窃盗犯
学校の休み時間。
俺はすることがなくて本を読んでいた。
「なあ、」
と声をかけられたので
「何」
と返す。
俺の数少ない知人の古神 朗矢という人間だ。
「今日俺んちで一緒に勉強しようぜ。
定期テスト近いし。」
こいつは「みずかな荘」という変な名前のところに住んでいる。
割と綺麗に片付いているので、そこそこ好きだった。
「わかった。行くよ」
学校がおわった。
そいつの家に向かおうと思い学校を出ると、
「先輩、最近近くに凄い有名なパン屋が出来たんですよ。行きません?」
と俺の後輩、天野 装に言われた。
「あー…、遠慮しとく。今日は先約があるからな」
「先約?」
「古神と勉強すんの。」
「あ、じゃあ私も行きます」
「あいつに確認取ったらな。」
俺は古神に「後輩一人つれてっていい?」
とメールした。
あっさりOKが帰ってきた。
「いいってさ」
俺は内心嫌だった。
勉強を教えることになりそうだからだ。
分からなければ教師に質問すればいいのに、やたら生徒にききたがる人は多い。
まあ、仕方ないか。
そいつの家に付くまで、俺はそのパン屋について聞かされた。
何でもかなり有名で、おしゃれで美味しいらしい。
SNSでもかなり騒がれているそうだ。
それが一ヶ月程前に出来たらしい。
そこまで興味はないのであまりよく聞いてなかった。
古神の家に付いた。
呼び鈴を鳴らすと、ガタガタという音がして古神が出てきた。
「はーい…って、女子!?」
非モテがバレるぞ、とおもいつつ、
「よう、古神」と挨拶した。
「お、おおおうう…」
動揺しすぎだろ、いくらなんでも。
天野は黙って自販機で買ったコーヒーを飲んでいた。
「よってここは因数定理より、x=6と。」
「せんぱーい、ここ教えてください!」
「えっと、だからここは余弦定理で…」
「今年の中3は進度が早いな。もう三関行ってんの。」
と古神が言った。
「ああ。俺らより早いな。」と同意した。
「俺らの時はまだ二次関数とかじゃなかったっけ」
「よく覚えてないけど、そんな気もするね。」
俺は自分の友人たちが宿題に追われていたのを思い出していた。
「あ、話変わるんだけど、俺の時計返せ」
ギクリという音がした。
俺は数日前、こいつに時計を貸したのだ。
母に買ってもらったものだった。
「それなんだけどさ…昨日盗まれちゃって…」
「盗まれた?鍵かけてなかったのかよ」
「いや、かけてたんだけどさ…
昨日家帰ったらなくて…」
「かけ忘れた可能性は?」
「ない。」
その自信はどこから湧いてくるのか疑問だが、まあいいか。
「それって、大家が犯人なんじゃないですか?マスターキーであけたのでは?」
「いや、昨日早帰りだったから、俺も
12:00頃には帰ってきたから、それまでに盗まれたことになるんだけど、大家出かけてたらしいんだよね。」
「それ、嘘じゃないんですか?」
「かもね。
ただ、
考えられる方法としてなんだけど、…」
「考えられる方法として?」
と催促する。
「で、大家が昨日の朝小麦粉をひっくり返したらしいんだよ。なんかパンを作りたかったらしくて。そのとき窓を開けて、そのまま家の外に出ちゃったらしいんだ。鍵をかけて。」
「………で?」
「で、そのときに大家の家の窓からに入って、鍵をとり、俺の家に入れるわけよ。」
「…でも、お前が時計持ってるって知らないと…」
「実はさ、俺の隣の人…右の礼さんと左の湯川さんには時計見せてたんだよね。
かっこいいって言われてた…」
「はあ。でも二人とも仕事では?」
「礼さんは在宅ワーク、湯川さんは二ート。」
「なる程…犯行は可能なのか…」
「礼さんは今海外旅行行ってていないけどね。」
「ふーん。」
俺は少し家の中を見た。
「古神。この金庫は?」
俺は棚の上の少し小さな金庫を見た。
「ああ、そん中には通帳とか俺の時計入れてる」
俺はその金庫を抱えてみた。
見かけによらず結構重かった。
ぐるぐると回して見たが、特に異常もなかった。
「まあ、いいよ。警察に通報するほどのものでもないし。その礼さんと湯川さんには今度話を聞きたいけど。」
「ごめんな…。」
「ところで、その大家はなんでパン作ろうと思ったんでしょうか」
と天野がいう。
「ああ、それはね…
大家が食べたいかららしい。
SNSにもあげるとか言ってたな。」
「そのSNS見せてもらっていいか?」
と俺は言う.
「いいぜ。ほら…」
俺は投稿を見た。
最新の投稿は昨日。
「最近流行りのスイーツ屋さんに行ってきた~」と書かれている。
その後、
蕎麦、カレーライス、ご飯(というか丼)、
蕎麦、蕎麦、ハヤシライス、スイーツ、
カレーライス、ドリンク、ドリンク…と続く。
「蕎麦、多いですね…」
蕎麦関連の投稿は、20件くらいありそうだ。
ざっと見た感じ、丼もの、蕎麦、パフェ、アイス、カレーライス、ドリンクで90%占めてるな。
「…ありがとう。」
と言ってスマホを返した。
お茶を一口飲む。俺の推測は当たっていた、と思った。
「で、先輩。解説お願いします。」
「解説?なんの?」
「とぼけないでください。
時計の犯人、誰なんですか?大家?」
「ああ…それね。てっきり余弦定理かと。
犯人は古神と見て間違いない。」
「何故?」
「あの大家のSNSには、
パン、うどんなど小麦粉をつかったものはあげられてなかったんだよ。
蕎麦屋にあれだけいってるんだから、一つくらいその投稿があってもいいじゃないか。だから、あの大家は余程嫌いか、アレルギーかだね。そんな奴が小麦をぶちまける訳ない。あいつの作り話だよ。」
「それだけですか?」
とつまらなさそうに言われた。
「まさか。問題はあの金庫だよ。
重いが、持ち運べる大きさだ。
金目的ならそれも取って良さそうじゃないか。
大体、あいつの時計は入れてるのに、俺の時計は外、というのは不自然だしな。」
「はあ。」
「ま、俺の予想だから実際は違うのもな。
まあいいよ。あの時計はあいつにやろう。
俺の隣にいて話してくれる人間なんて、
あいつ含め数人しかいないんだから。」
そう言って俺は笑った。
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