表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/59

第七章 貴女を想っていた(第三部)

 シャルローナは、笑顔を浮かべたままのシンフォニーを見据えた。

「まず、お聞きしたいわ」

 スッ、と息を吸うシャルローナ。


「どうしてなの。お兄様」

「懐かしい呼び方ですね、シャルル」

「よろしいでしょう? どうせここに居るのは私達だけよ」


“お兄様”

 それは、シャルローナがシンフォニーと婚約する前、彼を呼ぶ際に使っていた呼び名である。

「お兄様。どうして?」


 シャルローナは繰り返した。

「どうしてだと思いますか?」

 シンフォニーは問い返す。


「私との婚約がそんなに嫌なら、嫌だとはっきりおっしゃればよかったでしょう。皇宮から逃げ出したりしなくても、私は婚約を解消して差し上げました」


 シャルローナは、低い声音で答える。

 まるで、湧き上がる怒りを理性で必死に押さえ込んでいるような声だった。


「そうですね。きっと貴女は、たやすく私との婚約など解消するでしょう」

「どういう意味ですか」


 シンフォニーの表情から笑みが消える。

 月夜の海のような紺色の瞳が、シャルローナをとらえた。

「貴女の“そういう”人は、他にいますから」


 シャルローナは瞳を見開いて口をつぐんだ。

「私の元では、貴女は幸せになれない」

 シンフォニーは続ける。

 その言葉を聞いて、シャルローナは歪んだ笑みを浮かべた。

 整いすぎた顔立ちでは、そんな表情さえも美しい。


「“幸せ”? 幸せになるための婚姻など、そもそも私達にはありえませんわ。お兄様だってご存知でしょう? 皇族として生まれてきた以上、仕方のない事です」


 たとえ他に想い人が居ようとも、自分を殺し、心を殺し、国に尽くし皇帝に従うのが皇族の人間の宿命。

「これを覚えていらっしゃいますか?」


 シャルローナが取り出したのは一通の手紙。

 封の切られていないそれは、シンフォニーが姿を消す前にシャルローナに残した手紙だった。


「書いてある内容など、読まなくても分かります。これが私の望みだとお考えなら」

 シャルローナは、シンフォニーの目の前で手紙を破り捨てる。


「お兄様は大変な勘違いをなさってますわ」

 風がさらっていく紙片を目で追った後、シンフォニーはため息をついた。

「勘違いは貴女の方ですよ、シャルル」


「私が……? 教えていただきたいですわ。私が何を勘違いしていると?」


「何もかもですよ。皇宮を出て、ここに辿り着くまでに様々な事があったでしょう。皇帝の庇護の中では体験できない事もあったはずです。それでも貴女は気付かなかったんですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ