14.自分の屋敷で隣の王女の部屋の扉を開けたら素っ裸の王女に悲鳴を上げられました
馬車は帝都のバルトロメウス大通りを走っていた。
通りには多くの馬車や人が行き来していた。道端には多くの商店が店を出していた。
帝国の帝都は北の端に王宮があり、一辺10キロ四方の正方形だ。その中央を元々凱旋通りが貫いていた。その名前を現皇帝バルトロメウスが魔王退治から凱旋したときに、凱旋通りの名前をその名に変えたのだ。
「ラファエル様。そろそろお屋敷が見えて参りました」
「どれですか?」
セバスチャンにアンジェが無邪気に尋ねていた。
「あちらでございます」
「えっ、凄いじゃない! 私の離宮と同じくらいの広さがあるんじゃないの?」
俺の隣のアンジェのはしゃいだ声に、そちらを見ると、俺の屋敷とやらは大噴水のある公園の横の魔王に攻め滅ぼされた元侯爵家の屋敷のあったところに新たに建てられていた。
「おい、セバスチャン! 子爵家の屋敷にしては少し大きすぎないか?」
俺は驚いてセバスチャンを見た。
「何をおっしゃっているのです。陛下は『魔王を倒した剣聖の屋敷だ。もう少し大きくても良いのではないか』とおっしゃっていらっしゃいましたよ」
セバスチャンが説明してくれたが、王都のタウンハウスの中でもおそらくベスト10に入る大きさだ。まあ、元々侯爵家のものだったからそれは当然かもしれないが……魔王の災害は50年も続き多くの貴族家が没落した。その屋敷の跡地の一つを俺がもらったのだ。
「ラフィー、ラフィーの名前が通りの名前になっているわよ」
「嘘だろう?」
俺はアンジェの指さしてくれた通り名を見ると確かにラファエル通りと書かれていた。
「凄いな、お前の名前が通りの名になるなんて」
バルトの名前が通りになると決まったときにそうバルトに言うと、
「何を言うか! 父はお前の名前も付けていたぞ」
とバルトが言っていた記憶があった。冗談だと思っていたら、本当だったのだ。
もっとも俺の名前の通りは500メートルもないみたいだが、その両脇には貴族のタウンハウスが密集していた。
そして、馬車は門をくぐって正面玄関にたどり着いた。
「「「お帰りなさいませ」」」
十数人の使用人達が迎えに来てくれたのだが、その中の一人は俺の知っている顔だった。
「カミラ、貴方カミラじゃない。私の所を止めて故郷に帰ったんじゃなかったの?」
アンジェが驚いて侍女の一人に声をかけた。
「私どもはマイヤーさんの指示の元、帝国に先に来たのですが、アンジェリーナ様のお屋敷が全然準備されていないのを知って、セバスチャンさんに相談して、こちらのお屋敷でお待ちしていたのです」
よく見ると使用人の多くの者は離宮にいた使用人だった。
「元々この屋敷は私が引退してから私の家族だけで細々とお世話しておりましたから。ラファエル様達をお迎えするにも人数が足りなくて。そんな時にカミラさん達がきてくれたのでそのままお雇いした訳でございます」
セバスチャンが説明してくれた。
俺はマイヤーが辞める前に色々と手配してくれたことを知った。
「あれ、ラフィーがいる」
アンジェが俺の方を見て驚いた声を出した。
「俺がいるのは当然でしょう」
俺はアンジェが何を言っているのか理解できなかった。
「違うわよ。ラフィーの後よ」
「俺の後?」
アンジェが指さす方を見ると、なんとそこには剣を掲げている俺がいた。
そこには俺の身長の二倍ほどある銅像がそびえ立っていたのだ。
「な、何だ、これは?」
俺は目が点になった。
何故勇者バルトの銅像でなくて俺が銅像になっている?
俺は慌ててセバスチャンを睨むと、
「名匠ジェロの名作『魔王を倒す勇者ラファエル』ですな」
俺は頭を抱えたくなった。
「おい、ツッコミどころ満載なんだが、そもそも勇者はバルトだろうが!」
「それが陛下は『俺は最後に魔王を倒せなかったから、勇者は魔王を倒したラファエルだ』とおっしゃられまして」
俺の言葉にセバスチャンが反論してくれたが、
「そんな訳あるか! そもそも俺は銅像を作るのを許可した覚えはないぞ!」
「『帝国にいろ』とおっしゃる陛下を見捨てて、さっさとアンヌ様と一緒に故郷に帰られましたからな。『いなければ好きにしても良かろう』と陛下がたくさんラファエル様の銅像を作られまして」
いけしゃあしゃあとセバスチャンが説明してくれた。
「あいつはなんと言うことをしてくれたんだ!」
俺は頭を押さえた。
「すぐにこの銅像を片付けろ」
俺がセバスチャンに命じると
「ラファエル様。このような老体にそのようなことを命じられますか?」
いきなりセバスチャンがよぼよぼの老人の振りをしてくれたが、
「お前は生活魔術が嫌ほど使えるだろう」
「年とると魔術も言うことを聞かなくなりまして。下手すると失敗して大通りにおいてしまうかもしれません」
「やるな!」
俺はそう叫ぶしか出来なかった。こいつは本当にやってくれそうで怖かった。
結局銅像はいずれ人手を使って撤去するということで話はついた。
絶対にこいつはわざと忘れてしまいそうだ。
折に触れて注意する必要があるだろう。
「ええええ! 凜々しくて格好良いからそのまま置いておけば良いのに」
「アンジェリーナ様もそう思われますよね」
アンジェとセバスチャンが意気投合していたが、こいつらは絶対に面白がっているだけだ。
その後で俺はセバスチャンに自分の部屋に案内してもらった。
部屋は広々していてフランク王国の離宮の部屋に比べたら倍以上の広さがあった。
まあ、あの部屋は元々アンジェの護衛騎士の部屋だったから部屋の広さは仕方がなかったのだが……
「姫様の部屋はどうなっている?」
「アンジェリーナ様の部屋はラファエル様の寝室の主寝室の向こう側です」
「何だと、奥方の部屋にしたのか!」
俺は驚いてセバスチャンを見た。
貴族の部屋は往々にして夫婦の部屋が別々にあってそれが二人の主寝室を通して繋がっているのだ。
ここもそういう作りになっているらしい。
「王宮のお部屋もそのような配置だったと聞いておりますし、元々カミラが出発前に確認したところ、そういう位置関係で良いとアンジェリーナ様からは言われていたそうですから」
「いや、離宮は姫様の護衛騎士の部屋だったから問題はないが、ここは夫婦でもないのにその位置関係はまずいだろう」
「まあ、ラファエル様はアンジェリーナ様の親代わりとお伺いしておりますので問題はないのではございませんか?」
セバスチャンに言われれば確かにそうだが……
「しかし、姫様は帝国の皇太子殿下の第一皇子の婚約者だろう。流石にこの位置づけはまずかろう」
基本アンジェは独身女性で俺はアンジェの保護者枠だが独身の男だ。寝室が主寝室を通してとはいえ繋がっているのは良くないだろう。
俺はアンジェに非常識な姫という噂が広まるのを避けたかった。
「しかし、アンジェリーナ様は王国の王妃様に命を狙われているのでございましょう。この館には騎士も殆どおりませんし、ラファエル様の部屋のすぐ傍にアンジェリーナ様のお部屋を作る必要がございましょう」
セバスチャンの言うことは尤もだったが、他にもやりようがあるはずだ。
「まあ、主寝室の鍵はかかっておりますから問題はないかと」
セバスチャンはそう言ってくれたが、はいそうですかと頷くわけにはいかなかった。
「おい、ここの鍵は開いているぞ」
俺は主寝室に繋がる部屋のドアのノブを動かすと鍵はかかっていなかった。
そこには妻もいないのに大きな天蓋付きのベッドが鎮座していた。
「姫様。この位置関係はさすがにまずいだろう」
俺がそう言いながら隣のアンジェの部屋の扉を開けると、そこには風呂にでも入ろうとしいたのか素っ裸になったアンジェがいたのだ。
「キャーーーー!」
アンジェの悲鳴が館中に響いたのだ。




