第6話 約束のおまじない
コアマジロが情報交換をしてくれているので、俺の方は取り留めもない話で友好度を上げて行く。
なに、コアの奴なら抜かりあるまい。
安心していろんな話が出来た。
「最初は森だったんデスネ? 私は湖の畔で、一歩先が湖だったので外に出るのに苦労しまシタ」
「となると最初の敵は水棲系が出たのか?」
「いえ、苔の塊みたいなのが出まシタ」
「へぇ……それ以外には何がいたんだ?」
「大きな羽虫と鳥みたいな顔の熊みたいなのデス。鳥みたいな味だったので多分鳥だったのカト」
出現魔物の話をした。
小規模世界と言う話だし、おそらく虫が苔を食い、鳥熊が虫を食い、それらが死んだら苔が分解する様な生態系だったのだろう。
「武器は何を使ってる? 俺はナイフと銃型の投擲器だが」
「私は……虫には槍、熊さんには大剣、苔にはハンマーを使いマシタ」
「へぇ、色々買ったんだな」
「いえ、コアさんが作ってくれマシテ……色んな鉱石のちょっとした鉱脈があったらしいのデス」
「ほぅ? ……防具はどうしてる?」
「制服の上から着れる大きな鎧を作ってくださいマシタ」
「そいつは良いな」
装備の話をした。
どうやら、白鎧のコアは魔物の生態にはそう詳しく無い反面、装備作成とかに関してはかなりやれる方らしいな。
後は……どうも白鎧……元からとんでもないパワータイプらしい。全身鎧着て苦も無く大剣振り回せるって事だろ?
「そうなんデスネ。私はDPが全然貯まらなくテ……それに死んでしまうと悲しいカラ、あまり生成してないんデス」
「まぁ、悲しいは同意だ。なるべく生きていて欲しいよな」
「だから私、自分で戦っていマス」
「俺もさ……とは言え兄弟の鎧のちびはそう簡単には死なさそうに見えるが?」
「はい、この子達は熊さん以外には負けまセン! 水の中でも動けマスシ、とっても良い子達デス!」
配下達の話をした。
要は戦闘方面におけるピグマリオンの上位互換。単純な防御力に加えて針みたいな槍を背負ってるから攻撃力もあるし、かなり強い部類だろう。
それから、好きな食べ物の話。楽しかった話。普段やってる事。取り留めもない事を延々と話していた。
どちらかと言うと白鎧から切り出す事の方が多く、余程不安だったのだと見て取れる。
まぁ、実に有意義な時間ではあったな。俺もリフレッシュ出来たし……境遇が同じって点がやっぱり大きい。
◇
初対面でも会話は弾み、いよいよ別れの時間が来た。
ここでやる事は全部済ましてあるし、直ぐに帰っても問題は無い。
それでも帰らず、白鎧と並んで月を見ていた。
やけに鮮明で丸い白銀の月が、広い庭を照らしている。
それは神秘的で、静謐で、孤独を……いや、孤高を感じさせる。
……名残惜しいと言うのもあるが、ここが今までで1番の安地ってのもあるんだろうな。
広い庭と会場。
箱庭ではあるが、此処に居たいと思う。それ程には、未開の世界に放り込まれるのは不安だった。
「……そろそろ、時間デスネ」
「そうだな……」
ぽつりと白鎧が弱音を零す。
「……もっと長く、此処に居たかったデス」
「俺もだ」
C級でもそう思うんだから、異世界支配はキツイ仕事だな。
「……また、会えるでしょうカ……?」
「……」
俺も会いたいよ、と言う言葉を呑み込む。
傷は十分舐め合ったさ。なら次は未来を見据えるべきだろう?
俺は立ち上がると、白鎧に手を差し出す。
首を傾げながらも、白鎧はその手を取り、俺に引っ張られて立ち上がった。
その手を握ったまま手のひらを上向かせ、もう片方の手を据えた。
「……手前味噌だが、結構上手く行くんだ」
上手くいくと思い込んでおけ。
此処で出来る事。マスター間で出来る事。この体で出来る事。
今分かる全ては調べが付いている。
ぐっと力を込め、この体なら案外とはっきり感じられる魔力の動きを、どうにか手元へ集約させる。
そんなに難しくは無かった。元々それが出来る様な機能をこの体が持っていたからだろう。
手を退ける。
白鎧の掌の上には、俺から分裂したシャドーウォーカーがいた。
「まじないって奴だ。手作りの物とかを持ってると、次も絶対会えるってな」
——これは誓いだ。
次もまた白鎧と会う為だけじゃなく、俺がそれまで生き残る為の。
マスター間の合意があれば、魔物の支配権を譲り渡す事が出来る。
コアが料理を持って帰れる様に、此処で生成した魔物を連れ帰る事が出来る。
まぁ、何も作れないこの場所で、唯一魔物だけは生み出せるから……苦肉の策って奴だな。
白鎧は掌を見下ろし、産まれたばかりのそれを撫でた。
そうと思ったらガシャリガシャリと走り出し、コアマジロの方へ行く。
何やらごにょごにょ言い合った後、唐突に、白鎧はナイフやフォークを食べ始めた。
…………あんなに食ったのにまだ……しかも食器を……。
C級モンスターの突然の奇行に怯えていると、白鎧は直ぐさま此方に駆け寄り、俺の手を取る。
「ぐむむ……」
何やら唸り始めた白鎧に戦々恐々とする俺を差し置き、白鎧は凄まじい握力で俺の手に負荷を掛ける。
……影の義体じゃなかったら潰れてたが……?
果たして、白鎧が手を退けた時、そこには——小さな白の騎士がいた。
「はぁ……上手く行きマシタ」
……そういや、金属食べて増えるって言ってたな。
「その子を連れて行ってくだサイ」
「ああ、任せろ。そっちもよろしくな」
「はい! お任せあれデス!」
ぐっと握手する。
砂時計を確認するまでもなく、後数秒でこの邂逅は終わる。
「あの、絶対ニ……っ」
俺はそっと指を立て、言葉を止める。
蛇足を付けたがるのは、俺達みたいな臆病者の悪い癖だ。
大丈夫さ兄弟。俺も死なねー。あんたも死なねー。
俺は軽く手を振って——
「またな」
「っ、はい! またっ! 必ズ!!」
砂時計の砂は落ち切った。




