通称乙女ゲームである。
そしてそれに似た異世界? の悪役令嬢として生まれ変わっている衝撃の事実が本日発覚した。
ちなみにこの悪役令嬢は、最後の方で実はいい奴だったんだと分かった挙句ヒロインに全てを託して死ぬ女性キャラなので、悪役令嬢かどうかと言われると厳密には違うかもしれない。
ちなみにその悪役令嬢である私の説明を詳しくすると、歴史ある由緒正しい貴族のクレール家の長女であり、生を受けてはや六年が経過している。
つまり私は今六歳なのだ。
そして幼い頃からの英才教育により貴族としての立ち振舞から語学、自然魔法学までを乾いた土が水を吸収するがごとく飲み込んだ私は、その分野の教授達から天才と呼ばれるほどの才媛になっており、しかもこの美貌。
輝く黄金を落とし込んだかのような金色の髪に、翡翠のような緑色の瞳。シミ一つ無い、白い玉のような肌を持った絶世の美少女だったのである。
更に特殊な“時間操作”らしき能力を持っているのだ。
それ故に高慢な性格になってしまったのは仕方がないといえる。
それに高慢さはあるものの素直に失敗や間違いを認める謙虚さも併せ持っていたと、私は前世のおぼろげな記憶を思い出して自分の行動を客観視して気づいた。
でもだからといってどうしてそんな天才が甘んじて悪役を引き受け、最後にヒロインに全てを託して死ぬのか……主人公のヒロイン視点では気にならなかったそれが、今、私はとても気になります。
けれど気になっていた所で、それよりも優先すべき事柄が幾つもあるのでまずはそれに関して手を打っていかないといけない。
そして今日はちょうど六歳の誕生日。
両親におねだりをしてプレゼントを手に入れられる日だ。
「六歳の子供には似つかわしくないものでも、天才である私ならそんな物が欲しいのか? で終わってしまうはずよね?」
「あの、なんか凄く悪い笑みを浮かべているのですが」
「そう? 気のせいだと思うわよ?」
不安そうに言うユーグに私は、そう答えたのだった。