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たどり着いた先に。(side 水瀬優希)

「おーし、ここまで走ればもう追ってこないだろ」

「はひぃ、はふぅ……」

やっと立ち止まった日生(ひなせ)先生の後に続いて、何とかわたしも追いついた。

「ほい、とーちゃく」

ぽすっ、と固いお腹で受け止められてわたしもゴールイン。

「はふぅ……つ、つかれた……」

「いやーナイスランだったな。水瀬陸上部でもいけるんじゃないかな?」

「か、勘弁してくださぁい…」

へろへろだけど、なんとか日生(ひなせ)先生のお腹にしがみついて立っている。う、動けない…

「ほれ、水瀬んちまでもうちょっとだから頑張れよ」

「そ、そうです、けど…」

その「もうちょっと」を歩くのにも苦労しそうなのに……

「……あー、もう動けない?」

コクコクと頷くと、

「しゃーないな……だっことおんぶ、どっちがいい?」

「だっ……!?」

おんぶだと背中しか見えないけどだっこなら顔が見れるし……ってそうじゃなくてっ!?

「や、やっぱり1人で歩きますからっっ」

日生(ひなせ)先生を突き放して自分の足で無理やり歩いていく。

………チャンス、なんて考えはどこに捨てよう?


やっとたどり着いたわたしの家……から少し離れたところ。

「ありがとうございました。もうここまでで、大丈夫ですから」

「いや、そうはいかないな」

「え?」

「今日は水瀬の御家族にも挨拶しておかないとダメだ」

「え、…………えぇぇぇぇぇぇ!?」

「わっバカ声がデカいだろ!?」

日生(ひなせ)先生の大きな手で口を塞がれる。むぐ、もごごっ、くるしいっ、

「ほら落ち着け、暴れるなって」

「むぐ……ぷはぁっ」

「…よし落ち着いたな? 落ち着いたら時計を見てくれ」

手首をとんとんと叩く日生(ひなせ)先生につられてわたしも時計を見ると、

「えっと、もう19時はとうに越えてますね」

「そうだよ。やんちゃな奴らや塾に行く奴らならこの時間も平気でブラついてるけど、水瀬みたいな優等生が学校終わって何もなしにウロウロする程じゃない。……あー、念の為に聞くけど親御さんに連絡は?」

無言で首を振る。さぁぁ、と顔が青ざめるのが分かる。……うちの両親は心配性だから、今頃オロオロしてるかも……

「だから親御さんに会う必要があるんだよ。遅くなったこととか、無事に娘さんをお連れしましたって」

「あっそういう……」

急に親に挨拶するなんて言うから………えと、わたしは何を考えてたんだろう……

「ほら、準備が出来たら行くぞ優等生」

「あっ待って……」

わたしは優等生なんかじゃ……って言いたくて、言えなくて、ただ日生(ひなせ)先生の後を追いかけた。


「た、ただいま…」

閉店時間が過ぎてもまだ開いていたお店のドアをくぐると、

「優希っ!? 今までどこ行ってたの!?」

両親が仕事…と手に持ってた商品を放り出してすっ飛んでくる。あぁ、製図鉛筆が空を飛んでる……あれ高いのに………

「すいませんお邪魔します」

後からぬっと日生(ひなせ)先生も顔を出すと、

「「ひぃっヤクザ!?」」

2人揃って腰を抜かす。

「いえヤクザではないです……」

「じ、地上げですか、立ち退きですか、それとも娘がなにか……」

「お、お父さん変なとこから借金とかしたんじゃないよね!? まさか優希をそのカタに…」

「お、お父さんお母さん落ち着いて!? この人は先生だよ!?」

「…………へ? せんせ?」

「あー……とりあえずお立ち下さい。申し遅れました。わたしは水瀬さんの社会科の授業を担当する教員で日生拠葉(ひなせ よるは)と申します」

身分証を取り出して両親へと見せる日生(ひなせ)先生。

「ほ、本当に先生なんですか……?」

胡乱気な視線を向ける2人に対して、

「娘さんをこんな時間までお預かりしてしまい申し訳ありません。試験が近い為その補講を行っていたのですが、水瀬さんがその後片付けを手伝って下さいまして。事前及び事後のご連絡が出来ず、ご心配をおかけして申し訳ありません」

深々と頭を下げる。いつもの雰囲気はどこへやら、そこに居たのは紛れもなく日生(ひなせ)『先生』だった。

「この時間まで拘束したのはこの私ですので、どうか優希さんのことは叱らないで頂ければと」

「せ、先生、どうか頭を上げてください」

「そうです、お忙しいのにうちの優希のことを思って送って頂いて…」

「いえ、水瀬さんはとてもお優しい方ですから。……それに夜は怖い世界ですからね」

「せ、せんせぃ……」

聞いてて顔が熱くなってきちゃう……

「なんじゃ、優希が帰ってきたのか?」

「あ、お義母さん…」

おばあちゃん……起きてたんだ。

「随分遅かったのう、……ところでそこのは誰じゃ?」

「あぁ、こちらは優希の授業担任の先生で」

「この(なり)で先生じゃと? 」

じろじろと上から下まで眺め回す。し、失礼だよおばあちゃん……

「フンっ、かの星花も腐りおったな。こんな外道を雇うとはな」

「お義母さんいくら何でもそれは失礼」

「外道に外道と言うて何が悪い? 大方優希のことを誑かして悪い道に堕とす為に近づいたんじゃろうて。早く塩撒いて追い払え邪魔じゃ」

「ちょっとおばあちゃ……痛っ」

抗議しようと声を上げると同時にわたしの足が強く踏まれる。顔を伏せたまんまの日生(ひなせ)先生が視線だけこちらに送ってきて……っ、こんな視線見た事無い……、すごく悲しそう……

「分かりました。これにて失礼致します。……すいません、お騒がせしました」

「あ、せんせ…」

「水瀬……風呂入ったら念入りに足揉んどけよ、明日確か体育あったろ?」

「先生、そうじゃなくてっ」

「お父様、お母様、あとお祖母様。ではこれにて」

ぺこりと頭を下げてそのまま背を向ける日生(ひなせ)先生を見て、わたしの心の奥がずきりと痛む。

明日、日生(ひなせ)先生に謝ろう。そう思ったのに、


次の日、日生(ひなせ)先生は学校に来なかった。

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