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第二十章 求めるもの(第三部)

 マリアに視線を合わせるように膝をついたシンフォニーは 「嫌でしたか?」と、囁くように尋ねた。


 混乱が収まらないマリアは、青ざめた顔で

「……父と母のお墓の前で……」と呟く。

「だからですよ」とシンフォニーは言った。


「これで公認ですね。いつでも本物の夫婦になれます」

 冗談か本気か分からないようなシンフォニーの言葉。

 その声や顔からは、彼の真意は読み取れない。


「……お願いがあります」

 急にシンフォニーは真剣な声音になった。

「ここでしばらく、シャルルの面倒を見ていただけませんか?」

 マリアは耳を疑った。


「シンフォニー様……それじゃあ」

「ほら。帰る家があるほうが嬉しいじゃないですか」


「私は、シンフォニー様について行きたいです! 私なら、まだシンフォニー様のお力になれるかもしれない。お傍に置いてください!」


「マリア。貴女は私にとって大切な人です。貴女が待っていてくれると思えば、私もここへ帰るために頑張れます」


 もしかすると、シンフォニーが自分をここへ置いていこうとしているのは昼間のシャルローナのときと似た理由なのかもしれない。

 それでも、従いたくなかった。


 例の島は、オルヴェルとセインティアの間に浮かぶ島。

 どんな危険があるか分からないのだ。

 自分の能力がセインティア人の母譲りの物だとすれば、同じような能力者たちがセインティアにはゴロゴロ居るのかもしれない。


 不思議な力があるという島。その島の住人がセインティア人である可能性はある。

「ただ待ってなんていられません!」

「お願いです。聞いてもらえないのなら、口づけ以上の事をしてしまいますよ?」


「……は?」

 いきなりずれた話に、マリアはぽかんと口を開けてしまった。

「私を嫌いになってしまえば、貴女もついてこようとは思わないでしょうから。貴女に嫌われるために、あーんなことやこーんなこと、何でもしちゃいます」


「はあ」

 『信じてませんね?』とでも言うように笑んで、シンフォニーはマリアを抱き寄せた。

 マリアはそのまま顎をつかまれ、強引に上を向かされる。


 深い海の色の瞳は、光が少なければ漆黒に見える。その瞳に、自分の困惑した顔が映っていた。

 彼の長い指は、何かをそそるようにマリアの唇をなぞると、頬をかすめ耳の後ろから鎖骨の辺りまでゆっくりと辿っていく。


 さっきの熱っぽい瞳とは明らかに違う、鋭さを帯びた瞳から目が離せない。

 怖いのに、逃げ出したいのに、そうしたくない自分がいた。


 まるで、いけない存在に魅入られてしまったかのようだ。

 この人は、誰?

 悪寒がした。


 だがそこで、シンフォニーはマリアからパッと手を離した。

「ね?」

 普段通りのおっとりした声で呼びかけられ、マリアは夢から醒めたように瞬きを何度かした。


「ここで待っていてください」

 先ほどとはまた打って変わって、優しく子供に言い聞かせるように言われると、マリアはコクンと頷く事しかできなかった。

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