時間牢 後編
千代美は少しずつ意識が回復してきてやがて目が覚めた。
意識はあるが少し頭が痛い。二日酔いの時ほどではないが頭全体にボンヤリと痛みが広がっている。身体もなんとなく全体が重く感じる。
ボンヤリと記憶をたどってみた。
「被告人を禁固5年に処する。但し収監場所はジカンロウとする。」と低く太い裁判官の声が頭の中によみがえってきた。
「ここがジカンロウ?」千代美の心がつぶやいた。生まれて初めて聞いた言葉だったから。どんな所なのか全く見当も付かない。
収監日が決まり、弁護士に 「ジカンロウってどんな施設なの?」と尋ねてみたが弁護士も詳しくは分からないようだった。
弁護士がメモ帳を取り出して書いた文字が「時間牢」だった。
分からないと言うより話したくなさそうな素振りが気に掛かった。不安そうな顔が思い出された。
誰にもどうすることも出来ない。行かなければならないのだからやむを得ないわね。そう自分に言い聞かせ心を落ち着けた。
いよいよその当日の朝、刑務官が茶色の封筒を持ってきた。
「佐々木千代美様」とだけ印刷されていた。中には冊子が入っているようだ。
「これ読んでください。今読みたくなかったら向こうへ持って行ってから読んでも構いません。」
ただそれだけだった。「向こうへ・・・」という言葉が気がかりだったが意識しないように努めた。
それからおおよそ1時間ほどかけて、旅行に出かける前のように荷造りなどしながら準備をした。まもなく刑務官がやってきて睡眠薬で眠らされたのだった。
そして気がつけば今ココにいる。千代美はまだ横たわったままだ。
向かって左の方から淡い光が線のように差し込んでいるカーテンの隙間だろう。
千代美はゆっくり身体を起こし、明るい方へ歩いて行った。
カーテンを少しだけ開けて隙間から外を眺めた。
いきなり眩しい光が目に入り右手を額の前にかざした。
目が光りに慣れてきたのでカーテンを全開にして窓から見える景色を眺めた。
眼下には商店街のような街並み、その先には果樹園など、遠くの方には山並みが見えた。
高い塀の囲まれた、刑務所をイメージしていた千代美には意外な景色だった。
ひとしきり外を眺めた後振り返って室内を見回した。
淡いクリーム色の壁に囲まれてビジネスホテルのような作りの簡素な部屋だ。
シングルベッドが一台と小さなテーブルと椅子のセットが一つあるだけだ。
照明はない。空調設備もなさそうだ。
千代美は心細くなった。刑務所とは、こうも殺風景な場所なのか、思わずため息がもれる。




