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第23話 遠慮がち

 2人で遊園地に行ってから半月ほどのこと、ウチの高校は土日2日間開催の文化祭が開かれていた。空は快晴……とはいえないけれど、すっかり晴れ渡っていて気持ちのいい気候だった。


「あ! おーい、矢田くーん。空いてるー?」


「今ちょうどシフトが終わったところだよ。ちょっと片してくるから待ってて」


「分かった!」


 文化祭は想像以上に賑わっていたため、朝倉さんに伝えた時間よりも少しばかり長引いてしまっていた。確か去年は流行り病で客数も例年以上に少なかったのだが、その反動だろうか。しかし、忙しいのも悪い気はしない。


「おっ……待たせ!」


「そんな急がなくてよかったのに。お仕事はもう終わりだよね?」


「うん。あとは回れるよ」


 文化祭も残り数時間、後夜祭を含めてもあっという間に終わってしまう。正直、ついこの間本格的な遊園地に行っていただけあって、ほとんどのものはお遊戯会のように思えてしまうが……。


 いや、それが良いのだということは分かっているさ。高校生が知恵を振り絞ってみんなで盛り上げる、だから良いのだと。そういう私は何様なんだとも思うけれど。


「あ、そうだ。そういえば体育館でダンスとかやってるらしいよ」


「へぇ、そうなの? よく知ってるね。見に行く?」


 彼女がそういうものに興味を示すのは少々意外だ。嫌いではないだろうけど、どうでもよさそうというか……芸術的なものに関しては理解が浅そうで……。


「古澤くんが踊るらしいよ」


「……ん? ダンス部だっけ、アイツ」


「女装チアダンスするんだってさ。面白そうじゃない?」


「それは誰得だよ」


 思い切ったことをするな……。恥ずかしくないのか、という疑問と、それと同時に一種の敬意すらも湧いてくる。そんな大胆さに憧れはしないが、見習いたい部分もある。


「凛ちゃんも来てるらしいから、そこで合流しようよ」


「ふーん。……ん?」


 ちょっとした違和感が、胸に引っかかった。口ぶりからして、朝倉さんが誘ったわけじゃないよな。古澤のチアダンスで合流して、ということは……。少し勘繰りすぎかもしれないが、もしかしたら。


「ねぇ、古澤と花井さんって仲良いんだっけ?」


「いやぁ? 普段はそんなに連絡もしないらしいけど、今日は誘われたって言ってたよ」


「あぁ、なんだ」


 ということは、あくまで通常運転ということか。古澤の方からこれからアプローチしていくのか、あるいは……。今聞いた反応だと、現状は脈アリだとも思えない。頑張れ、古澤。


「あ、こっちです! 春奈さん! 優希さん!」


「久しぶりだね! 凛ちゃん!」


「はい! 久しぶりで!」


 夏の暑苦しさと秋の心地良さが、この広く狭い体育館には同居していた。そんな中で朝倉さんと花井さんはまるで清涼剤のごとき清々しさを纏っている。美少女と言えるような子が2人もいると、空気が綺麗になるのを私でも感じられた。


「えっと……夏休みの、バーベキューぶりですかね? 今日は古澤に誘われたんで?」


「はい、元々来ようかなって思ってたんですけどね。武士(たけし)くんが面白そうなことをするって言うから」


 遠いのに大変ですね、と言いそうになったけれど、それは余計なお世話か。彼女が好きで来て、好きでいるのだから。大変だろうけど、それを言うのは少し失礼なのかな。


「遠いのに大変だね」


 私の遠慮を知らないで、そのままに言葉にしたのはもちろん朝倉さんだ。彼女の歯に衣着せぬその口は、ずっと変わらないらしい。ある意味安心できる。


「ふふっ、そんなことないですよ。せっかく外の友達ができたんだし、大事にしたいんです。そうしないと、関わりがなくなっちゃいそうで」


 そんな言葉が、少しだけ重く感じた。もともと花井さんは朝倉さんとテニス部という交流があって、けれど彼女は辞めてしまった。その世界は孤独に変わったかもしれないけれど、代わりに私や古澤と、そして朝倉さんとも深い交流を得ることができた。


 しかし彼女の知らないところで、朝倉さんの命の灯火は小さくなっていっている。私達の目には映らない程度にゆっくりと、そして確実に。それがどうにも……あぁ、いや。今こんなことを考えるのはよそう。嫌な現実にばかり目をやるのは悪い癖だ。


「そうだ、そんなことより優希さん。私に敬語を使うの、やめてくださいよ」


「いつか聞いたような台詞で……。そういう花井さんが敬語じゃないか」


「私はその……癖ですから。嫌なら直しますけど、優希さんは春奈さんとか武士さんにはタメじゃないですか」


 仲間外れみたいだから嫌だと……そう言われると私もタメ口にしなければならないか。私としては、何も敬語とタメ口、どちらが好きで嫌いで、なんていうことはないのだが……。


「分かった。なら花井さんにも自然体でいさせてもらおうかな。そっちの口調は好きにしてよ。敬語が楽ならそれで良いと思うし」


「はい、すみません」


 どこか申し訳なさそうなその顔には、確かな笑顔が浮かんでいた。私の敬語と彼女の敬語では意味が違う。だから謝る必要もないのだが……そう思いつつも口を閉じた。


「あ、ほら。もう始まるよ! 古澤くんの……応援はちょっと違うか」


 相変わらず暑苦しい体育館がその瞬間、別の意味で湧き上がったことは、もはや言うまでもなかろう。

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