第一章 復讐の邂逅-1
「はっはっは! その程度か!」
空が見える広間に二人の男が存在し、片方の男の高笑いが空に響く。
対して、地面に膝をつける金髪の男は、己の力不足を悔やむしか無かった。
「俺に……もっと力があれば……!!」
妖精七区と呼ばれる、国と呼ぶには小規模な、しかし都市と呼ぶには大規模な「街」がこの世界に存在していた。
この巨大な「街」は先の大戦で勝利を手にし、地位を手にした種族、エルフにより支配されている。
エルフは自らの種族を絶対とし、人間との間に産まれたハーフエルフを迫害する様になる。
大戦に負けた人間が姿を消すせいで、ハーフエルフの味方をする者は少数となり、地位による支配者と非支配者の立場を作ることとなる。
そしてハーフエルフは集められた。この「妖精七区」に。
ハーフエルフに重労働をさせ、エルフ達は比較的文明的生活をしていた。エルフの中には労働力である彼らを虐げ、強者の気分を味わう者もいた。
ハーフエルフ達は当然立場改善の嘆願書を妖精七区の上位層に見せに行った。
「……ふむ。」
短めの金髪をカチューシャで纏めているエルフが、玉座に座っている。
「これが、お主らハーフエルフの嘆願なわけだな?」
「はっ、その通りでございます!」
片膝をつき、嘆願書を出したハーフエルフ達はどのような返事がくるかと待機していた。
しかし、返事はハーフエルフ達の予想を裏切る酷いモノであった。
「そうか」
「このハーフエルフ達を捕らえろ」
「はっ!!」
「!? 何故です!?」
「おかしい! これはおかしい!!」
区長の近衛兵達に囲まれ、逃げ場を失うハーフエルフ達に、区長の無慈悲な言葉が投げつけられる。
「ハーフエルフなぞ、先の大戦で我等に楯突いた人間の血を引いているではないか!」
「そんな者を我等エルフが心配する必要がどこにある!」
「穢らわしい血を持つ貴様らは、奴隷、奴隷の価値しかないのだよ!!」
「………牢に放り込め」
「区長!」
「エルフがそんなに偉いのか!」
「好きでハーフエルフになったわけじゃないのに…」
嘆願書を出しに来たハーフエルフ達は全員近衛兵に連行され、広い空間にエルフただ一人となる。
そのエルフは嘆願書を破り捨てながら高笑いする。
「ハーフエルフごときが生意気な!」
「貴様らは生かされてるだけでも有りがたく思うべきなのに!」
「なんて不届きな種族なんだ!!」
「だから……」
「粛正のし甲斐が……ある……!!」
この日嘆願書を出しに来たハーフエルフ達は皆「死刑」となった。
罪状は「区長及びエルフへの謀叛」となっていた。
しかし、このハーフエルフ達の意思は、とあるエルフによって受け継がれるのであった。
青い短い髪の男性エルフ、スレイザーである。
妖精七区左補佐の地位にいた彼はハーフエルフ達の過酷な労働環境や、エルフによる差別を実際に目にしてきた。
彼はこのままでは良くないと思い、反乱軍を立ち上げることにした。
反乱軍を立ち上げるに辺り、彼の側近であるエルフのクラヴィス、労働組織のリーダーをしていた肉体派のハーフエルフ・コルヴムートが設立当初の反乱軍を支えた。
反乱軍は攻撃を起こすまでに何年という時間を使い、地道に土台を作っていった。
先ずは不当な扱いを受けていたハーフエルフ達の立場を少しずつ改善していくことから始まった。
そのお陰か、反乱軍の拠点である、廃墟街にはハーフエルフを虐げる者は他の街に比べ、格段と少なくなっていた。
元々廃墟街は生活する環境が劣悪な為、エルフとハーフエルフ、更に数は少ないが人間とも協力して生活をする様になっていた。
月日を重ねながら反乱軍は訓練を積み、区長が率いる兵隊達に劣らぬ戦いが出来るとコルヴムートが判断し、近々砦を攻めようという計画される。
そこで廃墟街を監視する役目を持つ妖精七区第五天砦を襲撃するということになった。
「コルヴムートさん! 俺を、俺を連れてってください!」
肩までの金髪を震わせてハーフエルフの少年がコルヴムートに頼み込む。
「レイ…か…」
レイ・クレーベーゲン。
三年前に反乱軍に妹と共に参加したハーフエルフの少年。
エルフの母親を区長の私兵に殺されたらしく、区長への復讐に燃えている、若く熱い少年。
「俺は、この三年で戦える力を手に入れました! 剣ならこの反乱軍でも上位の腕だ!」
「危険なんだぞ? 良いのか?」
コルヴムートが確認をとろうとするとすぐに返事が返ってくる。
「ライだって反乱軍の一員だ、俺が戦うのに文句は言わない!」
コルヴムートにはレイの強い思いを蹴ることは難しく、
「……わかった。レイの参加を許可しよう」
「ありがとうございます! コルヴムートさん!」
参加を許可されたことで喜ぶ少年には後に起こる厳しい戦いを想像することは容易ではなかった。