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第20話 死骸回収作戦

第三位階中位

 



 大至急木の槍を増産し、地味に回復していく魔力でピグマリオンの完全治療を終え、早めの夕飯で熊肉と米を食った。


 何気にコアのおまかせディナーは美味かった。


 そうこうやってる内にも獣の襲撃は続き、大きい物で熊2頭、猪3頭を撃破した。


 また、コアの報告により、猪がただの猪ではない事が判明した。

 なんでも、その猪には体の左右や足、顔等に甲殻があると言うのだ。つまりは例のアーマーボアとやらの一派である。


 鎧の主成分はタンパク質とカルシウム、そして鉄。


 魔力により強化されたアホほど硬いそれが体の至る所に付いている為、余程運が悪くない限り落とし穴トラップで即死しないのだ。

 おかげさまで竹槍と急造の木槍が数十本も犠牲になった。


 その他にも小型や虫が何度もやって来た様だが、それらは配下達が討伐した。


 白い狼以降E級の襲撃はなく、大型の獣は皆落とし穴と石の餌食。

 危険な場面は一度も無かったが、いつE級が来るか分かったもんじゃないので、備えが必要だ。


 E級にも対抗し得る戦力を確保するか、アイテムか、罠か、または自前か。


 何度も繰り返した突き込みや逆手の突き刺し、リーチを刻み込む為の大振りな一撃、持ち替えの動作、正確に的へ突き刺す練習。

 考えながらそれらを熟していると、唐突にコアから声を掛けられた。



『マスター』

「ふぁい……なに?」

『スキル、体術が取得可能になりました。100DPです』

「おお、取得で」



 こうやってスキルを鍛えて取得して行けば、E級とまともに戦える様になっていくんだろう。

 ただ、やはり俺が戦う以外の選択肢も確保しておきたい。


 仮に俺がE級とまともに戦える様になっても、相手が必ず一体とは限らないからだ。



「きゅーけー」



 そう言いつつ、ベッドに腰掛ける。


 高級な服の効果で汗がじんわり消えて行く。



 随分と体を動かしていた。不安からだろう。


 F級なら罠でどうにかなる事が分かったが、E級には落とし穴やギロチン程度では通じない。

 G級でさえ、魔石の純度次第では俺を抜いて行く。


 最悪、F級ですら……正直熊と正面から向き合って勝てるか分からない。


 今は愚直に体を動かすしか無いが、強くなるには1人稽古では無理がある。

 やはり稽古する相手が欲しい。


 ……いや、違うな。自分と同じくらいの強さの味方が欲しいんだろうな。


 コアは違う。コイツはサポートとしてすんごく優れた奴で、頼りになるし信頼出来るが、戦力としてはなんとも数え辛い。

 肉の体が無いからだろう。


 ウォーカーやハイカー、ピグマリオン等を少し好ましく思ってしまうのは、人型をしているから。同格の存在=人として考えている訳で、即ち人恋しいからに他ならない。


 俺が寝ている間に。


 俺が油断している間に。


 俺が間抜けている間に。



 俺と同じくらい強い奴がいて欲しい。



 でも無い物ねだりはしてらんねぇ。


 この迷宮の最高戦力は俺。それが全てだ。



「コア」

『なんでしょうマスター』

「俺は今E級の魔物と渡り合えるか?」

『無傷は難しいでしょうが可能です。負った傷もポーションで治せます』

「そうか」



 ポーションがあればな。死ななければ勝つる。そうポーションがあれば。痛くても勝てば良いのだ……幻痛毒はマジで痛かった。


 コアはゆっくりと明滅しながら問うて来た。



『……不安ですか?』

「そりゃあな」



 不安さ。いつ敵が来るか分からんし、その敵は俺を殺し得る。



『強敵が来れば転移で逃げる事が出来ます』

「……それはコアも逃げれるのか?」

『同時には無理ですがコアの移動は可能です』

「ほー?」



 なんだ、逃げて良いのか。不安が半分くらい減った。

 そうか……最悪逃げれば良い。



『それとマスター。E級の魔物に対抗出来る魔法符スクロールを常備するのはどうでしょう?』

「ふむ。確かに100DPくらいなら備えに使っても良いな」

『おすすめはルーセントソードです』

「ルーセントソード……確か自動で動く光の剣を出す魔法か」



 強そうだし、買っとくか。



「買いで。他には何かあるか?」

『傷石の類いを幾つか私に持たせておくのはどうでしょう? ピグマリオンやピッドにも使わせる事が出来ます』

「採用。火、水、風、土をそれぞれ10個ずつ買っとこう」



 威力はどんなもんか分からないが、一つ1Pだしそこそこダメージにはなるだろう。



『それから、魔物の進化を促進する為に、今日入手した熊と猪を食べさせるのが良いかと。ちょうど解体も終わりました』

「OK」

『差し当たって猪の内臓と肉をピッド、ペルタ、ジェリーにそれぞれ一頭ずつ与えましょう』

「頼む」



 これで少しは早く強くなってくれると良いんだが……いやまぁ、実質未だH級の皆に2段階上のF級の魔物素材を与えるんだから、それなりに効果はあるだろう。

 惜しげもなく与えよう。



『罠はこのままで良いかと。最悪の場合魔法符スクロールを使いそれを囮に逃げれば如何様にも再起出来ますから』

「おう。サンキュー」

『私とマスターは運命共同体です。礼を言われる様な事ではありませんよ』

「それでもだ」

『……ではありがたく受け取っておきましょう』



 そう言うとこ柔軟で有能で大人だよな。流石参謀殿。



『それよりもマスター。間も無く夜の帷が降ります』

「あぁ、偵察の時間だな」

『それについてですが……私に秘策があります』

「ほう……? 聞こう」



 コアは少しの溜めを作り、自信満々に言い切った。



『シャドーウォーカーを増やしましょう!』

「……うん?」



 そうだね。増やしたら良いかもしれない。



 んん? 秘策……?





 結論から言うと、それは正に秘策だった。


 コアは、十分割した元闇石と成体サジェカントの魔石を10個シャドーハイカーに食べさせた。

 シャドーハイカーはその数分後に、シャドーウォーカーを生み出した。


 更にコアは、使い切ったブラックミストの魔法符スクロールを十分割した物と、成体サジェカントの魔石を15個シャドーハイカーに食べさせた。

 シャドーハイカーはその数分後、シャドーウォーカーを生み出した。


 なんでも、闇属性に高い適性を持った廃材を媒体に闇属性の魔力を持つ魔石でエネルギー補給し、それを上位個体であるシャドーハイカーに供給する事で、シャドーウォーカーを存外簡単に生み出せるとの事だった。

 その計算の内には、今日一日を掛けてサジェカントから吸収した生命エネルギーも含まれる。



 そんなこんなで新たに増えた2,000体のウォーカー達を使い、コアは死骸調査、及び回収作戦を開始した。

 その間分裂で消耗したハイカー達はお休みだ。


 ウォーカー達は平べったい影となり、山側の支配地から森へ手を繋ぐ様にして整列、そのままこの迷宮まで進むローラー作戦を実行した。



「どんな感じだ?」

『旧サジェカントの巣から出発し、発見情報を聞く限りだと、やはりサジェカント等は真っ直ぐ迷宮へ向かった様です。現在は捜索範囲を縮め、2列になって慎重に死骸を運ばせています』

「格上の魔物はいるか?」

『そこまでは察知出来ませんが、いないと言う事はないでしょう』



 だよなぁ。


 ベルトコンベア方式で運んでいるらしいが……バレない事を祈るばかりだ。

 まぁ、夜の暗闇の中影が動いている事に気付ける奴なんてそうそういないだろうし、影があからさまに動いているからと言ってそれを生き物だと思う事もないだろう。


 俺なら上を見る。そして首を傾げてる内にしばかれる。



『野晒しにされた死骸は獣や虫に荒らされて状態が悪いので配下に与えましょう』

「そうだな」



 虫に荒らされた物を食いたく無い。ノーサンキューである。



『差し当たってマスターは万が一高位個体が来たときに備えてお休みください』

「いやいや、今日は活心を使おうぜ。突然起こされる方が辛いだろ」

『それもそうですね。一応ベッドに腰掛けておいてください』

「おう。いつでも良いぞ」

『行きます』



 そう声を聞いた次の瞬間、ぶつっと意識が途切れた。



「——むお?」



 ふと気付くと、妙に頭がスッキリしている。


 ああー、えっとー……そうだ、今は増えたシャドーウォーカーがベルトコンベアで死骸回収。

 回収が終わって暫く経つまではD級やE級に備えて厳戒態勢。


 そんな感じだった筈だ。



『マスター、おはようございます』

「あぁ、おはよう」



 そう、正におはようって感じだ。


 広間の入り口らへんではジェリーが何かの肉塊を食べてる途中だし、時間が経過した訳ではない。

 けれどもしっかり寝た様なスッキリ感。



「……便利だなぁ〜」

『便利なのです』



 取っといて良かったわ。



「ああ、そだ。死骸の他に枝とかあったら持って来てくれ」

『承りました』



 勿論無理しない様にな。



 

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