02 召喚
さほど広くはないけど、なにも無いせいで広く感じる部屋。
向かい合うのは、白っぽいローブみたいな衣装を着て、外したメガネを頭にのっけて私に視線を向けるお色気お姉さん。
こっちは、鏡の前でとっていたポーズそのままの姿勢の、魔女風ドレスの私。
「…………」
見つめ合う目と目、かなり気まずい。
しかし私は根っからのオタ娘、この手の状況判断だけは早かった。
『異世界召喚、キター』
もちろん、心の声。
「失敗、したのかしら」
お姉さんの声に、私ショック。
呼ばれて第一声が『失敗』って、私、不良品で処分されちゃうんですかね。
「あなた、お名前は」
「磨原煉子です……」
「マハラネルコ、成功みたいね」
ヨシ、認めてもらえました。
なにがヨシなのかは、さておき。
以下は、お姉さんの説明。
ここはあなたのいた場所とは違う世界
二度と元の世界には戻れない
生き延びたかったら
私の言う通りになさい
ぞくぞくしました。
このシチュエーションで、あんなお色気お姉さんに『言う通りになさい』なんて言われて、逆らえるオタ娘がいるでしょうか、いや、いるまい。
「何を、すればいいの?」
ちょっと怯えた感じで、か弱そうに見せるのがポイント。
「まずは固有スキルを調べなきゃ、ね」
うほっ、スキルありの世界ですぜ。
ここは一発、いいとこ引けますようにっ。
お姉さんが目をつぶって、何やら集中しております。
駄目だよお姉さん、もし私が健康な若い男子だったら、目をつぶって隙だらけのお色気異世界お姉さんなんて速攻で餌食だよ。
カッと目を見開いたお姉さん、
「あなたの固有スキルは『貯運』ね」
あー、さっきの私のわくわく感を返してください神さま。
「確か天秤系のレアスキルだったはず、良かったじゃない」
『貯運』:不幸ごとがあるたびにポイントが貯まって、任意で開放すると蓄積ポイント分のラッキーイベントが起きる。
問題は本人にどのくらいのポイントが貯まっているかを確認する手段が無いこと、って、なんじゃそりゃ。
がっくししている私を、お姉さんが手招きしている。
かわいそうな駄目っ娘を慰めてくださいな、お姉さま。