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【先生】

「ふぃぃ、やっと終わった……」

「全く、あなたって子はいつまで経っても迷惑かけるんだから……」

「だってあいつ先生が亡くなったことをあっけらかんと言うし、『そんなことより踏み倒した入院代寄越せ』って言いやがったんだぞ?そら誰だって怒るだろ」

あの後、先生とあたしは駆けつけてきた婦長に別室で事の経緯を説明し、今回のことは失礼な看護師も悪いし食ってかかったあたしも悪いってことで両成敗となった。今は解放されて先生の病室へと戻るとこ。

「それにさぁ、先生だって病室変わったんなら教えてくれよぉ」

「ごめんなさいねぇ、あのおじさんが喧しいからって711号室から変えてもらったの先週なのよ。まさかその三日後にあぁなるとはねぇ」

人ってわからないものねぇと呟く先生に対して、えぇほんとそうっすねと返す。本当に人は将来どうなるか分からない、てのはここに居る2人がよく分かってるけど。

「それで先生、病室はどこ? 」

「この先よ、でもちょっと休憩させてね」

と、先生は近くの壁にもたれかかった。

「おいおい先生、大丈夫かよ?」

「大丈夫よ、そこに談話室があるからそこまでちょっと手を貸してね」

と、あたしの袖を持って歩きだす。そんな先生に合わせてあたしもゆっくりゆっくりと。

先生をソファに座らせると、あたしは自販機で飲み物を買う。先生には緑茶であたしはコーヒー。

「ほいよ先生」

「あらありがとう。……あらあらヨリちゃん、コーヒー飲めるようになったの?」

「ぶっ!? ……先生いつの話してんですか、あたしだってもう大人なんだからこれぐらい飲めますって」

……クリームのボタン押しまくったけどね?

「それより先生、本当に大丈夫なんですか? その……少し痩せたし」

「歳なのよ。ヨリちゃんの卒業から何年経ったと思ってるの」

「それだってまだ」

言い返すあたしを置いて先生は立ち上がる。

「さて一休みは終わり。さ、ヨリちゃんもうちょっと手を貸してね」

有無を言わさず握られた腕に、諦めてあたしも立ち上がる。


「さてと。じゃあヨリちゃん。お話を聞かせてね?」

「えぇ……いや先生の顔を見に来ただけだって……」

「ヨリちゃんは相変わらず嘘つきねぇ。学校の先生がこんな平日のこの時間にうろちょろできるわけないでしょう? 」

「うっ……」

まぁ図星なんだよな……

「…………まぁ、ちっと悩んでることがあって……それでまず、大先生のとこ行ってきました」

「あらまぁ、あの人の方が先なの?」

ぷーっと膨れる先生をまぁまぁと宥める。

「だって面会時間とか色々あるじゃないですか。なのでまずは、大先生にね、色々と聞いてもらいました」

「そう……それにしてもありがとうねぇ、旦那の墓参りなんて何年も行けてないからヨリちゃんに任せっきりで」

「いえいえ。大先生にも沢山お世話になりましたから」

大先生。ここに居る先生の旦那さんで、あたしの『親父』。とはいえ親父なんて一回も呼べたことは無いけど……

「それで? お悩みはあの人とヨリちゃんだけの秘密かしら? あたしも混ぜて?」

「もちろん先生にも話しますって」

ずい、と身を乗り出す先生に圧倒されながらも、掻い摘んで授業が上手くいかないこと、周りに馴染めないこと、そして……水瀬優希のことと、その家族のこと、言われたことも全部話した。

「……確かにあたしはこんなナリだし、ガラも悪いし、態度も悪いけど……それでも誰かのことを導きたいって気持ちだけは本当なのに……やっぱりあたしには無理なのかなぁ」

はぁ、とため息をつくあたしの頭にコツンとゲンコツが落ちる。

「何を甘ったれてるのヨリちゃん。それが自分で選んだ道でしょ?」

「それはそうだけど……」

「それともなぁに? 卒業する時にわたしに切った大見得は嘘だったのかしら?」

「うっ…………わ、わかった……頑張ります……」

先生ほんとよく覚えてんなぁ……

「うん、それでよろしい。じゃあ先生の時間はここまでね? 」

そう言うと、あたしの頭に今度は手のひらが降ってくる。

「よしよし、ヨリちゃんは頑張ってるわねぇ」

「ちょっ、先生、あたしはもう大人」

「わたしにとってはいつまでも子供みたいなものよ? 」

「それ反則だって……あたし、いつまでも大人になれないじゃん……」

撫でられる度にどんどん頭が下がっていく。顔はもう上げられそうに無いし、上げらんない。

「…………先生、ヨリはやっぱり悪い子のまんまかもしれません」

「あらあら、しょうがないわねぇ」

「だから……また先生に叱られに来るかもしれません……でも出来たら、いい子で居れたら、また褒めて欲しいです……」

「もう、やっぱりヨリちゃんは子供ね」

「はい、先生の大事なこど……生徒ですから」

言いかけた言葉はすんでのところで飲み込んだ。


それからどれくらいの時間が経ったんだろう。あたしが顔を上げると、窓から見える空はもう赤く染まっていて、

「あ、もうこんな時間……」

「そろそろお家に帰る時間ね」

「ですね。それじゃあ先生、また来ます」

「また、ね。ふふっ、次はいい知らせだといいわね」

「ちょっ、せんせぇ……」

「そうね、ヨリちゃんがその知らせを持ってくる頃にはわたしも退院できてるといいわね」

「是非ともお願いしますよ? あたしもまた先生の唐揚げ、食べたいです」

「あらレシピは教えたはずよ?」

「それが……何回やっても石炭になるんすよね……」

「なら大事な人に作ってもらったらどう? その優希ちゃんって娘に♪」

「ぶーっ!? 」

せ、先生はたまに突拍子もない事を言いやがるから困るな……

「と、とにかくまた来ますから」

「いい報告待ってるわね♪」

後ろ手に扉を閉めると、足早に歩き出す。

やれやれ、調子狂うなぁ…………

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