期末を見越して
「夜」。貴女はこのワードに対して何を思うだろうか。
寝る為の時間?
出歩く時間?
恐ろしい時間?
楽しい時間?
あたしにとっては、生きる時間。夜に駆ける時間。だってあたしは、【夜】を【留】めて制【覇】する者だから。
「はいここー、テストに出すかもしれないし出さないかもしれないぞ〜」
「いや先生どっちなんですか」
すかさず突っ込んでくる活きのいい生徒をスルリと躱して黒板に手をかざす。
「ホラホラ、ボサっとしてると黒板を消すぞ〜」
前を向いていた70個ちょいの視線が慌てて下を向く。カリカリコリコリとノートとシャープペンシルがダンスする音がしばらく響いて、落ち着いた頃を見計らって黒板の右端から消していく。
「いいな?んじゃこれから書くところが最重要ポイントだからなー?」
再び視線がチョークの先に集まる。うん、いいぞいいぞ。そのまま黒板の上を滑らせ……ずに空を切らせて視線で遊んでみる。あっちいって、こっちいって、あーらよっと。
「せ、先生…………?」
じとーっとした視線を感じてそっぽを向く。
「……ん、まぁ時には遊びも大切ってわけで」
「先生逃げないでください」
「…………わぁったよ」
今度こそ黒板にチョークを擦り付けて、つらつらと書き綴るのは試験範囲……を通り越して試験問題。
「はい、コレを出すからな〜」
チョークをぺしっと受け台に捨ててみんなの反応を伺う。……うん、みんな唖然としてるな。よしよし。
「あの…………先生これ…………」
「どうした? あたしは【試験問題になりそうなもの】を書いただけだぞ?」
「いやこれ……」
「あー、そうそう。コレね、配点30点位あるから」
ぴくり、と誰かの肩が動く。
「答えられたら……そうだな、赤点にはならないかもね?」
次の瞬間、教室が3つに割れた。必死にペンを走らせる者、諦めて天を仰ぐ者、アホらしいと肩を竦める者。
うんうん、そう考えるかー。普通な人ならそう考えるよなぁ。
でも普通じゃない奴なら?ここに賭けるっきゃ無い奴なら?
はてさて、どんな答えを用意してくるかな? お前たち?
ふふんっ、と教室を見渡すと首を傾げる娘と目線が合う。おっとそうか、あの子にはこのざわめきが不思議なんだろうな。
つか、つか、と歩いていき机の前にしゃがみこむ。
「どうだ? この課題は書けそうか、水瀬?」
きょとんとした顔で首を傾げる彼女の頭をそっと撫でて問いかけると、大丈夫ですよと言うようにノートの一部を指し示した。うん、この内容なら問題ないな。
(それじゃ、また後でな)
口の形だけでそう教えると、再び教壇に戻って全体を見渡す。
「さて、諸君の健闘を期待するぞ♡」
ちょっとイタズラっぽく言うと丁度よくチャイムが鳴る。それを合図にあたしは悠々と職員室へと引き上げた。