第23話 決戦の大平原
第三位階中位
防壁と罠の設置後、マリオネットがコアの指示でルー先生を10分に一度のペースで送り込み、一方俺はギリギリまで訓練に励んで、夜になった。
作戦開始だ。
早速落とし穴の手前に、ゴルボルズの頭骨を設置する。
念の為ルーセントソードを送り込み、誘導の手助けを任せると、程なくして、月に照らされた斑模様の草原に土煙が起きた。
——GuMoooーー!!
その咆哮は、大平原に響き渡った。
現れたのは、牛の群れ。
数は分からないが、明確に防壁を敵と見て此方へ突進する構えだ。
先頭を走るのは、ゴルボルズ。
全身に淡い光を纏い、一直線に此方へ向かっている。
その筋肉の塊の様な肉体は、度重なるルーセントソードの襲撃により、表面上は傷だらけになっていた。
そんな巨獣は、凄まじい突進の勢いそのままに——
——巨大落とし穴に易々と嵌った。
「今だ!」
『第一波、攻撃開始!』
それを合図に、次々と木槍の張り巡らされた落とし穴に落ちて行く牛達目掛け、スクロールの魔法が順繰り放たれる。
ゴブリン達も次々とスクロールを使い、牛達を殲滅して行く。
後方にいた数匹の牛が落下を免れる中、それは起きた。
——低かったのだ。
落とし穴の高さが。
しかし、射線を確保する為に仕方ない高さだった。
ダメージを受けながらも、ゴルボルズは全身に光を纏い、暴れ回りながら木槍を薙ぎ倒した。
それは、助走の為の平地を得る為だったのだ。
不味いと思った時には、もう遅い。
光を纏うゴルボルズは、十分な助走を得て、飛翔した。
——正に飛翔。
巨体とは思えない程に、緑に変わった光の粒子を纏って、ゴルボルズは崖側に飛び付いた。
「っ! 脱出させるな!!」
『攻撃集中』
距離がある為狙いを外しながらも、スクロールの魔法がゴルボルズの背中に集中する。
俺も直ぐに破石をゴルボルズ目掛け撃ったがしかし——
「くっ!」
——脱出を許した。
どうする!
撤退か、続行か!
そう思考する間にも、ゴルボルズは落とし穴を回り込み、今度は赤い粒子を纏い、光を放ち始めた。
まさか、このまま壁に突撃するつもりか!?
そうと思った次の瞬間、ゴルボルズは申し訳程度のサブ落とし穴を勢いだけで越え、派手に転びながら壁に衝突した。
ズドンッという凄まじい衝撃に、ゴブリン達が倒れ、何体かのウッドワーカーやカースドピグマリオンが落とし穴側に落下する。
「転移だ!」
『直ぐに!』
牛達はほぼ死んでいるとは言え、万が一もある。転移の指示を出して直ぐに、被害状況を確認した。
ゴルボルズが滑り込んだ壁は、コンクリートが砕け、破損していた。
次同じ突撃を受ければ完全に破壊されるだろうし、突撃をまともに受ければ破壊は免れない。
そして奴は学習する筈だ。
次の突撃はさせてはならないし、此処で仕留め切らないと次のチャンスは無い。
「射線が開いている奴は今の内にゴルボルズにダメージを重ねろ。俺が出る」
『……承知しました、マスター、御武運を』
送り出されるままに、防壁を駆け抜ける。
ゴルボルズは強い衝撃を前に、未だにスタン状態だ。
次々と攻撃が横をすり抜け、ゴルボルズをおそう。
それと同時に俺も破石を撃ち込み、ダメージを重ねた。
敵が起き上がる前に、飛び掛かる。
引き抜いたのは、サーペンタイン。
それをゴルボルズの背中目掛け、突き刺した。
「よし!」
距離を取りつつ、転移で離脱を指示しようとした時、それは起きた。
『マスター!!』
「クェェッ!」
「な、っ!!?」
突然草陰から戦場に現れたのは、いつだかに見た、想定Dランクの大鳥。
鳥はゴルボルズから距離を取っていた俺に噛み付く。
咄嗟にナイフを抜こうとするも、全く間に合わない。
そうと思ってる内に、鳥は俺を放り投げ、俺は鳥の背中に着地した。
「な、にッ……!?」
『マスター!?』
そのまま鳥はスタコラ走りだし、俺では到底飛び越えられない落とし穴を飛び越えた。
起き上がったゴルボルズもそれに続く。
「グモォォォッ!!」
「クェェッ!!」
赤い粒子を纏い始めたゴルボルズ目掛け、俺はマナキャスターを向け、残る破石を放つ。
攫われてんだか援護されてんだか!
訳が分からないまでも、あの破裂音を響かせる嘴で食いちぎられなかった事から、大鳥は取り敢えずの助っ人として認定する事とした。
今の俺に出来るのは、マナキャスターによる射撃のみ。
「マナバレットだ!」
揺れる銃身、それをシーカーが鳥に張り付いて固定する。
音も無く放たれる複数の弾丸。
その何発目かで、此方を追い掛けるゴルボルズが激しく転倒した。
追い掛ける速度も落ちていたし、ゴルボルズは確実に弱まっている。
今しかない……!
俺は鳥から飛び降りつつ、ルー先生を召喚した。
ルー先生は流石で、勢い良過ぎる俺のダイナミック飛び降りを見事に補助、更に——
「喰らえ!」
——日和って投擲の姿勢に入る俺をシーカーとルー先生がこれまた見事に補助、ペインナイフは狙い違わず、ゴルボルズの頭に突き刺さった。
——GuMooo!!?
「浅いか!」
頭の激痛に悲鳴を上げたゴルボルズがのたうち、俺の真横を風が駆け抜けた。
——一瞬だ。
大鳥は一息にゴルボルズに近付くと、その頭部目掛け、オーラを纏う蹴りを放った。
ドゴォォンッと、まるで砲撃の様に、夜に響く豪音。
鳥の蹴り上げはゴルボルズの顎を穿ち、その巨体をひっくり返した。
果たして——倒れ伏したゴルボルズは痙攣し、後に弛緩、その後2度と起き上がる事はなかった。
「クェェ!」
パコンッと嘴を鳴らして吠える鳥に、俺も取り敢えず腕を上げて応える。
すると鳥は走り去り、瞬く間に西の森へと消えて行く。
「……ヒーローかよ」
なんだったんだ。
取り敢えず言えるのは、あの身軽さと、あの攻撃力。
とてもじゃないが有効な作戦を思い付かない。
先ず間違いなくD級、足特化型の異常な進化個体。
何故かって、あんなのが2体も3体もいたら、今頃あいつらの天下だからな。
ともあれ、俺は直ぐにコアの支配範囲内に戻った。
『マスター! よくぞ御無事で!』
「毎度毎度本当にな」
そんな軽口を叩ける事に感謝しつつ、気を改める。
「それで……被害は?」
緊張する俺に対し、コアはゆっくりと言い放つ。
『人的被害は0です』
「しっ!!」
今度こそ、俺は拳を握り締めた。
やった。
やったぞ。
遂に、D級をほぼ正面から、一切の死者を出さずに落とした。
ゴルボルズ2体を……まぁ、色々手助けはあったが、仕留めた。
「コア、壁上に転移を」
『はい、マスター』
防壁上に転移後、俺は拳を突き上げた。
「俺たちの勝利だ!」
『我々の勝利です!』
ゴブリン達から歓声が上がり、ウッドワーカーやカースドピグマリオンがボスボス音を立てる。
喜びが夜をこだまする。
今の内に支配を進めておこう。
「コア、支配を」
『承りました。全て合わせておよそ9万Pです』
「実行」
異世界転生18日目。
俺達は、2つ目のエリア、勇猛大平原を支配した。
皆が騒がしく祝う中、俺は少し寝転がり、広がる星空を仰いだ。
名前:Unknown
性別:男
年齢:Unknown
神霊階梯:第三位階上位
神霊数値:【16】
技能力:
『短剣術』
『体術』
『照準(NEW)』
『瞑想』
『魔力感知』
『思考明瞭』
『隠密』
『疾駆』
『耐久走』
『木工』
『石工』
『痛撃耐性』
『精神耐性』
『???の瞳』
『ーー神の加護』
◇◇◇Next stage◇◇◇
◇◆◇白・砂・浜◇◆◇