6.護衛の近衛がいきなり襲ってきました
翌朝早くに俺達は王宮を出ることになっていた。
王宮の広場に馬車が一台に騎士達が10人、これが今回のアンジェリーナご一行様の全人員だった。
大国の王女殿下ご一行の人数としては少なすぎたが、俺としては護衛を10騎もよくあの国王がつけたなと逆に驚いた。一応自分の血を引いている娘だとは思っているんだろうか?
最低限の人数は揃えないとさすがに帝国の手前まずいと思ったのだろうか?
まあ、当然の如くダニエルら王族は見送りに来ていなかった。
「やっぱりいないわ」
キョロキョロしていたアンジェががっかりと肩を落としていた。
「姫様、やっぱり陛下がいらっしゃらないのは悲しいですか?」
俺はアンジェに確認した。
「はああああ! 何故私があの恩知らずがいないことを残念がらないといけないのよ。あいつはラフィーに娘の面倒をここまで見させておきながら、昨日はあんな最低の態度を取ってきたのよ。本来ならばラフィーに頭を下げないといけないところなのに! 本当にもうどうしようもないわ」
アンジェは切れてくれていた。
「えっ、でも、姫様は今、誰かを探しておれましたよね?」
「マイヤーよ。最後くらい見送りに来てくれるのかなと思ったのよ」
「ああ、マイヤーですか」
そう言えば俺も最後の挨拶を交わせなかった。
それは少し寂しいなと俺も思った。
「殿下、出発準備が整いました」
護衛部隊の長のアドルフ・カーン侯爵令息が馬車のアンジェに報告してきた。
こいつは俺に昨日気絶させられたアンジェ付きの騎士だ。
本来はこんな役立たずの奴なんか護衛を首にしたかったのだが、ダニエルの命令か、全員そのままだった。
本来は俺がアンジェの護衛隊のトップのはずが、ダニエルの嫌がらせか、この役立たずのアドルフがアンジェの護衛部隊のトップになっていた。
「アドルフ、私の護衛部隊のトップはラフィーよ。ラフィーに報告しなさいよ」
アンジェは怒ってそう注意してくれたが、
「申し訳ありません。私は陛下からは殿下に直接報告するように言われておりますので」
人を食ったような態度でアドルフは俺を無視してくれた。
まあ、アンジェの護衛部隊の騎士達は全員俺が昨日はじき飛ばした騎士達だ。
ダニエルの嫌がらせだろう。
それにプライドだけが高いこいつらは、誰も平民の俺の言う事なんて聞かないだろう。
まあ、帝国に着いたら追い返せば良いだろう。
「姫様。俺は大丈夫です」
「でも、ラフィー!」
俺の言葉にアンジェはまだ何かいろいろ言いたそうだったが、ここは我慢だと俺は首を振った。
アンジェは不満そうだったが、渋々引き下がった。
「でも、姫様。マイヤーの代わりの侍女はどこにいますか?」
「結局一人も付いてこないみたいよ。帝国に行ったら雇うわ」
俺の質問にあっけらかんとアンジェは答えてくれたが、そういう訳には行かないだろう。
今度は俺が王宮に文句を言いに行くと息巻いたが、
「良いじゃない。マイヤーじゃない侍女はしばらくいらないわ」
アンジェも少し思うところがあるみたいだが、帝都に着いたらすぐに斡旋所に頼むしかないだろう。
「私はラフィーがいてくれたら良いから」
そうアンジェに言われてしまうと俺はもう何一つ言えなかった。
「じゃあ、ラフィー、行くわよ!」
結局俺は侍女の代わりに馬車に連れ込まれてアンジェとの二人旅になった。
ガタゴト馬車が動き出した。
「はああああ」
俺は思わず大きなあくびをしてしまった。
「どうしたの、ラフィー? ひょっとして昨日私の寝相が悪かった?」
心配してアンジェが尋ねてきた。
「いえ、そんな事は無いですよ」
俺が寝れないならリビングのソファでも行こうかと離れようとする度に寝言で
「ラフィー、行かないで!」
とアンジェは半分寝ながら俺に抱きついてきてくれたのだ。
結局俺はほとんど一睡も出来なかった……
でも、そんな事はアンジェに話せない。
俺は首を振るしか出来なかった。
「それなら良いけれど……」
半分納得出来なかったみたいだけど、何故かアンジェはしばらくは静かにしてくれた。
俺はそのうちにと寝ようとした。
でも、郊外に出て、うつらうつらしていると……
「ラフィー、あの黄色い花は何なの?」
「あれは菜の花です。あの花から油を取るんです」
「ラフィー、あのホーホケキョって鳴いている鳥は?」
「あれはウグイスです」
「ラフィー、めちゃくちゃ可愛い教会があるわ」
「あれはセントバーナード教会です」
アンジェは王都の外にあまり出たことがなかったみたいで、次々に尋ねてきて、俺は寝る暇がなくなった。
アンジェの質問に対して俺は前の宿主のラファエルの知識を総動員して懸命に答えていた。
そんな俺達の馬車は王都を出てしばらく走ると山道に入った。
結構急な山道だ。
普通は遠回りして、帝国に向かうのだが、今回は俺が倒れたりして時間が押していたので、近道をすることにしたのだ。
この道は急だが、遠回りするよりも日程を1日早く出来た。
その分急なので、旅人の数もこちらの方が少なくなっていた。
そして、馬車が峠の登りにさしかかったときだ。
馬車がいきなり止った。
外の近衛達が慌てて、何かしている。
「どうしたんだ?」
俺が馬車の中から顔を出して尋ねると、
「殿下、前の道が塞がれております」
アドルフがアンジェに報告してきた。
俺が外に出て見ると、前の道が大きな岩で塞がれているのが見えた。
崖崩れみたいだ。
俺はこの道を選択したのが失敗だったと気付いた。
その時だ。
いきなり切り立った崖の上から人が沸いてきた。
皆剣を握っている。
「山賊か?」
変だ。こんな王都に近いところに山賊なんているのはおかしいと俺の頭が警告を鳴らしていた。
「どうやらここまでですな」
アドルフがそう言うと近衛達がいきなり剣を抜いて、俺達に剣を向けてきたのだ。
「アドルフ、どういう事だ?」
「ふんっ、しれたことだ。ここで貴様には死んでもらうんだよ」
そう言うと、アドルフはいきなり俺に斬りかかってきたのだ。




