第22話 避け得ぬ闘争
第三位階中位
明けた翌朝、それは起きた。
「……なんて?」
『支配エリアが押し返されています』
「……なんで?」
『ゴルボルズが二分していた信仰が一つに纏った為と考えられますが、正確な原因は不明です』
まじか。まじか。やばい。何が?
修行中だったが故に、直ぐに回らぬ頭で考える。
支配エリアが押し返される? 支配は確かに……此方だけの特権では無い。
だけど……支配後は絶対的な物じゃ無いのか?
『マスター、支配エリアの後退は即時の物ではありません。ですが勇猛大平原西部に沿って置いた支配エリアは、非常に細く支配している為このままでは持って数日。同じ時には袋小路の森最外壁も勇猛大平原に組み込まれる物と考えられます』
「……」
多い情報量を噛み砕いて行く。
つまり、何だ……あと数日以内にゴルボルズの2体目を仕留めないと、少なくとも勇猛大平原西部の支配と言うイニシアチブが失われる。
おまけに10万DPで設置した壁と罠も失われ、ゴルボルズ侵攻時の優位性も奪われると。
「……数日ってのは?」
『おおよそ2〜3日と目されます』
早いな。
いや、猶予はあると取るべきか。
「……ゴルボルズを釣るにはどうすれば良いと思う?」
釣って狩る。
白兵戦が出来ない以上、それしか無い。
『現在地脈から得た情報によると、最適と思われる方法が1つあります』
「ほう!」
それは朗報だ。
『ゴルボルズは、何らかの角の神性を保持している事が確認されました。よってゴルボルズの角を餌にする事で、ゴルボルズを引き寄せる事が可能と思われます』
「よし!」
それなら袋小路の森側に引き寄せて——
『ですが、袋小路の森側への釣り寄せは3日程度掛かる可能性があります』
「っ……」
まじか。そうなった場合、最悪平然と壁を突破される可能性が高い。
そうなったら、下手をしたら白兵戦、そうでなくとも薄い山岳防壁で戦う事になる。
起こり得る被害がデカ過ぎる。
『逆に、勇猛大平原西部であるならば、即時に釣り寄せる事が可能と思われます』
「? それは?」
『自負の差です。2体目のゴルボルズは勇猛大平原の西部を支配していると自負していますから』
「成る程」
縄張りに餌が転がり込んで来るか否かの差か。
確かに、今俺が落ち着いているのは、敵が袋小路の森にいないからだ。
もし敵が入っていたら、即時に対応しに行く。
それと同じだ。
拳を打ちつけた。
パァンッと乾いた音が洞窟内をこだまする。
「よし、決戦はどうする」
『ゴルボルズは昼行性です。シャドー達も動ける夜間が良いかと』
「なら決戦は夜だ」
『ゴブリン達は参加させますか?』
「……」
少し、目を瞑る。
何故、俺は……ゴブリン達の参加を躊躇したのか?
「はぁ……」
きっと2つ。
正式に仲間になったとは言え、緊急時の彼等の動きが分からないからだ。
意図しない動きをするかもしれない。逃げ出すかもしれない。そう思った。
それと同時に、そう同時にだ。
俺は……。
「っ!」
パァンッとまた、乾いた音が洞窟内をこだました。
俺が両頬を張った音だ。
心配そうに、シャドーシーカー達が此方を見上げるのに、俺は笑って返した。
そうだ。俺は、ゴブリンは増えるのに時間が掛かるだろうと思った。
死ぬ可能性を考えないのは愚かな事だが、仲間の命を軽視したのも間違いない。
改めろ。
どんなに小さくてどんなに多くとも、そして命に値札が付いていても、命は決して安く無い。
ゴブリン達は、ゴルボルズの亡骸を見て、戦いたいと頻りに言っていた。
現状は彼等にもう伝えてある。
外敵に襲われるばかりの修羅の道。
それでも尚、俺等の傘下に降り、共に戦いたいと、彼等は皆、そう言った。
——彼等は戦士だった。
彼等の誇りを裏切る事は、彼等を殺す事と変わりない。
誠実に行こう。
「……ゴブリン達に、酔い覚ましのポーションを」
『承知しました』
「夜には活心も掛けてやってくれ」
『マスターの御心のままに』
さてさて、準備の時間だ。
◇
勇猛大平原西部に、平原を囲む様に広域にわたって外壁を設置した。
内向きだから背後を取られると厄介だが、今回は背後の護衛をシャドー達にやって貰う。
シャドー達の群れなら、水平エスカレーターを使ったりして敵を戦わずして足止め出来るだろう。
シーカーは念の為俺に宿って一緒に戦う。
主に戦うのは、ウッドワーカーとカースドピグマリオンのおよそ1,000体に、ゴブリンおよそ500体。
使うのは、スクロールを100枚ずつ。
敵は群れで来るだろうから、先ずは落とし穴に嵌めて、とにかく倒し次第遺骸をコアが回収する。
安全地帯から徹底的に遠距離攻撃に徹する作戦だ。
それに加え、昼から徹底的にルー先生を送り込み、ゴルボルズをピンポイントで挑発し続ける。
コレでうまく行ってくれれば良いが……。