第7話 蟹を狩る
明けて翌朝、21日目。
準備を入念に終え、早速白波海岸の攻略に乗り出す事とした。
コアの報告によると、西側の岩場は東側と違い、蟹の魔物が多くなると言う事なので、作戦が必要だ。
そこで俺達は、今持つ最大のアドバンテージを生かす事にした。
白波海岸の東側岩場は、袋小路の森の南西山岳エリアに面している。
よって俺達のするべき事は、山岳エリアに防壁を設置し、安全地帯からルー先生を随時投入、エリアボスを釣り上げる事だ。
先ずは防壁の設置。
『袋小路の森最南西の山岳は、岩場に向けて凹凸が激しい為、十分な機能を要する外壁を設置する場合、合計で2万DP程掛かります』
「実行で」
ゴルボルズの件を考えると万全とは言えないが、対D級の安地の完成だ。
後はいつも通りルー先生を放ち、今回はボスだけでは無く、他の蟹を引き寄せて狩る方式にする。
理由は、D級がボスだけとは限らないからだ。
可能なら1体ずつD級やE級を生息地から引き剥がし、敵が自然的に組み上げた牙城を打ち崩す。
作戦としては些か冗長だが、蟹の防御力を考えると爆石や上級スクロールの力が必須だから仕方ない。
牛や猪の様に生身があるならともかく、外骨格に覆われたその肉体を打ち崩すにはパワーが足りないのだ。多分。
まぁ、その確認も兼ねて、早速ルー先生には弱い奴から釣り上げて貰おうか。
◇
プチクイーン達を一応引き連れ、マリオネットに5倍ルー先生を使わせ、待つ事数分。
早速、蟹が釣れた。
岩場を越えて森側へとやって来たのは、蟹3匹。
どれも俺の膝よりデカい大蟹で何より片方の鋏が巨大だった。
『F級2、E級1です』
「了解」
コアの報告と指示は同時だった。
飛び出したプチクイーン達が蟹を両側から抑え込み、鋏に挟まれないよう特に気を遣って、それらをひっくり返す。
その甲殻の薄い口目掛け、砲口を押し付ける。
果たして——銃撃音。
『F、沈黙しました。チェス・プチクイーンの銃撃は有効です。続けてEも沈黙しました』
2発目の銃弾を口から撃ち込まれ、E級の蟹は沈黙した。
銃弾は甲殻で跳ね返っている様で、体内は中々に蹂躙されている。それでも生きているのだからE級はやはり強いのだ。
「これなら狩りは出来そうだな」
『そうですね、不確定な要素が多い海と言う点が不安要素ではありますが、支配後の殲滅は容易かと思われます』
まぁ、コアが言うならそうなのだろう。最悪転移で離脱させられるだけの時間を稼げる防御力が、プチクイーン達にはある訳だし。
「それじゃあ次、デカいの持って来てくれ!」
そう声を掛けるや、まだまだエネルギーに満ち溢れたルー先生が出発した。
『プチクイーンは撤退してください。マリオネットはスクロールの準備を』
コアの指示で配置替えを進め、そうこうしてる内に、遠目に巨大蟹が見えて来た。
間違いなくD級の巨体。しかしエリアボスかと言うと……前に戦った個体と似た感じに見えるな。
近付いて来た巨大蟹に、先ずはヴォルテクスジェイルが発動した。
蟹の巨体が浮かび上がり、水流に閉じ込められる。
ぐるぐると回転する水はしかし、期待通りD級を閉じ込める事こそ出来ているが、ダメージにはなっていなさそうだ。
そこへ放たれたのは、サンダーボルト。
弾ける雷撃が蟹を襲い、その動きを止めた。
『まだです。全身にダメージを与えましたが、気絶させるに留まっています』
「次だ」
ヴォルテクスジェイルが消えて落下した蟹に、次に向けられらたのはコールドストーム。
『手足の凍結を確認、ですがまだ生きています』
「頑丈だな」
『それだけD級の魔法抵抗が強いと言う事です。後コールドストーム1発で倒せるかと』
「じゃあそれで」
浴びせかけられた2発目のコールドストームにより、蟹は落命するに至った。
『ヴォルテクスジェイルとサンダーボルトのコンボが極めて大きなダメージを負わせた物と見られます』
「じゃあ次はサンダーボルト2発で行こう」
と、その宣言通り、次に連れて来られた巨大蟹は、ヴォルテクスジェイルで持ち上げられ、サンダーボルト2発を撃ち込まれて絶命した。
『やはり、雷属性は彼等に大きなダメージを与える様です。まぁ、順当ですね』
「弱点属性って訳だ」
まぁ、水は電気に弱いよな。増してヴォルテクスジェイルで体内へ電気が流れるルートを作ってる訳だし。
次を釣りに行ったルー先生を見送り、あれこれ話をする。
「にしても、D級を案外あっさり狩れてるな」
『相手がD-級だからこそでしょう。ゴルボルズはD+級。それだけでも戦力差は倍に開きます』
「成る程」
確かに、ゴルボルズなら、ヴォルテクスジェイルを破壊して来そうな気がする。
そうこう話をしてから数十分。
待てど暮らせど、ルー先生は帰って来なかった。
「……遅いな」
『……安全な引き寄せが困難な状況に陥って戦闘に移行した可能性があります。追加を使用するべきかと』
「……実行だ」
エリアボスと接触したかもしれないしな。
追加の5倍ルー先生を放ち、待つ事暫く。
——遂にそれは現れた。