正解のない町 ―紙と光―
町は変わっていた。
スマートフォンの光が夜空の星に混ざり、人々は答えを検索し、SNSで確認し、誰かの「正解」を借りて生きるようになった。
けれど、どれだけ画面をスクロールしても、心は満たされない。
「みんなが正しいと思っていることが、本当に自分の答えなのだろうか」
誰もが小さな疑問を抱えたまま、日々を過ごしていた。
ある日、町の中央広場に、あの小さな子どもが現れた。
手には、真っ白なノート。
「これ、見てみて」
子どもはスマホを置き、ノートに何かを書き始める。
大人たちは集まり、光る画面ではなく、紙の白さを見つめた。
「正解は、誰かのものじゃなくてもいいんだよ」
「君が感じたこと、考えたこと、それが君の答え」
一人の大人がつぶやく。
「でも、他の人と違ったらどう思われるか怖い…」
子どもは笑った。
「誰かの目のために書くんじゃない。自分のために書くんだ」
少しずつ、町の人々は自分のノートに書きはじめた。
迷い、ためらい、悩む。
画面に映る「いいね」やコメントは気にならなくなった。
ただ、自分の思いを紙に置くことが、少しずつ心を軽くした。
夜になり、街のネオンが静かに輝く。
スマホの通知音は鳴り続けるが、人々は手元のページに目を落としていた。
正解はまだ見つからない。
でも、探し続けること、迷い続けることが、自分の中の小さな光となっていた。
そして誰もが気づく――
答えは、他人や画面の向こうにあるのではなく、自分の中にしかないのだ、と。
正解のない町で、迷いながらも書き続ける時間こそが、ほんの少しの安心と希望を与えてくれる。
それが、今日も明日も、変わらない町の光だった。