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「激」 -geki-

『「情」の哲学』の後日談です。読んでない方は有無を言わず読んでください。


“観測”をはじめる↓

https://ncode.syosetu.com/n6440ih/

 そうして、俺は、不変の愛情を――


 例えるなら、鉄の薔薇を。


 サーショへ、受け取られることが無くとも、差し出し続けることになった。






 それはそれとして。






 サーショのすぐ横に居る少女へ、俺の視線は移ろってもいたのだ。

 ……俺は、この移ろいを、否定したかった。

 だが、やはり。

 彼女が特別であることは、気付いたときには最早(もはや)、疑う術は無かった。


 彼女もまた、俺のことを特別だと言ってくれた。

 ――だから、目一杯、しあわせを抱きしめた。


 その少女は、俺と絶対に違う、しかし同じような痛みを抱えて居た。

 ――だから、しあわせのはずなのに、どうにも後味が悪い。


 俺は、彼女に、未来を用意できない気がする。

 ――だから、しあわせのはずなのに、どうにも(くら)い。






 彼女が乗る列車に、俺も乗り込んでしまった。

 鈍行列車が快速になり、それぞれ黄色いアゲハ蝶に成り果ててしまう、その日が、早まってしまったような。


 はじめて、愛おしく髪を()き撫でた時。

 到着してしまうかもしれない、その日にも、こうしていながら、互いを殺すのかもしれないと。

 愛しさにまぎれて、かすかに、しかし確かに、よぎった。




 俺の中に咲いてしまった、嘘色の彼岸花。

 その花の蜜が、鉄の薔薇を、瞬く間に錆びつかせてしまったような。


 俺の囁きに、彼女の抱擁が強くなった時。

 向けられた薔薇が錆びついていることに、サーショが気付いたときの非難を。

 冷静になる最中(さなか)、逃れようもなく、想定した。






 ああ。

 でも。

 俺は。

 どうでもいい。


 俺が特別に想い、そして俺のことを特別と想う、その子は、痛がっているのだ。




 きっと列車を加速させてしまった俺が。

 錆びた薔薇と嘘色の彼岸花でできた花束を抱えた俺が。


 こんなことを請け負うのは間違いなく烏滸(おこ)がましいのだが。




 俺だって、この特別を、守りたい。




 列車から顔を出して風を受ければ、暗澹たる未来も見えないのに、なかなかどうして、しあわせだ。

 馬鹿げたこの花束の香りを吸えば、すべての感覚が無に帰して、心臓が忙しなくなる。




 この心象も、俺の正直な想いだ。嘘偽りは無い。だから受け入れるしかない。




 カササギが守り届ける織姫。

 コールで目覚める眠り姫。

 ただ、おずおずと撫でた頭。

 たまに見ていた、あどけない瞳。


 痛いほどに特別を求める、悪い子。




 俺の、望みは。

 せめて今だけでも。たとえ刹那に消えるとしても。

 守りたい。支えたい。


 嗚呼、解っている。

 どうしようもなく醜い。

 どうあがいても許され難い。

 どうあれ、俺は弱い。




 それでも、この手に、錆びた薔薇と、嘘色の彼岸花が、握りしめられてる。

「薔薇」

色によって花言葉が変化するが、薔薇全体が持つ花言葉は「愛」


「彼岸花」

赤い彼岸花の花言葉は「情熱」「独立」「あきらめ」「悲しい思い出」




Title:「情」の哲学

Theme:愛に至るまで

Type1:ジュブナイル恋愛

Type2:私小説

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