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5.王宮最後の夜に王女がベッドに潜り込んできました

「やったわ! オーギュストに勝つなんて、さすがラフィー、完全復活ね!」

 飛び出してきたアンジェが俺に抱きついてきた。


 俺はもう抱きつかれる事に慣れっこに…………なれていなかった。


 でも、抱きついてくるアンジェを止める事なんて俺には出来なくて、結局抱きつかれていたけれど……赤くはなっていたと思う。


 元の宿主のラファエルが聖女の今際の言葉の通りに今までアンジェを守ってきたのだ。


 慕われているのは当然の事だし、これが普通だ! 余計な事を考えるな!


 そう思おうとしたが、今まで若い女の子なんかに抱きつかれた事なんて無かったから、そう簡単に慣れる訳はなかった……


「者ども! そのじじいを不敬罪で捕まえろ!」

 テントに下敷きになったまま動けないダニエルが何か叫んでいたが、俺は聞こえないフリをした。


 というか、ここはさっさと退散した方が良いだろう。


 俺がそう思ったときだ。


 騎士達がわらわらと出て来たのだ……


「ちょっと貴方たち、何なの?」 

 アンジェが俺の前に出ようとしたが、さすがにそれをさせる訳にはいかない。


「姫様、後ろに」

 俺がさっとアンジェの前に出る。

 こいつらがアンジェに何かしようとしたら俺が戦うつもりだったのだが……


「「「ラファエル様!」」」

 騎士らは俺に用があるみたいだった。

 でも、皆目が何故か潤んでいるように見えた。

 男に潤まれてもと少し思ったのだが……



「今までいろいろとありがとうございました!」

「教えて頂いて本当に助かりました!」

「帝国でも頑張って下さい!」

 よく見たら全員俺の教え子達だった。

 皆口々に俺に対して礼を言って、激励してくれた。


「おいおい、お前ら、国王陛下を助けなくていいのか? 俺の事を不敬罪で捕まえろとか言っているが……」

「良いんですよ」

「俺達は聞こえませんでした」

「はっきり言って陛下のラファエル様に対する態度はちょっと酷すぎます」

 俺の言葉に元弟子達は首を振ってくれた。


「ラファエル様。今まで本当にありがとうございました。陛下の事はこちらで対応しておきます。アンジェリーナ様の事をくれぐれもよろしくお願いします」

 宰相のクロードに最後にそう言われた。


「こちらこそ、クロードには世話になった。クロードも大変だとは思うが、この国のことは宜しく頼む」

 俺はクロードとも別れの挨拶をした。



 そして、ダニエル達のことはクロードに任せて俺はアンジェと一緒にアンジェの離宮に戻った。


「何かがらんとしているね」

「そうですね」

 アンジェの言葉に俺も頷いた。


 まあ元々使用人はあまりいなかったのだが、マイヤーが辞めていったので、マイヤーが連れてきていた使用人がいなくなって、半数以下になっていた。


 こうしてみると離宮の使用人はほとんどマイヤーにおんぶに抱っこだったことが理解できた。


 まあ、無骨なラファエルに使用人の事を任せるのもおかしいとは思う。

 父親のダニエルが王妃達の言うとおりにアンジェをないがしろにする事が全て悪いということは判った。


 離宮がこんな事になっているのならば、今後移り住む帝国内の住居についても少し心配になった。

 王妃の嫌がらせが帝国でも待ち受けている気がしたのだ。



 明日の出発が早朝だったので、俺達はさっさと寝ることにした。


 俺の部屋は昔からアンジェの部屋のリビングで繋がっている。

 小さい時はそれでも良かったと思うが、アンジェがここまで大きくなったらさすがに良くはないと思う。

 でも、アンジェの反対もあって部屋替えはなかったみたいだ。

 アンジェには帝国の皇太子の第一皇子という婚約者がいるのだからこの辺りはもっとはっきりしなければならないだろう。


 俺が眠ろうとしたときだ。


 寝室の扉が開いた。


 誰だ? こんな時間に?

 俺は慌てて扉を見ると、そこには枕を抱えたアンジェが立っていた。


「ど、どうしたんですか? 姫様?」

 俺は目を見開いた。


「ラフィー、昔みたいに一緒に寝てもいい?」

「えっ?」

 俺は思考が止ってしまった。


「人が少なくて寂しくて」

 アンジェが寂しそうにしてくれた。


「いや、しかし……」

「お願いラフィー」

 懇願するアンジェに俺は断れなかった。


 ラファエルの記憶を覗くと12歳くらいまで一緒に寝ていた事もあったらしい。

 最後はマイヤーに注意されてやめていたようだが……


「今日はマイヤーがいないから良いでしょう?」

 アンジェは俺を上目使いに見てきた。

 俺はアンジェを見て逡巡した。

 マイヤーもいないのなら1日くらい良いだろう。


「本当に今日だけですよ」

 俺はあまりにもアンジェが寂しそうにしていたから、仕方なしに、布団を開けた。


 そこにするりとアンジェが入り込んできた。

 とてもアンジェの体は温かかった。


「何かラフィーの横は安心する」

 そう言うとぎゅっと俺に抱きついてきてくれたのだ。


 俺はぎょっとしたがどうしようもなかった。


「ラフィー、ラフィーはマイヤーみたいに絶対に私を見捨てないでね」

 そう言うアンジェの声が涙目だった。


「いらないって言われてもついて行きますから」

 俺はそう言うと、慰める意味でアンジェを軽く抱きしめた。


 アンジェは安心したみたいで、すぐに寝息をたててくれた。


 でも、若い女の子に抱きつかれて寝るなんて今までしたことのなかった俺は結局ほとんど眠れなかったのだ。


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