地に伏せろ
うぅ……大丈夫かな、どこか変じゃ無いかな……
日生先生に指定された通り、空の宮中央の駅前に立って先生を待つ。
……こ、これで本当に大丈夫なのかなぁ……
ショーウィンドウに自分の姿を映してみる。丸襟のブラウスにタータンチェックのジャンパースカート、黒猫さんのニット帽をちょこんと載せた私が居た。
……このコーディネート、沙橙に見てもらったけど「どうしてもっと早く言わないの!?」ってまず怒られたかと思えば、その日の夕方に家まで来てあれこれ見繕ってくれて。沙橙は似合ってるよって言ってくれたけど、ガラスに映るあたしはなんだか子供っぽく見えて。とりあえずネコさん帽子だけでも脱ごうと思ったら、
「よーうコネコちゃーん、どうしたの〜こんなとこで1人でさぁ? 」
いつの間にか真後ろに金ピカの頭をした男の人が立っていて、
「っ!?」
驚いて後ずさったら背中にガラスが当たる。いつの間にか他にも男の人達が集まってきて、
「おうおう、そんなに怖がんなくたっていーじゃーん? 」
「そうそう、俺ら全然怪しくないし? ちょっと遊びたいだけだし? 」
「オネエチャンも1人でしょ? だったらヒマだし俺らと遊んでよ?」
「ねぇほらさ? 」
無遠慮に伸ばされた手に怯えてへたり込むと、突然その手が掴まれて、
「おい、うちの奴になにしてんだ? 」
低く重い声に顔を上げれば、
「ひな、せんせっ、」
「よう待たせたな、んでお前」
私へと伸びていたその手を掴んだ日生先生は、そのまま腕を捻りあげて詰め寄る。
「2度は聞かんよ時間の無駄だから。こいつを取り囲んで何をしようとしてた?」
痛ぇぇと叫ぶ茶髪の男の人を見て、私を取り囲んでいた人達も色めきだす。
「おいなんだぁ? お前には関係ねーだろ」
日生先生へと歩み寄った男に対して、
「あるんだよそれが。とりあえず邪魔だから返すぞ」
腕を掴んだまま茶髪の男の人を無造作にその男に投げてよこすと、真ん中でぶつかって地面に倒れ込んだ。
「テメェ何しやがる!!」
別の男が殴りかかってくるのを交わすと、足を引っかけて勢いよく地面に転ばせる。こっちの人もそのまま動かなくなった。
「なっ、お前ぇぇぇ!!」
今度は逆の方から突き出された拳を、日生先生は難なく受け止めて、
「軽ぃなぁ? そんなんじゃハエが止まっちまうぜ」
そう言ったかと思えば、手首を掴んで引っ張りながら足払いして一瞬宙に浮かせ……たかと思えばそのままかかと落としでトドメを刺した。
「さて次はどいつだ? 」
日生先生がグッと睨み返すと、怖気付いたのかほかのメンバーは後ずさり。
「おう、そこまでじゃヨリ坊」
その声に振り向くと、いつぞやの二アマートの時のお巡りさんが居た。
「全く、わしの交番の前でケンカなんかしおって」
「おう源さんよ、元はこいつらが」
「分かっとる。お前さんが来た時から見えとるよ。全く、年寄りに走らせるでないわ」
「この距離も走れねーのかよ全く、こいつに何かあったらどうする気だったんだ」
悪態をつく日生先生の横顔がいつもと違って見えて、そう、なんだかいつもよりも、
「……怖い」
その言葉を聞き咎めたのか日生先生が振り向いて、私の方へ歩いてくると私の前でしゃがみ込む。
「……悪ぃ水瀬、怖い思いさせちまったな」
「ひな、せんせ……」
「……折角こんな可愛いもん着てんのにあいつら汚しやがって」
私の服の汚れを軽く払うと、そのまま膝をついて私のことを一瞬、ほんの一瞬だけ抱きしめた。
「ひ、なせ、せんせっ」
驚きながら私も抱き返そうと腕を伸ばして、その頃にはもう先生は立ち上がってて。最初に倒した男の人の所へ行って…………頭を踏みつけた。
「おい、この落とし前はどうつける気だ?」
「ヨリ坊、もうよさんか」
「よさないね。寄って集って取り囲んだんだ、もう少し制裁加えても」
「ダメじゃっ、これ以上やったらワシもヨリ坊のことを捕まえざるをえん。……よくよく見たらコイツらは他のことで目をつけておった。今のうちならまだ捜査協力の範疇じゃ。気が変わらんうちにこの場を離れい」
「……チッ、しゃぁねぇな。ほら行くぞ水瀬」
差し伸べられた手を掴んで、力の戻った足で立ち上がる。
薄曇りはいつの間にか晴れていた。