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第5話 戦いに備えて

第三位階中位

 



 俺が立ち上がると、コアは話し始めた。



『先ず地形ですが、この地の西から北に掛けて森が広がっている様です。その森を囲う様に小さな山脈が並び、森を出るには山を越える以外では西しかありません。私はこの森を『袋小路の森』と命名します』

「袋小路の森、か」



 まぁ確かに、西にしか出入り口が無いなら袋小路だな。



『私達は袋小路の森の中心から見て南東の端にいます』

「立地的には良いのか?」

『水源から離れているので外敵が比較的少ないと言えるでしょう』



 でも群れがいるんでしょう? 例外は何処にでもあるわな。



『袋小路の森に存在する主な脅威は、見えた所では鹿、猪、熊、それからゴブリンです』

「ゴブリン」



 来たなファンタジー生物め。読めたぞ、群れてんのもお前らだな?



「近くの群れってゴブリン?」

『御明察の通りです。ゴブリンは高い繁殖力を持ち、環境適応能力も優れている魔物なので、何処ででも沸きます』

「強いのか?」

『数を増やせば文明の様な物を起こしますが、今は精々棍棒や石斧を使う程度でしょう。夜目を持つ為洞窟内での活動は得意ですが……狩りならともかく戦闘の経験が少ないので大した敵では無いでしょう』



 それを言ったら俺も戦闘の経験は無いような物だが……要は敵を囲うとか背後を取るとか罠にかけるとかの発想が無いって事だろうな。

 俺は前世が情報過多だったからその程度なら考え付くが、原人みたいなゴブリン達は、追っかけると挟み撃ちと棒を振るくらいしか想像出来ないって事だ。


 逆に言うと、しっかりやり方を教えれば学んで強くなる可能性はあるって事じゃないか?


 うーむ。弱い奴が強くなるってのはロマンだよなぁ。どんな勇者だって最初はレベル1だからな。それはそうとゴブリンは潰す。寝首を掻かれるのが怖いから。



『森の南東には大した脅威が見られない様なので、暫くは安全でしょう』

「そりゃ吉報だな。迷宮の気とかで強い敵が南東に来る事とかは無いのか?」

『ですので暫くは。なんです。余程の事がない限り向こう10日間くらいは安全でしょうが、この距離なら森の敵は必ず引き寄せられて来るでしょう』

「油断は出来ない、か」



 見立ては10日だが、明日にでも来る可能性はあると思っておこう。



「具体的な脅威は分かるか?」

『私のデータベースと地脈からの記憶を照らし合わせた結果、この地に生息する大きな脅威は3つです。1つはゴブリンを率いる最低位の統率種、ゴブリンリーダー。2つ目は、大きな鎧纏う猪ビッグアーマーボア。3つ目が、大熊のビッグベアー』



 ゴブリンと猪と熊だな。


 ゴブリン弱いって話しだし、南西には強い外敵が少ない。俺等の拠点とゴブリンの拠点が近いのは当然の事だったか。


 起きるべくして起きる衝突だ。



『森の北や北西部に強い魔物が多いのは、おそらく大陸の中心部に近いからではないかと予想します。微かな情報から考えるに、この場所はちょうど大陸の南東の端っこなのでしょう』

「端の端か。そう言う事も関係してくるんだな」

『森の北部にはおそらく小さな地脈の噴出孔があるのだと考えられます。大気中の魔力濃度が少し高いようなので、その事も含めて、北部の魔物が此方に来るのには大分余地がある事でしょう』



 それが10日程の根拠か。美味い餌場にいるからより美味い餌の匂いに気付くまで時間が掛かるって事だな。



『外敵の予測ランクは、F-からE+。マスターはおおよそE-なので、外の探索は基本的に不許可です』

「流石の俺もそんな所は出歩かんぞ」



 自殺願望はありません。過酷な環境の檻に好きこのんで入る奴なぞいるものか。



『肝心の支配についてですが……』



 そこが1番聞きたい所だが、コアは何処か歯切れ悪く言葉を切った。



『……そうですね、簡潔に言って……この袋小路の森には、エリアボスがいます』

「ほう?」



 エリアボス? なんだそれ、強そう。



『詳しく説明すると長いので簡略化しますが、周囲の生命体と本生命体の畏怖や自負等により、ある一個の生命体が土地の支配権を握る事があります。袋小路の森の場合は、森の殆どがその支配下にある様です』

「……つまり、そいつを倒さないと支配権を確保出来ないって事か」

『出来ない事もないです』

「出来るんかーい」

『周辺の山脈や森の外周部ならば安価で支配できますが、既に支配下にある土地を奪取するには通常の何十倍、下手をすると何百倍ものDPを消費します』



 何十倍、悪いと何百倍か……それは痛いな。

 出来てもしない、が……最悪敵が強過ぎる場合とかは選択肢の一つだな。



「事情は分かった。エリアボスは必ず仕留める。件のエリアボスの情報を教えてくれ」

『袋小路の森を支配するエリアボスは、熊の魔物です。ランクはおそらくDに届いているでしょう。先ずはより詳しく情報を得る為、この場に十分な地盤を築いてから調査隊を派遣する事をおすすめします』



 これで当面の目標が決まったな。


 仮称袋小路の森を支配する為、エリアボスを倒す!

 その為に地盤を固める!


 取り敢えず近くのゴブリンの群れを倒す!


 ……その為の地盤を固める。


 先ずは出来る事の確認が必要だよな。



「目標討伐の為、差し当たって今俺達に出来る事を確認して色々考えようと思うが?」

『それが良いでしょう。賢明です』



 参謀殿から太鼓判を押されたので、特に俺の知らない優先事項は無いって事で良いんだろうな。

 早速未だ見ていなかった『機能』を確認しよう。


 表示されたのは、2つのタブ。機能と機能拡張の2つだ。


 開かれている機能の方は6つの項目がある。1番上の魔物生成は、例のH級魔物を生成する物。

 その下にあったのは、魔物進化と言う項目だ。


 選択してみると、何も表示されない。

 ……進化出来る様にならないと表示されないタイプなのか、それとも他に何か条件があるのかは分からんが、取り敢えず保留だ。


 3番目は、保存空間。例の今は石が沢山詰まってる空間だ。



「それって中覗けるのか?」

『どうぞ』

「おお!」



 唐突に、目の前に穴が現れた。


 中はざっと最初の広間と同じくらいの空間で、綺麗にカットされた石材が部屋の4割を占めている。


 目下にあったのは、これまた綺麗に解体された蛇だ。

 2本の鋭い牙と皮と骨と肉、そして目玉。それ以外は無い。いつのまにかジェリーに食わせていた様である。



「じゃあ次は停止空間を見せてくれ」

『ちょうど良いので素材をそちらへ移行します』



 4番目の項目、停止空間は、保存空間と同じ様に開いた。

 中は保存空間の4分の1くらいしか無い。



『この空間は閉じている間時が停止します』

「そりゃ便利だな」



 惜しむらくは持ち歩きが出来ない点か。言ってしまえば凄い力を持った重い金庫みたいな物だな。


 その次の項目は、視覚共有。


 最後が、技能習得スキルアクティベーション


 開いて見ると、出たのは2つだけ。短剣術150Pと、隠密120Pだ。



『それは主にマスターを強化する機能です。取得しておいて損は無いでしょう』

「成る程」



 心当たりはある。蛇から隠れて奇襲したのと、蛇の首を刎ねたやつだ。


 合計270Pか……これはピグマリオンを270体生成するのと比べてどうなんだ?

 ……いや、現状の最大戦力を強化する事に意味があるのか。それに迷宮の保護対象である俺の防衛力を上げる事にも繋がる。


 ここは取っておくべきだろう。



「取得取得っと」



 ぴぴぴっと選択するや、コアがじんわりと光を放ち、幾何学模様が展開された。


 模様は光りながらコアの中心へ収束し、光の玉へと変わって飛び出した。



「お、おお?」



 光る玉は迷いなく俺の方へ飛んで来て、胸に飛び込む。


 少しくすぐったく、仄かに暖かい。奇妙な感覚を間髪入れずに2度味わうが……特に何かが変わった様な気がしない。


 試しにナイフを振ってみる。


 腰に佩いたナイフは、思いの外素早く抜けた。


 横薙ぎ、突き、振り下ろし。ナイフを投げて持ち替え、殺意高めな逆手の突き込み。


 何というかアレだな……そう、足捌きと体捌きが少し良くなったかもしれん。

 ナイフに重みが乗っている気がする。あと驚いて何も言えねぇくらい手先が器用になってる。


 ナイフを何の抵抗もなく投げて持ち替えた瞬間から振り下ろして残心をするまで完全に思考が停止していた。


 ……冷静に考えると人間技じゃない訳では無いから、必要なのは知識と経験と度胸だろう。

 つまり、このスキルと言う奴は、知識と経験を賄う機構なのではないだろうか? ……この場合度胸は無意識だったから関係ないな。



「隠密は……」



 どうしたものかと辺りを見回すと、ちょうど……ひっくり返ったプラ容器に収まってるジェリーとそれに手を突っ込んでバチャバチャやってるシャドーウォーカー達がいたので、隠密を意識して近付いて見る。


 ふむふむ、足音が小さくなったか? それに体の動きが少ないと言うか、揺れが減った感がある。後、呼吸もなんか普通と違うかも? 分からん。

 取り敢えずシャドーウォーカー達は気付いて無いな……遊びに夢中なだけと言う可能性も捨て切れないが。


 両手を広げ、蟹歩きみたいに左右へウロウロして見るが、全く気付く様子を見せない。

 そうこうやってる内に、池や畑で遊んでいたシャドーウォーカー達が集まって来て、俺と同じ動きをし始める。


 暫くして、ようやく仲間が何かやってる事に気付いたシャドーウォーカーがギョッと此方を見上げた。

 俺は何食わぬ顔でコアの前に戻った。他のシャドーウォーカー達も俺の動きに合わせてわーっと散って行き、池や畑に戻った。


 目の無い奴等の視線を感じた気がするが気の所為だろう。



 ……次は機能拡張を見てみるとするか。


 表示されたのは、アホほど高額な沢山の機能だった。



「おお、生体解析アナライズ属性抽出エレメンタルアブソーブ。それに保存空間と停止空間の拡張もあるな」



 たけぇ。アホほどたけぇ。

 なんかチラッと見た感じ、ゼロが10個ぐらい並んでるのもあったぞ。目が潰れるかもしれん。


 ソート機能を使い、取り敢えず100P圏内だけを表示してみる。



「保存空間拡張に短距離転移? と活心? 地脈吸収量増加?」

『短距離転移は支配領域内のみ、短い距離の転送を可能とする機能です。消費DP量は荷の空間を占める範囲で決まり、マスター1人程度なら1DPでの転送が可能です』

「……取っとこう」



 結構大事そうだからな。



『活心。睡眠が必要な生命体に特に有効な疲労回復機能です。おおよそ8時間眠ったのと同程度の回復効果があります。1DPでの行使が可能です』

「取っとこう」



 凄い便利そうだしな。地盤を固めるまではそれを使った方が……いや、でも1DPも惜しいかもしれないし、使うのは少しだけ様子を見るか?



「地脈うんたらってのは?」

『地脈吸収量増加ですね。此方は地脈から吸収可能なDP量が増加します』

「ふーん……それ、重要じゃね?」



 最重要じゃね? だって魔物も生成しなくて良いし敵も倒さなくて良い不労所得が増えるって事だろ?



『あくまでも吸収可能枠の増量であって吸収出来る絶対量を増加する機能ではありません』

「……その心は?」

『現在の支配エリアで得られるDPの絶対量は108Pです。なので吸収枠を100から108まで増やすと効率的と言えるでしょう』

「すんませんでした」

『?』



 理屈は分かった。そしてこの108って言う数値は意図された数値だろうと言う事も分かる。


 煩悩を見透かされてるぜ……!



『エリア支配を進める事で吸収可能な絶対量は増加しますが、その増加量は地脈や噴出孔との距離で変動するので、あまり近くを支配しても絶対量が大きく増加する事はないでしょう』

「ふむ……まぁ、支配の特典と思えば有難い話だな」

『通常であれば小さかろうが地脈と密接な関係のある山を支配すれば絶対量も相応に多く増加するのですが、此処は支配者がいる為エネルギーの大半が森の糧になっている様です』

「……そう言う事もあるのか」



 どのみちボスを倒さないとダメって事だな。


 寧ろ分かりやすくて良いくらいだわ。



「取り敢えず108まで増やしといてくれ」

『80P消費してDP獲得量を増加しました』



 よし……これで機能の確認は終わったな。


 次は魔物達の身体検査だ。



 

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