第七章 貴女を想っていた(第一部)
「で。こいつどこに居たと思うよ? 森の入り口だぜ! 呆れるわムカツクわで」
マリアに入れてもらったハーブティーを、それでも最低限の作法でもって飲み干すと、クィーゼルはこれまでの経緯をその場に居た人間に話した。
ニリウスがフォローのつもりで言葉を挟む。
「いや、別に来た道を戻ったつもりはなかったんだけどよ。気付いたら森の外に出ちまったんだ。姫さん達の所に戻ろうと思って何度も奥の方に進んでみたんだが、決まって外に出ちまうから、どうしようか考え込んでるときだったんだ。何かの雄たけびみたいな声が聞こえたのは」
「雄たけび?」
エルレアが記憶をたどるように、指をあごの下に当てる。
「俺はてっきり、この森にはまだ未開の類人猿とかが暮らしてんのかと思ったぞ」
「誰が未開の類人猿だって?」
ジロ、とクィーゼルに睨まれ、ニリウスは一瞬おびえる。
「とにかく、あとは姫とセレン坊だな。迎えにいくか? お嬢」
「いや、その必要はないだろう」
ここでエルレアは、扉の方を見る。
スウィングはエルレアより早く、外の変化に気付いていた。
「もう来ている」
エルレアの言葉が合図のように、ハキハキとして美しい声が響いた。
「誰か、いらっしゃいませんか?」
マリアが恐る恐る扉を開くと、そこに佇んでいたのは大輪の薔薇のように艶やかな美貌。
何人も侵すことを許されぬ気高さを纏った少女だった。