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CANDY  作者: MIZUKI
12/22

5.-4 現実逃避

姫は再び怒ったような顔をしていた。

「穂積さん。」

「はい。」

「約束してください、もう二度と会わないなんて絶対言わないって。」

「そんなこと言ってないじゃないですか、隣人なら会うこともあるし。」

「はぐらかさないで。」

「・・・はい。」

「約束してください。それから、帰国するときには連絡ください。」

これを約束したら、僕が海外で頭を冷やす意味がなくなる。

「もう時間がないんです、仕事に行かないと。」

姫は時計を見て言った。

「お願いだから、二度と会わないなんて言わないでください!」

姫は怒った顔から一気に泣き顔に変わっていった。

いや、始めから泣くのを我慢しているのが怒った顔になっていたのかもしれない。

僕は手を伸ばし、姫の濡れた頬を指で拭った。

「仕事の前に泣いたらまずいですよ。」

「そんなのどうだっていい!」

姫は僕の手を払い、涙をぼろぼろ流しながら言った。

「もう会わないって言わないって約束して。」


僕は再び涙を拭うつもりで腕を伸ばした。

同時に姫は一歩前に足を出した。

トンッと、姫が僕の胸に額をつけた。

僕は、それを引き離せず、ただ突っ立っていた。


「僕は大事な人じゃなくて、ただの隣のおせっかい焼きですよ。」

僕は姫に確認するように、自分を納得させるように言った。

「大事だって気がついたの。」

「・・・・気のせいです。」

「約束して。」

僕の言葉を無視して、姫が顔を上げた。

涙をためた姫の小さな顔が、真下から僕を見る。

僕は今どんな表情で姫を見ているのだろうか。

甘酸っぱいキャンディを包みから出してしまいそうな、本当の気持ちを言う訳にはいかない苦しさを抱えている僕は、それを顔に出してしまっているのだろうか。


「姫はわがままですね。」

僕はとりあえずこの場だけでも誤魔化すことに徹する。

「約束、しますよ。もう会わないなんていいません。」

「本当?」

姫の泣き顔がぱぁっと明るくなってくる。

「でも、口だけとか・・・・。」

そしてまた不安そうになる。

「約束します。帰る時には連絡します。」

きっと、時間がたてばそんな約束も姫の中では大した意味をなさなくなるはず。

「ほんと?」

姫は僕から体を離すと、満足したようにまだ泣き止まない目で笑ってみせた。


「じゃあ、仕事に行かなくちゃ。本当に約束ですよ。帰ってきたら私、びっくりされるくらい成長できるように頑張りますから!お見送りできないけど、穂積さんも頑張ってきてくださいね。」

自分でガレージのドアを開けて姫は外に出た。

僕も一緒に外に出る。

姫は2,3歩歩いたかと思うとくるりと振り返って駆け寄り、僕に飛びついた。

「わわっ」

「私のこと、たまには思い出してくださいね。」

首に抱きついている姫が耳元でささやいた。

「そうですね、疲れたら酔っぱらったおもしろい姫を思い出して頑張りますよ。」

「なにそれ!」

姫がしがみつく腕に力を込めた。

それにつられるように、僕はつい、いや、とうとうと言った方が正しいかもしれない。

とうとう、姫の背中に腕を回して抱きしめてしまった。

でも、これもきっと姫は忘れてしまう一瞬の出来事だから。

だから、僕のささやかな思い出に・・・。

これが最後だからと自分に言い訳した。

数秒後、姫がぱっと体を離して意味深な笑顔を見せた。

「じゃあ!」

元気に言うと、姫は小走りに自宅に戻っていった。


「穂積さん!」

何か言いたげないたずらっぽい姫の笑顔の意味を考える暇もなく、僕は弟の卓也君に呼ばれてガレージに戻った。


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