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【リレー小説】自称駄女神様はアイドルになりたいようです  作者: 柴野いずみ アホリアSS ギル・A・ヤマト まさかミケ猫 ニノハラ リョウ 緋山宥 黒星★チーコ 遊月奈喩多 本人は至って真面目 りん とーふ ふりったぁ でんでろ3
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第七話 黒星★チーコ

「はい、かしこまりました。天歌様、起きてください」


 エリシアさんが起こそうとするが、酒のせいか駄原はぐっすり眠っている。


「天歌様、起きてください!」


 最初は優しく揺り起こしていたエリシアさん。しかし駄原が全然起きないのでガックンガックン揺さぶりはじめる。それでも首をガクガクさせながらムニャムニャ言ってる駄原。


「天歌様、起きてくださいッ!」


 パシ! パシーン! パシパシパシパシ……!!


「うーん、もう飲めないですよぉ……ムニャ……」


 遂にエリシアさんが連続ビンタをはじめる。しかしほっぺたを真っ赤にしながらも幸せそうに寝続ける駄原。酒の夢でもみてるのだろうか。うん、こいつには絶対酒を与えてはいけない。ついでにマコ姉の酒も取り上げておこう。仕事にならない。


「あっ、何すんだよ昌!」

「天歌様、失礼します!」


 エリシアさんは埒が明かないと思ったのか、そう言うと無理やり駄原の上半身だけを起こし、後ろにまわって両肩に手を置く。……と、突然膝蹴りを彼女の背中に打ち込んだ。


 グキョッ!!


「ッパアッ!?」


 何か今、人体からは聞こえちゃいけない音と、人が発してはいけない声が聞こえた気がする。酒を取り上げられて文句を言いかけたマコ姉も、その様子に流石に顔を青くして口を噤んだ。けど大丈夫なのかコレ……。


「ん……? あれ? 小巻くん、おはようございます!」

「あ、ああ……」


 なんともなさそうな感じで駄原が起きる。こいつが女神でよかった。駄女神でも神は神。あれくらいの事では死なないのだろう。

 まあ、そもそも死んじゃうんならエリシアさんも今まで遠慮なく駄原をぶっ飛ばしたりはしていないか。


「ん?」


 何か俺の頭の中に閃きが走った気がするが、まあそれよりも先に今のスマホ画面を駄原とマコ姉に見せるのが先だ。


「ほら、これ見ろ」

「ん? 小巻くん、何ですか?」

「なになに……?」


 二人が俺の作ったSNSアカウントを不思議そうに見る。


「昌、この『超次元アイドルプロジェクト(仮)(カッコかり)』ってアカウント名は?」

「だからそのまんまだよ。俺たちはこれから、現実のアイドルもVチューバーアイドルも両方プロデュースする事務所を作るつもりだろ? だから、二次元、2.5次元、三次元の垣根を超えたアイドルプロジェクトってワケだ」

「うーん?」

「だっさ……」

「ネーミングセンスなさすぎですわ。やっぱりおとこはだめですわ」

「……」

「……」


 駄原とマコ姉、そして男に偏見のある棗さんの意見は無視するとしても、無言で困ったように微笑むエリシアさんとまどかさんの態度には地味に傷つく。そんなにダサい?


「い、いいんだよ! (仮)(カッコかり)なんだから! アイドルを育てると同時に、そのプロジェクトと事務所も成長するっていうコンセプトならファンは箱推(はこお)ししやすいだろ!」

「うーん?」

「……まあ、そうか。事務所もできたばっかりだしな」

「おねえさまがそういうならそうですわ。さすがおねえさまのおとうとさまですわ」


 咄嗟に思いついた言い訳を強引に進めてみたが、二人は納得したようだ。駄原は……これダサいとかダサくない以前にそもそもが解ってない可能性があるな? めんどくさいからほっとこう。


「なるほど。箱推し狙い……それもグループではなく事務所ごとでございますか。それは少々他と差別化が図れる可能性がございますね。プロジェクト名も、そのうちファンから募集して正式名を決められるならとても良いと思うのでございます」

「そっ、そうそう! だから(仮)なんだよ!」


 急に喋り出したまどかさんの意見に全力で乗っかる俺。そこまで考えてなかった。


「箱推し?」


 全く理解不能という感じに首を傾げる駄原。本当にこうして無駄なことを喋ったり行動したりが無ければ完璧な美少女アイドルっぽいんだけどなぁ……。


「アイドルグループの誰か個人ではなく、グループ全員をまとめて推すのが『箱推し』でございます。ファンに箱推しになって貰うにはグループメンバーの仲の良さは勿論、他の条件も必要でございます。全員を推したい! と思わせる要素が無いといけないのでございます」

「そうそう。エリプロでも全員が完璧な完成度と釣り合いが取れているパーフェクトアイドルグループがいてな。箱推しのファンが多かった」


 マコ姉がうんうんと頷きながら合いの手を入れる。まどかさんはマコ姉の方をちらりと見てから再び駄原に説明をする。


「完成度の高いグループでございますとファンはついて行けばいいだけなのでライトなファン層も大変多いのでございますが、エリプロのような大手事務所ならともかく、今日始まったばかりの事務所では無理でございます。ですから昌様の仰るようにグループの半分以上が原石状態で、これからパーフェクトアイドルグループを目指していく方向性が良いと思うのでございます。ファンがアイドルを『育てている』と思わせるのでございます」

「育てている??? 信徒なのに? 神を?」


 いよいよ駄原が解らないという顔をしている。解るような奴ならそもそも駄目神じゃないよなぁ……。その代わりに横でエリシアさんが両手をポンと合わせた。


「なるほど! 人間には皆、多かれ少なかれ父性や母性本能がありますから、そこを利用するのですね?」

「左様でございます。人間には本来、可愛く拙いものを守り育て、慈しみたいという本能が備わっているのでございます。ですからまだ拙い原石アイドルを見つけ、立派で完璧なアイドルになるまで応援し守り育て、支えてくれる、いわば『濃い』ファンというものが世には存在するのでございます。昌様はその『濃い』ファンを作ろうと仰っているのでございます」


 俺の言いたかったことを良い方向に10000%増幅して説明してくれたまどかさんに心の中で感謝しつつ、それを表に出さずに、最初からそう言う風に考えていましたと言う(てい)でうんうんと頷いておく。


「今回はプロジェクトも事務所もまだ卵の状態だから、今から応援してくれれば最古参のファンになれるよ! 事務所ごと応援してね、というアピールもできるだろ?」

「やるな、昌。ボーナスとしてどんぐりをやろう」

「すごいですわさすがおねえさまのおとうとさまですわ」


 どんぐりはいらねぇ。軽くムカつきながら、酒が抜けかけて真面目な顔をしている貴重なマコ姉の状態を逃さず写真を撮っておく。


「あっ? 昌、今撮った?」

「いまとうさつしましたわ。いくらおねえさまのおとうとさまでもゆるせませんわ。このおとこがぁ」

「ああ、マコ姉の部分だけ切り抜いて棗さんは消すから心配しないで」

「たとえ画面のなかだけでもわたしとおねえさまをひきさくなんてゆるせませんわ! ころしますわ」

「写りたいのか写りたくないのかどっちなんだよ」

「どっちもですわ」

「じゃあ、こっちの加工前の写真を棗さんにあげようか」

「……失礼いたしました。少し興奮していたみたいですわ。ありがとうございます。うふふふふ……」


 マコ姉とのツーショット写真を送るとコロリと落ち着き、写真を舐めるように見つめて笑う棗さん。うん。なんか彼女の扱い方がわかってきたかも。俺は改めてマコ姉にDMの画面を指さして見せる。さっきDMを送った相手からの幾つかの返事の中に「事務所を立ち上げたなら社長の写真が必要だろ? 撮っておけよ」って指示を貰っていたのだ。


「一応SNSと事務所のホームページには社長として顔出しくらいはして貰うからな」

「えー、めんどくさ」

「マコ姉は元エリプロの社員だったんだろ? その経歴は結構信用度として大きい気がするよ」

「まあ、そうね! あたしの力は欠かせないから!」


 少なくとも全くの素人が立ち上げた事務所よりは怪しくないだろう。ほんと、持つべきものは友だな。さっき俺がDMを送った相手は友人の最上葵だったのだ。

 事務所兼アイドルプロジェクトのSNSアカウントを作ったのは良いが、そこですぐに寸獄かわうささんにDMを送っては駄原の二の舞だ。そんなアホな事はやらなくてもわかる。駄原はアホだからやったわけだが。


 だからまず、SNSアカウントのフォロワー数を増やす方が先だと考え、葵にフォローと、周りにも宣伝してくれるよう相談した。

 葵はいくつかの条件付きで了承してくれた。その内の条件のひとつが事務所の信用度を上げる事。葵自身は俺とまどかさんが絡んでるから信用してくれてるだろうけど、それだけで他人にオススメできるほどではないんだろう。当然だよ、俺が葵の立場でも同じことを考えたと思う。でも社長の写真までは考えが至らなかった。


 加工したマコ姉の写真をつけて「今日から超次元アイドルプロジェクト(仮)をはじめました社長の小巻です! フォローと応援よろしくお願い致します!」と投稿する。

 すぐに葵のアカウントから「いいね」がついた。


「よし! じゃあ次はアイドルの写真を……」


 そして駄原の方を見て、俺は今はやめとこうと判断する。


「育てる??? 私は神なのに???」


 さっきのまどかさんの凄くわかりやすい説明。それがどうやらわからなかった駄原は首をひねりすぎていて角度が90度をこえそうだった。ちょっとキモイ。美少女が台無し。駄目神、駄女神、駄目美少女すぎる。


「はあ……エリシアさん、ちょっと外行こうか。駄原を連れてきて」

「小巻さん、どうしてですか?」

「写真より先に動画を撮る。このキモイやつもバズるかもしれないし」

「バズる……?」


 葵から突き付けられた条件のひとつ。「バズる投稿をする」こと。まあこれも当然だよな。何がバズるかはわからないから、手当たり次第に撮って投稿するしか無いと思う。だからこのキモイのもストックはしておいた方が良い。まあ本命は別にあるんだが。


「エリシアさん、外で思いっきり駄原を殴って下さい。撮影するんで」

「え?」


 さっき閃いたんだ。金髪聖女『鉄拳』のエリシアさんが力いっぱい美少女の駄原を殴り、駄原が空を吹っ飛ぶ。しかもその後は駄原は無傷。……そんな映像が撮れたらいかにもバズりそうじゃないか?

 しかもCGもワイヤーアクションなんかの特撮も要らないから元手はゼロでいくらでも撮れる。オマケにさっきまどかさんが言ってた、拙く可愛いものを守り育てたいってコンセプトにもかすってる。めちゃくちゃにやられる駄原は「かわいそかわいい」枠に入れるんじゃないだろうか。これは結構イケる気がする。


 まあ、駄原が考えていたアイドル像とはどんどん離れて行ってる気がするが、些末な事だろう。

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― 新着の感想 ―
信仰される側の駄原さんに《アイドルを育てる》概念は、たしかに理解しがたいものかもしれませんね。キョトンとする駄原さんがかわいらしいです! 小巻君が動くことで、いよいよ新アイドル事務所としての活動が始ま…
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