第20話:全てお見通しです
「確かにお菓子は美味しいわね。でも、私は自分の意思で自由に生きたいのよ。あなたと結婚したら、社交界にも出ないといけないし、何かと面倒でしょう?」
プイっとあちらの方を向きながら、話をする。
「社交界は最低限でいいよ。母上もあまり社交界には顔を出していないし。我が家はこの国で一番権力を持っている事もあって、ある意味自由なんだ。逆に君の実家の方が、貴族世界と密につながらないといけないから、大変なのではないのかな?」
確かにお父様もお母様も、お兄様もお義姉様も、頻繁に社交の場に顔を出している。あんな面倒なところ、よく頻繁に行けるわね、そう思っていたが、しがない伯爵位の我が家にとっては、そうやって貴族社会と繋がっていないと生きていけないのか…
かたやサフィーロン公爵家は、既に絶大な権力を持っているから、ある程度自由に出来る。悪くわない話…て、私は何を考えているのかしら?身分が高い家に嫁ぐという事は、身分の高い人間たちと交流を持たないといけないという事。
王都で1人悠々自適な暮らしの方が、ずっと自由じゃない。しっかりしないと。
「レアの気持ちは分かったけれど、私は王都で一軒家を買って、1人悠々自適な暮らしをしたいのよ。とにかく公爵夫人になんてなりたくないから。それよりも、私と剣の勝負をしましょう。あなた、強くなったのでしょう?どこまで強くなったのか、見てあげるわ」
今日はこの男をコテンパンにやっつける事が、本来の目的だったのだ。確かに力では勝てなかったが、剣ならきっと勝てるはず。ここでコテンパンにやっつけて、私の事を諦めさせよう。
「いいよ、でも、本物の剣は危険だから、木刀でやろうね」
「そうね、あなたが怪我をしては、大変だものね」
早速稽古場へとやって来た。ここなら、思う存分打ち合いが出来る。私が竹刀を持って現れたせいか、護衛たちが一斉に逃げて行った。あの人たち、あれでも護衛なのかしら?本当に情けない。
「護衛たちが下がって行ったけれど、一体どうしたのだろうね?」
不思議そうな顔をするレア。あなたもこの後、あの護衛たちの様になるのよ。楽しみにしていなさい。
「彼らは気にしなくてもいいわ。早速始めましょう」
「そうだね、お手柔らかに頼むよ」
にっこりほほ笑んだレア。その瞬間、懐かしい記憶が蘇った。昔もあんな風によく笑っていたわね。随分と逞しくなったけれど、笑顔は昔のままね。そう思ったら、つい笑みがこぼれる。
いけない、集中しないと。さて、秒で片づけるか。そんな思いで、一気に攻め込む。ただ、レアも相当稽古を積んできているのか、私の攻撃を全て受け止めている。
「レア、あなた相当練習したのね。私の攻撃を受け止められるだなんて、今までそんな人はいなかったわ」
「レイリスに褒めてもらえると嬉しいな。それじゃあ、僕と結婚してくれるかい?」
「それは嫌よ。ただ、あんなにひ弱だったレアがここまで強くなったことは、素直に嬉しいわ」
こうやって打ち合いが出来るまでレアが成長したこと、そして何よりも私と対等に戦える人物がいる事がなんだか嬉しい。こうやって思いっきり打ち合いがしたかったのよね。
どれくらい2人で打ち合っていただろう。そろそろ決着をつけるか。
そう思い、一気に攻め込む。これでお終いだ!私の攻撃で、レアの竹刀が吹き飛んで行った。勝負あった。でも…
「レイリスはやっぱり強いね。まだまだレイリスに勝てそうにないや。僕ももっと練習をしないとね」
苦笑いをしながら頭をかいているレア。いいえ、違うわ…
「レア、どうしてわざと負けたの?あなたの動きなら、私の手を竹刀で振り払う事が出来たでしょう?どうしてそれをしなかったの?」
私はこれでも長年稽古を積んできた人間だ。あの瞬間、私は一瞬レアに隙を見せてしまった。その隙を、レアも見逃していなかったはず。それなのに、レアはその一瞬の隙をあえてスルーしたのだ。それはきっと…
「レア、あなた、私の手を傷つけたくなかったのでしょう?そもそもあなた、本気を出していた?こんな風にわざと負けられても、私は嬉しくはないわ」




