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やきとり

作者: 廣風直

 その子の出身中学校は北海道の美唄市だった。私はその子に問いかけた。

「やきとり食べたことある?」

 その子はきょとんとした顔をして、

「はい、ありますけど。」

 と当然のように答えた。

 私はそりゃそうだよな、と思いながらやきとりを思い浮かべながら

「いいなー、久しぶりに食べたいなぁ。」

 と呟いた。

 その子は、不思議な顔をして私に言った。

「食べに行けばいいじゃないですか、やきとり屋さんなら沢山あるじゃないですか。」

 あ、この子、私の言っている「やきとり」を普通のやきとりと勘違いしているなと気付いた。美唄発祥と言われるやきとりは、やきとりであってやきとりではないのだ。語弊があるかもしれない。いわゆる美唄やきとりは、鶏のモツが串に刺さっている物なのである。モツとはつまり内臓である。レバーやキンカン(鶏の卵巣)などなど、そして鶏皮までもが美味しく焼かれて提供されるものなのだ。味付けは塩と秘伝の調味料が使われているらしい。この子のいうやきとりは私の想像しているやきとりとは違うのだろう。もう少し聞いてみようと思い、話を続けた。

「あのさ、やきとりで何が好き?」

「え、何だろ。鳥モモですかね。タレのやつです。ネギは得意じゃないので、ネギは、ネギ好きの父にあげてます。あっ、ポンポチも好きですよ。あれ、鶏の尻尾辺りの肉なんですってね。」

 なんだ、結構喋るじゃないかと微笑ましく思ってしまった。そして、ポンポチの豆知識を述べるこの子の事をかわいいなと思った。

「なるほど。ねぎまかな?タレが好きなんだね。ネギ、美味いじゃん。ネギだけが串に刺さったイカダってのもあるんだよ。この世にはネギ好きの人が多い証拠だね。」

「へえ、イカダなんて面白い比喩ですね。」

「でしょう。俺も最初聞いた時、上手い表現だなと思ったもんなー。」

 それから、やきとりトークを繰り広げてから、私はその子に肝心なことを聞いてみた。

「モツ串食べたことないの?」

私からの質問に対して、まるで外国語を発音するかのようにその子の口から「モツクシ?」と漏れた。

 知らないのだなと確信した。美唄に住んでいたならば知っているとばかり思っていたが、その子はモツクシを知らなかった。やきとりはオーソドックスなものしか知らなかったのでる。その子の家庭は父親の転勤が多くて、度々引っ越しを余儀なくされてきたのだという。その為、なかなか友達とも深い関係を築くことが出来なかったらしい。

 先ほどの私の質問に対して、あれだけ多弁に答えた子が、それも話が膨らむような話し方をする子が、なかなか友達が出来ないなんて皮肉なものだなと思った。相手との上手いキャッチボールが出来るこの子に早く気の合う友達が出来ますようにと願いながら、私はこう問いかけた。

 「室蘭やきとりって知ってる?」

 その子は、目をキラキラさせながら、

 「やきとりなのに、ブタですよね!カラシ付けて食べるとめちゃくちゃ美味しいですよね!」

 頷く私を見て、その子は

 「久しぶりに食べたいなぁ。」

 と呟いた。

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