第2話 魔物とは
第三位階中位
「魔物の生成っても、日間収益101Pなんだろ? 大丈夫なのか?」
『御心配なさらず。この通りです』
ヴンと音を立てた訳では無いが、突然目の前に近未来的な半透明のウインドウが現れた。
内容は……。
「えー……一、十、百……1万DP? なんぞこれ?」
『我等が主の慈悲です』
「成る程、支度金か……価値がどんなもんか分からないんだが」
一万円とかだと笑っちまうな。それだと俺は1日一円を生み出してる事になる。
『通常の人が1日を生きようとすると10Pもあれば贅沢が出来るでしょう』
「ほう?」
つまり3食寿司喰って温泉入って最高級のベットでぐっすり眠れると? マッサージも付くと?
『マスターの想像出来る贅沢程度なら可能かと』
「まじで? ……あれ、なんかいま辛辣じゃなかった?」
『気の所為では?』
なんかディスられてない俺?
……まぁ良いか。1P一円どころか数千円くらいの価値はあるって事だよな? 1万Pもあるなら……相当だぞ。
「……祈ればもっと貰えたり?」
『不敬ですよっ。祈りと言うのは日々の糧に感謝する事であり、何かを強請る為の物ではありません!』
「そうか、残念」
口だけでは残念なんて言ったが、1万DPも貰ったなら十分だよな。
『まぁ……何か肖れる事はあるかもしれませんが』
「そうなん? じゃあ毎食前にでも祈るか。いただきますって」
『……若干納得が行きませんが、良しとします』
いやまぁ、何かに付けて祈りはするだろうよ。何せ俺に2度目をくれた、想像できない程に凄い連中であり……社長だしな。
『それでは早速魔物の生成を行いましょう』
「あいよ」
なんかやっぱりウキウキしてるな……魔物好きなのかね?
まぁ、俺もどんな部下ができるのかワクワクしてるのは否めないが。
『我々は現在、最低位であるH級の魔物しか生成出来ません』
「ほうほう」
『生成に必要なポイントは1DPで、餌等は必要としない為維持費は基本的に掛かりません』
「ほう? 単価が1Pで餌不要? お得だな」
……いやまてっ? 1Pって俺が生産してる量と同じじゃん! それに俺、E級とか言ってなかったか? H級って……3段階くらい下って事か? 嫌な予感しかしないぞ。不穏だ!
『これが生成可能な魔物の一覧です!』
【必要DP:1】
・ジェリー
・プチモーム
・ペルタ
・バド・ユレイド
・シャドーウォーカー
・ピッド
・ピグマリオン
……名前だけ見た感じだと……ジェリーくらいしか想像付かないな。
ジェリーは多分ジェル的な最下級生物に違いない。
「うーん」
『実際に生成して見るのが良いでしょう』
「それもそうか」
案ずるより産むが易しと言うしな。
「それじゃあ一通り生成して見てくれ」
『それは出来ません』
「なんでやねん? ……え、なんで?」
じゃあなんで実際に生成して見ろって言ったよっ? お茶目さんなのか? それともなんか条件でもあるのか?
『ペルタは水棲魔物なので水辺が必要です。バド・ユレイドは柔らかい土を必要とします。他は生成可能です』
「成る程」
環境の問題があるのか。そりゃ一通りは無理だな。
『土はDPを1使えば十分でしょう。水辺は投資の意味でも水源から作る事を推奨しますが、先ずは池があれば良いでしょう。費用は規模にもよりますが大きめに10P程で如何ですか?』
「OK。その通りに行こう」
こっちは素人なもんでな、サポーター様に頼るしかない。
『石を利用し畑の土を生成します。場所を指定してください』
「それは後から変更可なのか?」
『可能です』
「じゃあ取り敢えず端っこに」
入り口と水晶のちょうど中間、四方に当たる壁を指差した。
『指示を』
「えー、土を作れ?」
そう答えるや、壁際の地面が淡く光り、もこもこっと盛り上がった。
プランターくらいの大きさか?
触って見ると、仄かに温かいふかふかとした土だった。
石を砕いて必要な栄養分を『創造』し混ぜ合わせたって感じかね?
ただ『創造』するだけでなく、操作も出来るんだな。汎用性は結構高いんじゃないか?
今度は逆側の壁を指差し、指示を出す。
「池を作れ」
『念じるだけでも良いですよ』
そんな返答をしつつ、コアは池を生成した。
地面の石がすっぽり無くなり、水が満たされ、苔や水草が現れた。
はへ〜……便利。水だけじゃない所がポイント高い。石はどこに消えた。
「……それじゃあ本命。一通り生成して」
『承りました、マスター』
ピカッと先程よりも強いひかりが瞬いた。
現れたのは、幾つかの小さな影。それらは各々自由に蠢いている。
「おおぉ……」
物を作るならともかく、実際に動く生物を生み出す所を見ると一味違うな。妙な感動がある。
『端から解説しましょう』
「頼む」
ワクワクする気持ちも分かるな。そう思いながら、先ずはジェリーを見る。
『此方はジェリー。粘液の体を持つ魔物で、その生命活動の9割を核に依存しています』
「ほう」
正にファンタジー生物。
打ち上げられたクラゲの様な見た目をしていて、大きさは拳大。
半透明な体の中心に小豆くらいの燻んだ石が浮いてるが、それが核だろう。
『体の大半は水で出来ており、核を中心に酸液を発生させて捕らえた対象を消化します。ただし肉体保持能力が低く、急な熱変動や重みが加わると体が断たれてしまう為、ネズミすら捕獲出来ません』
「……ほう」
『また重力にも弱く、無重力下では球体ですが今は見ての通りで、満足に動く事も出来ません』
「……水中ならどうだ?」
『例によって肉体保持能力が低いので、水を浴びるならともかく水中に入ると体が離散します』
ゴミじゃねぇか。
『小虫程度なら捕らえる事が出来るでしょう』
「入り口に敷き詰めて虫が入って来ない様にしよう」
『それが良いでしょう』
使い道があって良かったわ。
「次、虫」
お次はその隣、親指くらいの太さのイモムシだ。ちょっと大きくて絶妙にキモイ。
葉っぱみたいな若草色で、モンシロの幼虫みたいだ。その3倍くらいでかいが。
『此方はプチモーム。見ての通り昆虫系の魔物です。主に柔らかい葉っぱを好み、数度の脱皮を経て成長します』
「うん」
『戦闘力はありません』
「そんな気はしていた」
流石の俺もでかいイモムシに戦闘力を求めるつもりは無い。
『ただし、服飾に利用可能な硬糸や罠に利用可能な粘糸を吐けます』
「使い道はあるんだな」
『そして、これがとても重要なのですが……彼等はなんと、他の種と比較して非常に早く進化するのです!』
「進化とな?」
それはワクワクする単語だな。心なしかコアも浮ついてる様な気がする。
『統計によると、早い者で2日、遅くとも4日で次の段階へ至る様ですね』
「それは早いな! 知らんけど」
『早いんです! それも、特別に進化先を選ばなければ、環境に適した他の昆虫系に進化するのです!』
「それは楽しみだな」
福袋みたいな物か。運が試されるな。
「んじゃあ次、魚」
池を覗き込むと、金魚くらいのサイズのメダカみたいな生き物が泳いでいた。
『ペルタ。水棲系の魔物です。環境適応能力と繁殖力が高く、海水淡水問わず繁栄しますが、どちらかと言うと淡水魚と言えるでしょう。見ての通り戦闘力はありません』
「だろうな」
『数が少なければ単為生殖を行い、おおよそ10匹以上から有性生殖を行います。単為生殖時は1日に1匹。有性生殖時は2匹以上の速度で増殖し、おおよそ一年程度で寿命を迎えます』
つまりは、頭数をひたすらに増やし、DPを多く生産する役割の生物って事か。
そりゃ大きな池が必要になる訳だ。
「こいつらは1日にどれくらいのDPを生むんだ?」
『およそ1000匹で1DPです』
「は?」
『H級の魔物は全て同様です』
まじか……それじゃあ1万DPだと1万匹だとして、1日に増える数は10DP? つまり現状では日間収益111DPって事か……にゃんこかな? いやにゃんこは11か。
いやまぁ落ち着け、まだ慌てる時じゃない。筈だ。
全ての魔物を見るまでは冷静でいよう。
「えー、次。植物」
『バド・ユレイド。植物系の魔物です。体の中心部に核を持ち、ジェリー同様核に生命活動を依存しています』
バド・ユレイドは根っこをムニョムニョ動かし、耕されたふかふかの土を掘ると、そこにすっぽり収まった。
『戦闘能力は持ちませんが、比較的硬い体を持ち、小動物程度の攻撃なら耐え切れます。大気中から魔力を吸収して土地を豊かにする力を持ち、植物の育成を任せる事が出来ます』
「ふむ……つまりプチモームと合わせて運用しろって事か?」
『そうですね……プチモームはバド・ユレイドの葉も食べてしまうので、土地を豊かにしつつ餌になるのは困難かと。どちらか一方なら滞りなく進められるでしょうが』
まぁ取り敢えず戦闘の役には立たなさそうだな。
「次、えーと、ねずみ?」
『ピッド。鳥獣系の魔物です。見ての通り小鼠の様な見た目をしていますが、これで成獣です』
黒い小鼠だ。尻尾も短いし、ネズミというかハムスターって感じが近い。
『繁殖力は高く、およそ5日で5〜10匹程度出産、3日で成獣となります。一月もあれば100倍以上に増えますね』
「ペルタには劣るがな」
あっちなんて1日で倍。10日もあれば……1000倍だろ? ……改めて数えるとやばいな。池拡張しようかな。
『進化も比較的早く、また牙を持つ為少しの戦闘力があると言えるでしょう』
「戦わせるとしたら犠牲ありきの人海戦術ってとこか」
まぁ、負ける気しねぇけどな。
E級だと……それこそ数千匹が束になって掛からないと勝てないって事か。
「よし、次! えー、なにこれ?」
『ピグマリオン。傀儡系の魔物です。木材で出来たゴーレムの類いと言って良いでしょう。心臓部に核を持ち、例によって生命活動を核に依存しています』
今までで1番身長の高い生物だ。ふくらはぎくらいはあるか? いやもっと小さいな。
その姿は人型と言えるが、詳しく言うなら漫画家が絵を描く時に使うなんちゃらドールみたいな見た目だ。弱そう。
『自分の半分程度の石を持ち上げる怪力を持ち、土木工事等を得意とします』
「おおっ」
凄いな。俺の半分の石なんて俺は持ち上げられないぞ。パワーだけなら人の幼児並みはあるって事だな。
『小さな武器を持たせれば戦闘にも使えるでしょうが、ピグマリオンの数を揃えるよりは落とし穴でも作った方が効率的です』
「まぁ、そうだよなぁ」
所詮は幼児並みだからな。
壊れる危険性も考えるとそんなもんだろう。
後は……もう1匹いなかったっけ?
「えーと、これで全部だっけ? シャドーなんちゃらみたいなのいなかった?」
『シャドーウォーカー。種族としては不死系と傀儡系の中間種ですが不死寄りです』
「そう、それだ」
どこにも居らんのだが……。
『それならマスターの足元にいます』
「足元?」
チラリと視線を落とす。
そも、何故か今の俺は、光も射さない洞窟の中でもしっかりと周りが見えている。
その上今は、コアがゆっくりと明滅しており、結構はっきりと周りが見える。
そんな中で、俺の足元に小さな暗がりがあった。いやいた。
デフォルメされた様な人型だ。そして真っ黒である。光を飲み込む様な黒だ。
それが俺のズボンの裾を握っていた。
「え、なにこれ」
しゃがむと、シャドーウォーカーはとててっと俺から離れ、ちょうど良い距離で俺を見上げて来た。
サイズ的にはピグマリオンよりも更に一回り程小さいな。
『シャドーウォーカーは影の魔物で、不定形の肉体を持ちます。その為隠密能力に優れ、また隙間さえあれば何処にでも入る事が出来ます』
「ほう、アサシンかな?」
手の平を近付けると、シャドーウォーカーはピョンと地面から離れ、手に乗った。
『見た目よりも力はありますが、ピグマリオン程の力はありません。体が不定形なのでどの様な形にも変化出来ますが、武器や防具の代わりにはなりません。また、物理攻撃に耐性こそありますが他の生命体同様普通に死にます。魔法攻撃には極端に弱く、また日光を浴びると消滅します』
「ないない尽くしだなぁ」
やっぱり弱いのか。しかも日光で死ぬ。つまり日中の活動が出来ない。
『物の影を食べる事で力を増し、一定値以上の力を得ると分裂して増殖する他、統率能力の高い個体がいれば合体して強くなる事も可能です』
「分裂に合体……可能性としてはピグマリオンより強くなる事もあり得るって事なのか」
『可能性としてはあり得ます。が、魔物の生成は標準規格で行われるので、特異個体はそうそう発生し得ません』
ふむ、まぁ然もありなんだな。そんなポンポン強くなれるかって話よ。……いやまてよ?
「特異個体なんてのがいるのか?」
『まぁ、いると言えばいます。特異個体はおよそ3通りの発生パターンがあります。1つはコア回路の致命的な不具合による異常個体の生成。2つ目は、生成された魂がマスターの様な色濃い魂の因子を含んでいる場合。そして最後に、何らかの上位存在の干渉があった場合です。つまりほぼあり得ません』
専ら神の気紛れか確率物凄い低いかのどちらかなのか。流石に不具合起こせとかは言えねぇしな。
さて、と。
「……叫んでも?」
『心の中でどうぞ』
……魔物全部使えねぇじゃねぇかーーっ!!
どうすんだコレ? 熊すら倒せんぞ?