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CANDY  作者: MIZUKI
13/22

6.-1 忙殺の日々

客先工場へ出向いた初日から、想像以上の問題の多さに、文字通り僕は頭を抱えて走り回ることになった。


まず、全く話が通じない。英語を話せないのか、こちらを馬鹿にしているのか、会話をしようとしてくれない。その上、通訳としても働いてもらうつもりだった自分の会社の現地人スタッフが現れない。

客先の工場なのですぐにパソコンをつなげることができない。


ホテルに戻ってパソコンで日本と連絡し、日本からここの現地事務所に話を付けてもらい、それから自分が現地事務所に出向いて、ようやく担当営業と技術サービス部と日本人スタッフに顔合わせすることができた。

しかし、このプロジェクトは何かと面倒なことがあったらしく、誰もが何かと理由を付けて逃げようとしていた。


一応、まとめ役のグループ本社の僕としては、絶対に現地人スタッフの技術者は捉まえなければならない。

人選がなんとか決まり、さて工場での仕事を始めようと思いきや、いきなり決めた人間が工場に来ていない。

翌日から僕は彼の自宅まで迎えに行くところから始めることになった。


そんな、日本では考えられないような出来事に振り回され、姫のことなど思い出す余裕は全くない日々に追われていた。

夜、ホテルに戻っても会社への報告メールもままならず、ベッドに倒れ込む日も多かった。


トラブルがあれば工場が止まっている休日に何とかしなければならない。

そして休日は自分しかいない。どうしても足りないときは現地の日本人スタッフに頼み込んだが、技術畑ではないので出来ることは限られた。


季節はあっという間に過ぎ、日本では紅葉が美しい季節の頃だった。

僕はホテルの部屋で高熱を出し、寝込んでいた。

正確には、気づいたら動けない状態になっていたのだ。

電話に手を伸ばすことも出来ず、体に力が入らず、息をするのも苦しく、ベッドに拘束されていた。

このまま動けなかったらどうしようか。非常用ベルは遠いし。ホテルのトイレにある非常ボタンを思い出して朦朧とした頭で考えていた。


翌日、日が高くなったころにふと目を覚ますと、そこには現地事務所の日本人所長と、スタッフが立っていた。

「目を覚ましたか、大丈夫か?いつからこんな状態なんだ。」

朦朧とする頭で色々と思い出そうとするが、高熱で割れるように頭が痛むばかりで声が出せない。


「山下君、とりあえず病院へ連れて行った方がいい。私の車で運ぶから準備してくれ。」

所長に指示された日本人営業のスタッフは、僕の鞄から財布やパスポート、着替えなどを集めて簡単に荷造りした。


二人はホテルの従業員とともに僕を担いで所長のセダンの後部座席に何とか乗せた。そして大きな病院へと向かったようだ。次に気が付いたときには、僕は病室で点滴を打たれていた。


3日間入院して、再び所長に迎えに来てもらい退院することになった。

明らかに過労によって風邪をこじらせた僕のことが日本の本社に伝わり、仕事に復帰してみると、スタッフが増えていた。

日本人と現地人、これまでの二人から倍の4人になり、かなりの戦力になった。同時に、僕が倒れたことを知った客先の人たちの態度がずいぶんと柔らかくなった。

おかげでそれまでとは打って変わって仕事がスムーズになり、僕はようやく肩の力を抜くことができた。



ある日、寒くなってきたので明日からは厚めの上着を着ようと、荷物を開けて整理をしていた。

畳み皺のついた服をハンガーにかけて形を整えていると、ポケットから紙のクシャッという音がした。

両方のポケットから小さなメモが出てきた。広げて、僕は笑ってしまった。同時に一気に懐かしさがこみあげてくる。


そのメモには同じケータイの番号が書かれていた。一つは姫が入れたもの、もう一つは多分、弟の卓也君が入れたものだ。

「姫も頑張っているかな。」

姫の声を聞きたくなったが、僕はそれは次に辛くなった時にすることにして、今は二つのメモをお守り代わりに手帳に入れて持ち歩くことで、満足することにした。

そのまま、なんとかそのメモの力に頼ることなく、僕はそのままこの場所で年末年始を迎えることになった。


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