第28話:まだ時間はある
「レア、どうしてあなたはそんなに強いのよ!どうして私はあなたに勝てないの?一体どんな稽古をしているのよ!」
今日もレアに負けた私は、いつもの様にレアに迫る。そんな私に
「レイリスも十分強いよ。でも僕は男だし、ちょっと特殊な力を持っているから」
ちょっと特殊な力?
「あなた、そんな力を持っているの?それは一体…」
「レイリス、そろそろお茶の時間だね。父上が異国で珍しいお菓子を見つけて来たみたいだから、一緒に食べよう」
「異国のお菓子ですって!すぐに頂きましょう」
レアのお屋敷に通い始めて早2ヶ月。既に我が家の様に過ごしている。最初はレアの事を鬱陶しいと思っていたが、特に私に干渉をする事もなく、文句も言わないレアの傍にいる事を、苦痛に感じる事もない。
というよりも、毎日一緒にいすぎて、レアがいるのが当たり前になりつつある。
「レア、今日は中庭でお茶をしましょう。キンモクセイの前がいいわね。今ちょうど花が咲いていて、いい香りがするから」
「そうだね、それじゃあ、あそこでお茶をしよう。行こうか」
私の手をスッと握るレア。ちょっと、私の手を気安く触らないでほしいわ、少し前の私ならそう思っていたが、今は何とも思わなくなった。むしろ、レアの手を握ると、なんだか心地よい気持ちになるのだ。
心が穏やかになるというか、ホッとするというか…
本当に私、どうしてしまったのかしら?
「レイリスもすっかり公爵家に慣れて来た様だし、そろそろ僕との婚約も真剣に考えて欲しいな。来月には王太子でもあるジョブレスの婚約者選びも本格的に始まるし」
不安そうな顔で、レアが話しかけてきたのだ。確かにこの2ヶ月、楽しかった。夫人も公爵も私に優しいし、レアにも不満はないのだが…
「そうね、でもまだ期間はあるでしょう?そんなに急がなくても大丈夫よ。さあ、お菓子にしましょう。公爵殿が持ってきてくださるお菓子は、本当に美味しいのよね」
「そうだね、まだ時間はあるのに、焦ってしまってすまなかった。さあ、お菓子を食べよう」
少し悲しそうな顔で、私にお菓子を勧めてくれたレア。その顔を見た時、なんだか胸がチクリと痛んだ。
とはいえ、まだ時間があるのだから、そんなに焦らなくても大丈夫だ。
それになにより、レアに勝てていないのよね。このまま負け続けている状況で婚約するのは、癪に障るのだ。
正直自分の中でどうするべきなのか分かっているが、どうしてもまだ、行動に移せないのだ。もう少しだけ、レアをやきもきさせておきたいという、私の悪い心が働く。
そんな気持ちを打ち消すかのように、お菓子を口にした。
「このお菓子も美味しいわ。やっぱり公爵殿が取り寄せてくれるお菓子は、最高ね」
今は面倒な事を忘れて、お菓子を楽しもう。そう思い、次々とお菓子を食べている時だった。
急に胸が苦しくなったのだ。
あまりの苦しさに、その場にうずくまる。
「レイリス、どうしたのだい?胸が苦しいのかい?」
慌てて私の元に駆け寄って来るレア。苦しむ私をレアが抱きかかえた時、すっと痛みが治まったのだ。
「大丈夫よ。急に胸が苦しくなったのだけれど、すぐに落ち着いたわ。慌てて食べたから、もしかしたら喉にお菓子が詰まってしまったのかもしれないわね」
「それならいいのだけれど、心配だから一度医者に診てもらおう」
何ですって?医者ですって?そんなのは嫌よ。
「医者は嫌…」
「ごめんね、レイリス、君の体調が悪い事に気が付かないだなんて、僕は本当にダメな男だね。すぐに医者の準備をしてくれ」
私の言葉を遮り、小走りで部屋に戻るレア。
「ちょっとレア、私は本当に…」
「もしレイリスが大病に掛かっていたらどうしよう。もしレイリスを失ったら僕は…」
今にも泣きそうな顔をしているレア。ちょっと、そんなに心配しないでよ。そんな顔をされたら、医者は嫌だなんて言えないじゃない。
その後レアに何も言えなくなった私は医者の診察を受けたが、特に異常がないとの事で、喉に食べ物を詰まらせたのだろうという結論に至ったのだった。




