「激」 -geki-
『「情」の哲学』の後日談です。読んでない方は有無を言わず読んでください。
“観測”をはじめる↓
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そうして、俺は、不変の愛情を――
例えるなら、鉄の薔薇を。
サーショへ、受け取られることが無くとも、差し出し続けることになった。
それはそれとして。
サーショのすぐ横に居る少女へ、俺の視線は移ろってもいたのだ。
……俺は、この移ろいを、否定したかった。
だが、やはり。
彼女が特別であることは、気付いたときには最早、疑う術は無かった。
彼女もまた、俺のことを特別だと言ってくれた。
――だから、目一杯、しあわせを抱きしめた。
その少女は、俺と絶対に違う、しかし同じような痛みを抱えて居た。
――だから、しあわせのはずなのに、どうにも後味が悪い。
俺は、彼女に、未来を用意できない気がする。
――だから、しあわせのはずなのに、どうにも昏い。
彼女が乗る列車に、俺も乗り込んでしまった。
鈍行列車が快速になり、それぞれ黄色いアゲハ蝶に成り果ててしまう、その日が、早まってしまったような。
はじめて、愛おしく髪を梳き撫でた時。
到着してしまうかもしれない、その日にも、こうしていながら、互いを殺すのかもしれないと。
愛しさにまぎれて、かすかに、しかし確かに、よぎった。
俺の中に咲いてしまった、嘘色の彼岸花。
その花の蜜が、鉄の薔薇を、瞬く間に錆びつかせてしまったような。
俺の囁きに、彼女の抱擁が強くなった時。
向けられた薔薇が錆びついていることに、サーショが気付いたときの非難を。
冷静になる最中、逃れようもなく、想定した。
ああ。
でも。
俺は。
どうでもいい。
俺が特別に想い、そして俺のことを特別と想う、その子は、痛がっているのだ。
きっと列車を加速させてしまった俺が。
錆びた薔薇と嘘色の彼岸花でできた花束を抱えた俺が。
こんなことを請け負うのは間違いなく烏滸がましいのだが。
俺だって、この特別を、守りたい。
列車から顔を出して風を受ければ、暗澹たる未来も見えないのに、なかなかどうして、しあわせだ。
馬鹿げたこの花束の香りを吸えば、すべての感覚が無に帰して、心臓が忙しなくなる。
この心象も、俺の正直な想いだ。嘘偽りは無い。だから受け入れるしかない。
カササギが守り届ける織姫。
コールで目覚める眠り姫。
ただ、おずおずと撫でた頭。
たまに見ていた、あどけない瞳。
痛いほどに特別を求める、悪い子。
俺の、望みは。
せめて今だけでも。たとえ刹那に消えるとしても。
守りたい。支えたい。
嗚呼、解っている。
どうしようもなく醜い。
どうあがいても許され難い。
どうあれ、俺は弱い。
それでも、この手に、錆びた薔薇と、嘘色の彼岸花が、握りしめられてる。
「薔薇」
色によって花言葉が変化するが、薔薇全体が持つ花言葉は「愛」
「彼岸花」
赤い彼岸花の花言葉は「情熱」「独立」「あきらめ」「悲しい思い出」
Title:「情」の哲学
Theme:愛に至るまで
Type1:ジュブナイル恋愛
Type2:私小説