表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/59

第四章 通う心と不思議な霧(第二部)

 気まずい沈黙を破ろうとして、セレンは口を開いた。

「あの」

「何」

「ええ……と」

「何も用が無いなら話しかけないで」

「……はい」


 水を汲みに行ったニリウスがなかなか戻ってこないので、クィーゼルはニリウスの様子を見に行った。

 結果、セレンとシャルローナの二人だけが野宿場所に残されたのだ。


(……どうしよう)

 この状況に、セレンは頭を抱えていた。

 生まれて十一年。母の従妹にあたるシャルローナとは、何度も会ってきた。


 しかしそれは、それぞれの親達と共にであったし、しかも言葉を交わす事はほとんど無かった。


(姉様なら)

 もしも残されたのが姉と自分であったなら、こんなに悩むことは無かっただろう。

 姉はこんな時は多分、何か面白い話をしてくれる。


 けれど、姉とシャルローナは違いすぎる、とセレンは思った。

 姉であれば、喜怒哀楽の感情が分かる。しかしシャルローナが見せる表情は、ほとんど不機嫌な表情ばかりだ。


「あの……シャルローナ様」

「貴方には言ってなかったわね。この旅では私とスウィングの事、呼び捨てにしてもらって結構よ」

 シャルローナは視線すら合わせようとしない。


「え、でも」

「嫌なら帰りなさい」

「は、はい、シ……シャルローナ……」

「何?」

「いつも、お綺麗ですね」


 途端、シャルローナの眉の間のしわが増える。

 そしてようやく、彼女は自分の方を見た。

「ありがとう。けれどね。全ての女性がその言葉で喜ぶなんて思うのは大間違いよ。勉強し直していらっしゃい」


(いや、別に喜ばせるためじゃなくて、素直に思った事を言っただけなんだけど……)

 どうして、作り笑いすら浮かべてくれないんだろう。

 セレンは気付かれないように、小さく溜息をついた。



   ☆☆☆



 シャルローナは、黙り込んでしまったセレンに(きつく言い過ぎたかしら)と思っていた。

「セレン・ド・グリーシュ」

「は、はいっ」

「お母様のご容態はいかがなの?」


 セレンの顔に暗い影が落ちる。

 それに気付いたシャルローナは、聞いてはいけない事を聞いたのかもしれない、と少しだけ反省した。


「母様は、最近よく外に出られるようになりました」

「じゃあ、病気の方はもうすぐお治りに……」

「いいえ!」


 とっさに大きな声を出してしまった自分を恥じるように、一瞬だけセレンは沈黙した。

「母様は強気に振舞っていますが、病気は……」

 セレンは必死で泣き出すのをこらえた。


「何かあったの?」と、喉元まで来た問いを、シャルローナは飲み込んだ。

 尋ねてはいけない事のように思えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ