6. -4 忙殺の日々 in Japan
夜中にロケを終えて控室に戻り、大まかにメイクを落とすと手早く着替えて部屋を出る。
「もう眠くて倒れそう」
宮鷹ユウはあくびを噛み殺しながら、マネージャとともに車へ向かった。
「相変わらず子供みたいねぇ」
「大人も子供も関係ないよ、もともと夜が苦手なの。」
白いワンボックスの後部座席に乗り込むと、今度は遠慮せず大あくびをしながら言った。
ユウは子供の頃から朝が強く、夜は日付が変わるころには限界になってしまう体質だ。
「撮影が夜中になることも多いんだから、目が座ってくるのはどうにかしないといけないわよ。」
「そうだけどさぁー、今日は待ちが多かったなぁ。」
「その間に仮眠しておけばよかったのに。」
「うーん。」
ユウは曖昧に答えながら、バッグからケータイを取り出して着信などをチェックした。
友達からのメールが数件と、誰かの着信と、留守電。
着信番号を確認すると『通知不可能』だった。
これはきっと海外にいる穂積さんからだ。
ユウは留守電を確認した。
やけに聞き取りにくい声が入っている。
「何なの?」
ユウは再度確認した。
「酔っぱらってるのかな」
気を付けて聞いていると、声は帰国日を告げていた。フライトも。
ユウはすぐにスケジュールを確認した。
「ねぇ、2月23日だけど、取材は24日のオフと変更できないかな?」
「え?なんで急に。」
マネージャがミラー越しに尋ねる。
ユウは素直に言った。
「あの人が、帰国するの。」
マネージャとミラーで視線を合わせる。
ユウはマネージャに絶対の信頼を置いていた。だからこそ、隠したくはなかった。
マネージャは溜息をついて小さく首を振った。
ユウは人気が出ても、いつもマイペースで大らかでどこか無邪気で、この世界の人間と本心でやっていく感じではない。うまくオン、オフを切り替えているというのか、仕事としての宮鷹ユウになることが上手だった。
その代り、友人などは今までの学友などが多く、同じ世界の人間とはあまり接触しない。
そろそろ、仲のいい女友達くらい見つけてほしいと思っていたのだが、それより先に一般人に恋してしまうとは。しかもひと回りも年上だ。
でも、ユウが相手がどこの誰だということは気にしないタイプであることは良く分っている。
「お隣の人だっけ?」
マネージャは確認した。
ユウが頷く。
何度か、相談に乗ってもらい、助けてもらったと聞いている。
とても紳士的で真面目そうな人だとか。
ユウはその人のことを「笑うとえくぼができて可愛い」なんて言っていたような。
しかし、相手がユウをどう思っているのかはわからない。
仕事で海外へ行くことになっても、連絡先を教えなかったようだし。
多分、まだユウの片思いだ。
ダメになるなら早い方がいい。
「ユウ、忙しいのに急に車の免許を取りに通っていたのは、もしかしてその人の帰国に合わせようとしたの?」
「そう。」ユウは照れくさそうに笑った。
「頑張って、空港に迎えに行きたいって思ってる。」
「迎えにって、車は?」
「それが、また一つお願いがあって。」
「面倒なことじゃないでしょうねぇ。」
「メンドーというか、命の危険が・・・。」
「はい?」