8. -2 帰国
無事、飛行機が日本に到着した。
なんとなく、僕は席でゆっくりしていた。
多くの客が過ぎ去ってからのんびりと立ち上がり、遠い国での仕事の日々と飛行機に別れを告げ、日本に降り立った。
人々が整然と無駄なく素早く動いている。
早すぎるほどに感じる。
荷物を受け取ったとたんに、日本のテンポになって足早に過ぎていく人たち。
僕はそれに違和感を持つほど、自分の感覚が変化していることに気が付いて驚いた。
大きなスーツケースを受け取ると、足早に過ぎる人たちの邪魔にならないように端の方を歩き進んだ。
ゲートを出ると賑やかな人々の声や音がわっと耳に入ってくる。
思わず僕は立ち止った。それからゆっくり辺りを見回す。
「さて、どうやって帰ろうかな。」
荷物が大きいので、なるべく持ち歩きたくない。
僕はバスの発着所へ歩き出そうとすると、誰かに肩を叩かれた。
驚いて顔を向けると、サングラスをした女性が立っている。
一瞬僕は姫かと思ってしまったが、背格好が違った。しかし、見覚えがある。
「穂積さんですか?」
その女性が問いかけた。
「あ、あなたは確か・・・・マネージャさん?」
彼女は頷くと、僕の腕を取って「ついて来て下さい。」と言った。
僕はとたんに鼓動が早まり、緊張した。
黙って足早な彼女の後に続く。
彼女は駐車場へ向かった。
比較的車の少ない階の、エレベーターからも一番遠い場所に白いワンボックスカーが停まっている。
僕はますます緊張して、手の汗をぬぐった。
この車の中に姫がいる。
マネージャが車のスライドドアを開けた。
僕が荷物を持って乗り込もうとすると、彼女はそれを止めて「大きい荷物だ
け預かります。先に行ってますから。」と言って僕のスーツケースだけを車に入れ、さっさとドアを閉めてしまった。
「後はくれぐれもよろしく。」
そしてマネージャはワンボックスに乗り込み走り去ってしまった。
そして――――――。
ワンボックスの陰から現れたのは、紺色のポルシェだった。