第26話:街に出掛けます
「レイリス、今日は街に行こう」
レアと再会して早1ヶ月。毎日公爵家で快適な生活を送っている私に、嬉しそうに話しかけてきたのはレアだ。
彼を始め、公爵家の人間は私に大甘で、私のやることなす事、全て褒めちぎってくれるのだ。伯爵家にいた時は、両親は私に諦めていたとはいえ、多少小言を言ってくることもあった事を考えると、どう考えてもここでの生活の方が快適だ。
その上、美味しいお菓子やお料理、さらにマッサージと言う至福の時間。まさに私が求めていたパラダイスそのもの。
ただ…
まだ剣で一度もレアに勝てていないことが、不満でならない。やっぱりレアと婚約を結ぶのなら、正式に剣で勝って、私の方が上だと知らしめてからにしないと!
「レイリス、大丈夫かい?最近ボーっとしている時が多いけれど」
心配そうに私の顔を覗き込んできたレア。
「ちょっと、急に顔を近づけないでよ。びっくりするじゃない!別にボーっとなんてしていないわ。街に出るのだったわね。すぐに準備をするから、待っていて」
確かに最近、頭がボーっとする事が増えた。もしかしてあまりにもぐうたらして過ごしていたから、体がなまってしまったのかしら?とにかく今は、街に行く準備をしないと。
とはいえ、夫人と一緒にデザインした服をものすごく気に入っているし、とてもおしゃれなデザインなので、このまま外に出ても問題ないだろう。
結局何も準備せずに、レアの元に向かう。
「あれ?着替えてこなかったのかい?まあ、レイリスは何を着ても可愛いからね。さあ、行こうか」
ボロボロの服に着替えたレアと一緒に、馬車に乗り込んだ。
「やっぱあなた、レアなのね。その格好とその髪色を見ると、昔を思い出すわ」
そうよ、レアはやっぱり、こうじゃなくっちゃ。そういえば最近、街に出ていなかったわね。定期的に連絡は取っていたけれど、皆元気かしら?
街の外れの路地につくと、2人で馬車から降りる。
すると
「レア様、お待ちしておりました。あれ?隣にいらっしゃる方は、まさかイリ様ですか?お久しぶりです。まさかイリ様に会えるだなんて」
懐かしい顔たちが、私たちを出迎えてくれた。中には見た事のない顔も何人かいる。
「皆、集まってくれてありがとう。どうだい?仕事は順調かい?何か困ったことがあったら、何でも話してくれ」
「レア様のお陰で、仕事も順調です。イリ様がいなくなって、一時はどうなる事かと思いましたが、レア様がしっかりイリ様の意思を引き継いでくださって…」
「ちょっと待って!レアがあの後、皆をまとめてくれたの?」
「ええ、そうですよ。イリ様がいなくなった後、レア様がイリ様の後を引き継いでくださって。俺たちも今では善良な市民になりましたよ」
「おい、善良な市民は言い過ぎだろう。でも、レア様のお陰で、荒くれ者たちは改心し、今では皆真面目に働いていますよ。それもこれも全部、レア様とイリ様のお陰です。おい、彼女が伝説のお方、イリ様だぞ」
「このお方が、イリ様ですか。見る限り普通の女性かと…」
「バカ、この方は恐ろしいほど強いのだぞ。お前なんて瞬殺で倒されてしまうくらいに。それにお優しくて俺たちの様な人間にも、差別せず接してくれる、まるで女神の様な方だ」
ちょっと、誰が女神ですって!私は別に、暇つぶしでやっていただけよ。
ただ…
「レア、あなたが私の代わりに、色々と動いてくれていたのね。本当にいらない事をして」
プイっとあちらの方を向いた。まさかレアが、私の代わりをしていただなんて…あのか弱くて貧相だったレアが。
「相変わらずイリ様は素直じゃないな」
そう言って皆が笑っている。私のどこが素直じゃないのよ。失礼ね!ただこの感じ、懐かしいわ…あの時の事が、一気に蘇って来る。
あの時は本当に何も考えていなかったけれど、確かに楽しかったのよね。




