正直者と嘘つき
チェックメイトだ!
学生寮の一室、学生なら自由に使用できるその部屋で、彼はそう叫んだ。
あまりの大声に、部屋の壁に飾ってある魔法銃のレプリカが暴発でもしたかと思った。
対面の椅子に座る彼は、裏を感じさせない笑顔でにこにこと喜んでいる。
しかし、わたしがすっと盤上の駒を動かすと、今まで座っていた椅子から崩れ落ちる。
「負けた! 嘘だろ!」
チェスの敗北者決定。
君は単純すぎるんだよ、だってすぐ顔に出るし。
そう思ったけど、「おしかったね、あともう少しだったのに」と言葉を返した。
彼はその言葉を疑わない。
「やっぱ、あそこがだめだったか」
見当はずれな方向から、反省会を行っている。
彼と私はとある学校に入っている。
そこでは戦い方について、いろいろと学ばせてもらっているのだが、
私と彼とでは得意分野が全く違う。
彼は体を使うことが得意で、私は頭を使うこと。
座学では毎回、補修をくらっている彼だ。
奇跡でも起きない限り、彼は私には敵わない。
だけど馬鹿正直にそんなことをいうわけがない。
卒業したら、ほとんどの学生が同じところで働く。
誰かの問題児がいたとして、それが原因でチームワークができていなかったら、死ぬのはそいつだけではない。
周りの人間も巻き添えだ。
だから私はうそをつく。
罪悪感なんて感じない。
全ては卒業後、生きるために必要なこと何だから。
チェスを終えたあと、遠隔魔法連絡機械で家のものと連絡を取る。
発明されたてのそれは貴重なので、こういうところかお貴族様のところにしか置いてない。
「姉さん、うちの兄貴はまだ前線から帰ってこれないみたいだね」
「根がまじめなのよ。いわなくてもいいこと言って、上司やお仲間さんにお節介してるみたいだから」
ため息をついて、あれこれ近況報告したあと、通話を終えた。
兄貴はそれで怪我だってしてるのに、こりない奴だ。
正直者を貫いて何になる。
いい見本が身内にいるから、私は正直者になどなりたくないのだ。