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魔力のない令嬢は、辺境で静かに国を見殺しにする  作者: 九葉(くずは)


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第7話「王都の薬草茶」

王都レギンファルドの中心、白亜の宮殿。


その一室で、ある婦人が震えていた。

公爵夫人ヘルミーネ。年齢は四十前後、社交界の重鎮の一人。彼女の手には、小さな麻袋に入った乾燥薬草があった。彼女は侍女に命じて、それを丁寧に銀の茶器で蒸らさせていた。


「奥様、いかがでしょう」

「……静かに」


茶を一口、含む。

二口目で、彼女の目から涙がこぼれた。


「奥様!?」

「いいえ、いいの。痛みじゃないわ。——ただ、思い出したのよ」


ヘルミーネ夫人は、震える手で茶器を置いた。


「私の故郷の、母の畑の匂いがするのよ。この茶」


その日以来、彼女は週に一度、その薬草茶を客に出すようになった。

最初の月、噂は社交界の片隅で囁かれた。

二月目、貴婦人方が「ヴェルデン産の薬草茶」を求めて行商人を探し始めた。

三月目、王都の中流貴族の間で「あれを飲むと、なぜか涙が出る」「故郷の匂いがする」という奇妙な評判が立った。

四月目、宮廷の上級女官が、王太子の侍女頭に一袋を献上した。


「殿下のお茶の時間に、ぜひ」



王太子ディートヘルムは、その日、機嫌が悪かった。


朝から、王宮の魔導灯が三つ、明滅したのだ。

王宮の魔導灯は、建国以来、一度も消えたことがない。地下の魔力炉から無尽蔵に供給される魔力で、千年燃え続けるはずのものだった。

それが、明滅した。

たった三つ、わずか数秒。けれど、それは「あってはならない」ことだった。


「魔導院の者を呼べ」

「殿下、もうすでに調査に向かっております」


侍従が震える声で答えた。

ディートヘルムは舌打ちをして、椅子に深く座り直した。

その机の上に、新しい茶器が置かれていた。香りが立ち上っていた。


「これは何だ」

「ヴェルデン産の薬草茶でございます。社交界で評判の——」

「ヴェルデン」


ディートヘルムは、片眉を上げた。


「辺境の、廃領のことか」

「はい。最近、上質な薬草が産出されているとのことで」


ディートヘルムは、なぜか、その茶器を手に取らずにはいられなかった。

一口、含む。

——香りが、不思議だった。

嫌な匂いではない。けれど、彼の知っている王都の高級茶葉の、計算され尽くした優雅さとは、全く違う匂い。土の匂い。雨の後の森の匂い。母の——いや、母ではない。彼の母は早くに亡くなっていて、覚えていない。

けれど、何か。

何か、ひどく遠い記憶を、揺さぶる匂い。


「殿下、いかがでしょう」

「……」


ディートヘルムは、茶器を、机に叩きつけるように置いた。

茶が、白いテーブルクロスに広がった。


「捨てろ」

「で、ですが」

「捨てろと言っている。辺境の薬草など、王太子の口に入るものではない」


侍従は震えながら茶器を下げた。

ディートヘルムは、自分の手のひらを見た。

——震えていた。

なぜ震えているのか、彼自身には分からなかった。



同じ頃、リヒテンベルク公爵邸。


継母ジークリンデは、屋敷の使用人頭に怒鳴り散らしていた。


「なぜ! なぜ井戸の水が出ないのですか!」

「は、はい、それが、地下の魔力水脈が……細くなっているようで」

「魔力水脈ですって? この屋敷の井戸は、王家直系の魔法陣で守られているのですよ! 千年枯れないと約束された——」

「そ、それが、その魔法陣の魔力反応自体が、弱くなって……」


ジークリンデは、扇を握りしめた手を震わせた。

屋敷のあちこちで、最近、奇妙なことが起きていた。

厨房の魔導コンロの火が、時折消える。

食料庫の保冷魔法が弱まり、肉が早く傷むようになった。

そして極めつけは、彼女の自慢の宝石箱——魔力で施錠される銀の箱——の鍵が、突然開かなくなった。「魔力が足りません」と表示されたまま。


「夫はどこ!」

「旦那様は、領地の視察に……」

「視察ですって! こんな時に!」


ジークリンデの実子——エルナの異母弟、十五歳のエルマンが、廊下の影から母を見ていた。

彼は、姉が追放された日から、ほとんど部屋を出なくなっていた。

自分が公爵家の次期当主だと言われて喜んだのは、ほんの数日のことだった。

家庭教師は彼に言った。「あなたには、才能がある。お姉様より、ずっと」

けれど、家庭教師の褒め言葉が、嘘だと、エルマンは知っていた。

彼は、実家のテーブルマナー一つ、満足にできなかった。



廃村ヴェルデン。


同じ時刻、エルナは小屋の前で薬草を干していた。

マルタ婆さんに教わった通りに、束ねて、軒下に吊るす。風通しのいい場所を選ぶ。日に当てすぎてはいけない。

ヤンが、小さな手で薬草を一束ずつ運んでくれていた。


「ねえさん、これも」

「ありがとう、ヤン」


ヨナスは、薪を割っていた。

包帯はもう取れていた。傷は、思ったより早く治った。

「あんたの薬の腕がいいんだ」とヨナスは言った。

「いいえ、マルタさんに教わった通りにしただけです」

「同じ手順でも、人によって治り方が違う。それを、才能と言うんだ」

ヨナスは、ぼそりとそう言って、また斧を振り下ろした。


行商人が、また来ていた。今月で三度目だった。

「奥さん、今月分はどれだけ用意できる?」

「私は奥さんではありません」

「ああ、すまんすまん。エルナさん、今月分は?」

「五十袋ほど、用意しました」

「五十!? ……いや、それでも足りん。王都の貴婦人方が、誰も彼も欲しがるんだ。倍にしてくれ。倍の値で買う」


私は、ヨナスを見た。

ヨナスも、私を見た。

二人とも、何も言わなかった。


行商人が去った後、村の住人たちが、いつの間にか集まっていた。マルタ婆さんが、やれやれという顔で口を開いた。


「お嬢さん。あんたが来てから、この村に金が回るようになったよ」

「私の手柄ではありません。マルタさんの薬草の知識のおかげです」

「いいや」


マルタ婆さんは、首を振った。


「あたしの薬草が王都で売れたことは、過去に一度もないんだよ。あんたの摘み方か、手入れの仕方か、何か知らないが、——あんたの手が触れた薬草は、違う匂いがする。それだけは確かさ」


私は、自分の手のひらを、じっと見た。

魔力測定器の前で、何の反応も示さなかった、この手を。


——魔力と、才能は別物だ。

ヨナスの言葉を、心の中で繰り返した。


けれど私は、まだ知らなかった。

今、王都で起きている異変が、他でもない、この手と関係しているということを。

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