待ちぼうけ、ネコだらけ。(side 水瀬優希)
……先生、遅いなぁ。
膝の上に寝転がるキジトラさんの背中を撫でると、足元でごろんとのびていた白ぶちさんがあたしもあたしもーっとキジトラさんに覆いかぶさって私の手を奪い取る。
「まってまって、順番だから」
前脚のところを持って持ち上げると、そのままみょいーんと伸びて胴長さんになる。
「ふふっ、あなたはおもちって名前にしようかな」
同意するかのようにみゃーんと鳴く白ぶちさんを見て、こっちも忘れないでとキジトラさんにしっぽで叩かれる。
「はいはい、後でね」
白ぶちさんをお餅から猫に戻してキジトラさんの背中をとんとんすると、それを見たわっふるさんがわたしもわたしもーっとおねだりを始める。
「わっ、そんな、みんな一緒には無理だよっ」
「……たのしそーだな、水瀬」
「ひゃいっ!?」
いきなり声をかけられてひっくり返りそうになる。
「おっとと、大丈夫かぁ?」
「も、もう、びっくりさせないでくださいよ、日生先生ぇ」
「あっははは、水瀬はほんとにビビりだなぁ……ってて、ごめん、ごめんて」
グーをつくってお腹周りをぽかぽかするけど、日生先生のお腹はとても固くって全然効いてないみたい。転んだはずみにネコさん達は逃げちゃって今は遠巻きに眺めてるだけ。あぁ、暖かかったのに……
「にしても水瀬はほんとネコ好きだよなぁ、ほれほれほれ」
日生先生もわたしの横にしゃがんでネコさんに手を振る。遠巻きに眺めるネコさんはみんなそっぽ向いちゃった。
「……あり??」
「ふふっ、先生、怖がられてますね」
「うぇー……いやそんなことは……お?」
あ、おもちちゃんが歩いてきた。
「なんだ来るじゃないか。ほーれほれほれ〜こっちだぞ〜」
手をヒラヒラさせておもちちゃんを誘うと、おもちちゃんは鼻先を合わせたかと思うと、……そのままガブッといった。
「いってぇーー!?」
「ひ、ひなせせんせっ!?」
ブンブンと手を振る先生から、おもちちゃんの首をつまんで引き剥がす。
「うにゃーん…」
「なにがうにゃーんだコノヤロウねこ鍋にして食っちまうぞ!!」
「先生それはダメですっ!?おもちちゃんを食べないでぇ!?」
がるるると息巻く日生先生からおもちちゃんを遠ざける。悪びれた様子もなくうにゃーんでろーん状態なのを見て更にがるるるしてる。ど、どうしよ……
「こら??ぼ、また??とを起こしと??か」
「うげ、ゲンさん…」
おじいさんの声にそっちを向くと、
「あ、おまわりさん…」
「……おお、ど??で見た??ば文具屋さん??の娘っこ」
え、なんて言ってるの……?
聞き返そうと一歩近寄ると、
「どこかで見たなーと思ったら文具屋さんとこの子だねってさ」
日生先生からフォローが入る。
「……揉めてねーよ、教え子と遊んでただけだ」
「お前さ?ほんと??になった??んか、信じられんなぁ」
「うっせぇなぁ、ほらさっさと帰った帰った。公務員なんだから5時には閉店ガラガラ帰りましょーや」
「ヨリは警察を??だと思って??」
おまわりさんの方は所々何を言ってるか分からないけど、日生先生の知り合いみたい。
「それ???もヨリ坊、??もでかくなっ??だな、うるさくて??ない、昔はもっと静か??ろ」
「ここで言うなよ」
ふと日生先生がわたしの方を向いたかと思うと、
「待たせたな水瀬、さぁ帰ろうか」
「はい……でもお話は、いいんですか?」
「あー、ジジイの話はなげーからいいよ」
「誰がジジイだまた補導されたいか!!」
「よーし水瀬逃げるぞっ、リアルのケイドロだっ」
「わっ、ちょっと待ってくださいよせんせいっ」




