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第四章 通う心と不思議な霧(第一部)

「少しまずいかもな。」



 眉をひそめてクィーゼルが呟く。



「ああ、霧が濃くなってきてる。日が沈んだら動かねえ方がいいぞ、嬢さんたち。」とニリウス。


「どこか開けた所に出たら、そこで休もうか、シャルル?」



 スウィングの言葉に、シャルローナは首を横に振った。



「いいえ。ここまで来て取りのがしたくないの。進むわ。」


「今はまだいいけどよ、姫。夜になったら何も見えないぜ、多分。」



 クィーゼルの意見は正しかった。


 太陽の光が弱まるにつれ、視界はだんだん狭くなっていき、シャルローナはやむを得ず足を止めた。


 近くに水の流れる音がする。



「ここで休みましょう。仕方がないわ。」



 ため息をついてそういうと、シャルローナはニリウスとクィーゼルを見た。



「はいよ。野宿する準備だろ?」


「そんじゃあ、クィーゼルは火をおこしてくれ。俺は布を敷いて水を汲んでくる。」


「ああ。」



 二人がせっせと野宿の準備をし始める中、スウィングは傍らに居る金髪の少女を見た。



「エルレア。体力は残ってる?」


「まだ大丈夫だが……何だ?」



スウィングは意味ありげに笑う。



「願い事、叶えてあげるよ。」



 二人のやりとりに、シャルローナが振り向く。



「スウィング。まさか貴方、これからエルレアに扇術を教えるつもり?」


「心配ないよシャルル。あまり皆から離れないから。行こう。」



 何気ない仕草でスウィングはエルレアの手を取り、森の奥へと入っていった。


 二人の背中を見つめる赤い髪の少女の瞳に、わずかに浮かんだ寂しげな色。


 しかしそれは、誰にも気付かれないまま消えた。





                  ☆





「この扇は……やっぱり強度が低いな。扇術には専用の扇があるから、興味があったら見てみるといいよ。普通の扇よりも骨がしっかりしていて、慣れれば扱いやすい。少し重いけどね。」


「聞いてもいいか? スウィング。」



 スウィングから扇を受け取りながら、エルレアは首を傾げた。



「普通、扇というものは婦人が使用するものだと思うのだが……スウィングは何故扇術を知ってるんだ?」


「ああ……小さい頃、まだ木剣を扱う腕力も無かった頃にね、母上から習ったんだ。」


「皇妃殿下が?」


「そう。皇族の女性は、扇術を叩き込まれて育つから。」



 スウィングの母、シルキー皇妃は、気が強い女性と聞いたことがある。


 銀の髪、銀の瞳。女神のように神秘的な容姿とは裏腹に気丈な女性だと、昔養母であるハーモニアが話していた。



「シャルルもああ見えて、扇術はなかなか強いよ。」



 では、シャルルから習ったほうがいいのでは。そんなエルレアの考えを読んだように、スウィングは付け加えた。



「実際、襲ってくる連中の武器は剣である事が多いからね。指導する人間は剣も使えたほうが良いんだ。」



 スウィングは、茂みの中からまっすぐな木の棒を探し出すと、表面についた葉や土をはたき落とした。



「今は練習だからこれを使うね。扇を右手に持って。」



 指示された通りにエルレアが構えると、スウィングは扇の先に木の棒を当て、剣術の構えを取った。



「本当は、構えには時間をかけなきゃいけないんだけど、時間がないから実践練習中心で行くよ。できるだけ手加減はするから、僕の攻撃を防いでみて。」



 そう言うと、スウィングはあらゆる感情を顔から消した。

 

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