第一章 復讐の邂逅-3
第五天砦 一階
「うああ!」
「遅い!」
敵兵の攻撃を避け、剣戟を加えるベルザス。
「水魔法・水祭!」
ライが魔法を唱える。
ライのかざした手から三つの水の塊が出現し、勢い良く敵兵に向かっていく。
「なっ、ぐあ!」
「うがっ!」
敵兵の二人が水の塊の犠牲となる。
「おらっ!」
「ぐがっ」
レイも敵兵を斬りつけ一人倒す。
「実戦経験のほぼない俺らと同等かそれ以下って感じだな…ここの兵士は」
レイが一息つく。
「元が左遷されてる兵士だからな」
ベルザスも敵兵の弱さに余裕を覚えている。
「油断してはいけないと思いますよ」
ライが余裕ムードに釘を指す。
「ベルザス!」
「サイエヌか、そっちはどうだ?」
緑の髪のハーフエルフ、サイエヌがこちらにやってくる。
「大体片づいたと思うぞ、予想よりあっさりいくもんだな」
サイエヌがケラケラ笑う。
「サイエヌ隊長、残念ながらそう簡単にはいかないみたい」
紫の髪の物静かなエルフがサイエヌに報告をする。
「ん、そうか。オールレー、夢見眼で見えたんだな?」
「はい。光魔封・夢見眼で見ました所、左遷組が一階、砦長のクレイスの私兵が二階を固めていたみたいです」
「そしてクレイスの私兵はそれなりに力をつけているみたいです」
「どうしてそうわかる?」
「一階の戦いの音を聞いて……皆が臨戦体勢になっている」
「楽出来るのはここまで、か…」
「もともと楽する予定も無かったんだ、これから本番だ」
ベルザス、サイエヌ二人で周りにあった空気を緊張感あるモノに変える。
「二番隊! 三番隊の力を残しておく為に、二階は俺らで押し通すぞ!」
「「了解!」」
第五天砦 二階
「……六人」
サイエヌが人数を呟く。
階段から二階に上がった第二部隊はクレイスの私兵六人に囲まれた形になった。
「小生がクレイス様の右腕、アルアンタグルでございます」
一歩前に出てきた一人のエルフ。
「本日は何用でこちらに?」
サイエヌも一歩前に出る。
「反乱軍、二番隊のサイエヌだ」
「反乱軍……」
アルアンタグルが顔をしかめる。
「あぁ、本日は第五天砦を攻略しに来た」
サイエヌがアルアンタグルに剣を向ける。
「向けられた剣には迎え撃つ剣を、小生の流儀になります」
「はっ、すんなり通してはくれないか!」
サイエヌのセリフを合図に囲んでいたエルフ達がこちらに襲いかかってくる。
「サイエヌ! こっちは任せろ!」
サイエヌの右側に急にベルザスが現れ、攻撃しようと剣を振りかざしていた敵エルフの攻撃を受け止める。
「ベルザス! なぜ!?」
「俺の! 部隊にいた金髪エルフの男はわかるか?」
「アイツか! アイツがどうした!?」
サイエヌが敵のエルフの魔法を避ける。
「アイツが……レイだ」
「……!!」
「ぐあああっ」
ベルザスが一人斬り倒す。
「そいつにクレイスを倒させるんだな?」
「そう、その通り!」
「わかった! 手伝おう! カンバー!」
「はっ!」
サイエヌの横に大柄のハーフエルフが現れる。
「お前はあの金髪男エルフを三階まで守りきってやれ!」
「了解」
「何話してるんですかぁぁ!!」
アルアンタグルが剣を振るう。
「こいつは俺に任せろ! さぁ!」
サイエヌがアルアンタグルの剣をいなす。
「残り5…」
「風魔法・突風斬!」
「ぬああっ!!」
突如、風の刃が起こり、敵エルフを切り裂き、倒す。
「4です、ベルザスさん」
ライがベルザスの後ろに現れる。
「ライか、助かる! 一気に決めるぞ!」
ベルザスは近くにいた敵兵に斬りかかり、ライは魔法を使い風の刃を相手に放つ。
「そっちの数が減ってきたぞ? どうするんだ?」
サイエヌがアルアンタグルに斬りかかる。
「氷魔封・霧霰!!」
アルアンタグルが叫びながら手をかざす。
その手から氷の粒がサイエヌに向かって降り注ぐ。
「ぐっ…!!」
サイエヌは後退するが氷の打撃を食らいい膝をつく。
「小生はエルフの端くれ、魔封くらい使いますよ」
余裕そうなセリフとは違いアルアンタグルの顔には焦りが見えている。
「サイエヌ! 大丈夫か?」
ベルザスとライがサイエヌの元に駆け寄る。
「後はお前だけだ!」
「降参、して欲しい」
ベルザスは剣を構え、ライは魔法を放つ用意をしている。
(ここまでか……)
「小生、生粋のエルフの戦士であり、クレイス様に忠誠を誓った身」
アルアンタグルがこちらに向かってくる
「……うおおお!!」
第五天砦 三階
「ここが……」
レイが三階に辿り着く。
この階層は空が見える、建物の屋上の様な作りになっており、そこに一人、仁王立ちしている者がいた。
「アルアンタグルは……敗れたのか」
物悲しそうな目をするエルフの男。
「俺は、レイ・クレーベーゲン」
「お前を倒しに来た!」
「私の名前はクレイス、第五天砦の砦長クレイスだ!!」
男が背中から武器を取り出す。
クレイスの武器はレイの胴体くらいの大きさの斧。
剣対剣の戦いの練習ばかりだったレイは、斧との戦い方はわからない。
(……やってやる!)
「はっはっは! その程度か!」
空が見える広間に二人の男が存在し、片方の男の高笑いが空に響く。
対して、地面に膝をつける金髪の男は、己の力不足を悔やむしか無かった。
「俺に……もっと力があれば……!!」
レイは斧を避けるので精一杯だった。
更に戦いの経験の差もあり、隙を突かれ斧で腹を突かれ膝をついてしまったのだ。
「もう終わりで良いかな?」
クレイスが斧を振り上げる。
「………くっ!!」
レイは悔やんだ。己の力不足を。
しかし斧が降り下ろされることは無かった。
ヒュー…と花火のあがる音に似た音が三階を包む、と思いきや何かが落下したのか派手な音と共に荷物の木箱の山に落下物が突っ込んでいた。
「……なんだ?」
クレイスは落下物の方を見る。
「痛たた……」
落下物の方から二人の人物が姿を見せる。
一人は肩当たりに切り揃えられた黒い髪の少年、もう一人は色白の肌に真っ白の髪、雪原の様な少女であった。
「…ん? なんだ…この状況?」
黒髪の少年が首を傾げる。
「君は、ここに何の用かね?」
クレイスが少年に問いかける。
「いやー、訳分からずここに着いちゃっただけで…」
「空からの来訪者なんて初めてだが、来るもの生かさずが妖精七区砦長の掟でね」
クレイスは斧を少年に向ける。
「はーっ……やらないとダメか…」
少年は一瞬溜め息をつくと、
「なら、こいよ」
クレイスを挑発する。
「…舐めるなああ!!」