夕暮れて
「ところで水瀬、今何時だ?」
空の暗さに気になって、隣を歩く水瀬に聞いてみたら、
「……」
つーん。てくてく。
「おーい、みーなーせー」
「ひゃっひゃいっ!?」
「えっと…………」
大袈裟に飛び退く水瀬にこっちも驚きつつも、
「いま、なんじ?」
手首をトントンと叩いてみせると、
「え、えっと、18時のちょっと前です」
「そうか」
道理で腹減ったと思ったわー。
「あ、あの、ひなせ先生」
「ん?」
「もしかして、私また無視してましたか?」
「ん、いや、そーでもないぞ?」
「そうですか、またしちゃってたんですね……」
しょぼんとする水瀬の頭をいつものように撫でる。
「気にすんな。お前のそれは努力どうこうでどうにかなるもんじゃ無いんだろ? 自分じゃ変えられないもんにまで責任負うこたぁねぇよ」
「それは、そうですけど……」
うじうじうじうじ。
「……あー、もう、めんどくせぇなぁ」
うじうじする水瀬の脇っ腹に手をうねうねさせて、肋骨の隙間をこちょこちょする。
「うひゃっ、うひゃひゃっ、なにしゅるんでしゅかっ、ひなせんせっ、」
「そうだ、そうやって笑ってろ。お前ぐらいの頃は難しいことなんか考えてないでずっと笑ってりゃそれでいいんだ」
くすぐっていた手を離すと、糸が切れたみたいに水瀬がへたりこむ。
「どーだ?笑う気になったか?」
「な、なりましたけどぉ……」
笑いすぎておかしくなったのか、涙目の水瀬に手を差し伸べると、
(ぐぅ〜)
………………ん??
「もしかして水瀬、今のってお腹の」
「ち、違いますぅ!?」
(ぐぅ〜〜)
否定の余地なし。
「……まぁ、食べ盛りだもんな。もう6時だしな」
うんうんと頷くと、そっぽ向いたまんまの水瀬に
「そこの二アマート寄ってくか」
「え、でも家はすぐですし」
「あんまんと肉まんどっちが好きだ?」
「…………肉まんがいいです」
「お、奇遇だな」
肉まんの方が腹に溜まる気がするんだよな。
「あぁ、それとだな」
「ま、まだ何か…………?」
「や、これはその……好みの問題だとは思うんだけど……な? 可愛いと思うけど……その、高校生でネコの顔のはどうかなぁ」
「っ…………///」
立てていた膝を引っ込めて水瀬が慌てて立ち上がると、勢いのままあたしの事をぽかぽかと叩いてくる。
「いて、いててっ、おい水瀬っ」
「先生の、ばかっ」