第17話 湯水の様に
第三位階中位
また寝落ちしちまったぜぇ。
そんな思いと共にすっきりとした夜明けを迎え、例によって色々と気になりつつも、軽い運動がてら短剣を振るい、朝飯を食った。
『報告が4つあります』
「じゃあ先ずは悪い報告から聞こうかな」
『悪い報告は無いので小さな報告から……サジェカントの巣窟に送り込んだシャドーウォーカー達は、順調にサジェカントを狩っています。今のところ異変に気付いた様子はありません』
ほう、そりゃ良い報告で。
『昨日中に6,000匹の処理が完了しています。大蟻塚に特に異変はありません。もっと数を増やしても良いかと思われますが』
「そうだなぁ……10,000くらい行っとくか」
『もっと増やしても良さそうですが、暫くは様子見ですね』
少しでも多く削りたいがバレたく無い。微妙なラインだが……コアがもっと増やしても良さそうだと言うのなら少なめで問題ないだろう。
『巣を詳しくサーチした結果、廃棄され埋められたゴミ捨て場や用途不明で使われていない小部屋を発見したので、そこをシャドーウォーカーの休憩所として利用しています』
「へぇ、危険は無いのか?」
『一晩観測した結果、サジェカントはそれらの部屋周辺には立ち寄っていません。また此方を察知出来る統率個体もあからさまな行動を取らなければ見付かる事は無いかと』
……ふむ、俺が思ってる以上にシャドーウォーカーはサジェカント暗殺に相性が良いらしいな。
一気に殲滅するのも手か? 流石にボス級に手を出すとやられる可能性はあるだろうが、雑魚を殲滅してしまえばボスはまともに動けないだろうし。
選択肢の一つとしてはありだな。
『また、巣の深部から地上に掛けて、屈めばマスターも通れる程の大きな通路が存在しています』
なにそれ、けむくじゃらの怪物がいそうな道だな。何だっけ? ……トロ? いやそれは俺が好きな奴。
『主に体の大きな統率個体用に開けられた通路であると考えられ、オススメはしませんがマスターが侵入する事は可能です。オススメはしませんが』
「2度言わんでも行かないわ」
毒液噴射されまくって死ぬわ。
流石の俺もそこまで馬鹿じゃ無い。
『安心しました。次の報告ですが……迷宮近傍に地底湖を発見しました』
「ふむ?」
『詳細は不明ですが、付近から観測された属性魔力から、それなりの規模の地底湖であると考えられます』
属性魔力なんて感知出来んの? 凄いね。それを感知出来れば何があるか予測出来るんだろ? 俺も出来る様になりたい。
「用途はペルタの居住施設であってるか?」
『はい。幾らかの工事と場合によっては先住民の排除が必要となるでしょうが』
正に侵略って感じだな。
「学術的にとか倫理的にどうなんだ?」
『データだけ取っておけば問題ありません』
……なに? コアの解析能力って俺が思ってる以上に正確なの? 後から再現余裕? ……データだけ主上に上げれば後は神さんがどうとでもやるって事か。
「そう言う事ならちゃっちゃと済ませようぜ。幾ら?」
『2,000程あれば良いかと』
「OK。実行」
……ってかその数値ってどうやって出してんだろ。正確には分からないんだよな。
『数値は観測データから推測した予測値です。余程の事がない限り変化しないので概ね正確ですが、僅かに出る過剰分は支配範囲を広める事に使用しています』
「ああ、あくまでも予測値か。成る程」
『支配範囲を広めた事で、176までDPを入手出来る用になりました。530Pで吸収枠を増加させますか?』
「OKOK」
コアは打たなくても響くな。素晴らしい補佐官殿である。
俺なんて赤べこみたいにこっくりこっくり頷いてりゃ良い。一応納得出来る説明は求めるがな。
コアの説明は続く。
『地底湖内部をサーチした結果……内部には有毒なガスが充満し、未知の有害バクテリアが繁殖している事が判明しました。他生物は存在しません』
「そのバクテリアってのとガス……と何かその原因とか? は取り除けるか?」
『ガスの除去は可能です。有害バクテリアは現状持ち得る手段での即時排除は不可能です』
即時排除は、ね。
「有効な排除手段は?」
『水中でも活動可能なプチスライムを増やし、時間を掛けて除去する。もしくは1Pの魔法符、ブラックミストをおよそ100P分使用してバクテリアを自壊させるのが良いかと』
「ブラックミストか……」
確か精神に影響する黒い霧とか言ってたか……? それで微生物死ぬの? 生きるの辛すぎてストレスで自壊? ……怖いわ!
「よし、実行!」
『実行役は精神影響の少ないピグマリオンをオススメします。1人いれば問題ありません』
ピグマリオンか。確かに飯はいらねぇシャドーウォーカー達みたいに遊びもしねぇ、疲れた様子も見せずに剣を振るう人形達に、精神があるとは思えない。
……もしくは忠誠心が強い騎士みたいな連中で、まともな意思があるのに痛みも苦しみも苦労も全てを耐え忍んで尽くしてくれているとか? ……良し、俺の中ではその設定で行こう。
「……良し、剣持ってないのがいるだろ? それに行かせよう」
『はい。実行します』
「あ、そいつ怪我してない?」
『マスターが一番最初に直した個体です』
え、まじ? あの手足がぼろぼろだった奴……そうか、剣振ってなかったから鈍臭かったのか。
「ならば良し、実行!」
『転送しました。購入した魔法符は随時転送します』
ピグマリオンの群れが剣を振っているその奥の壁際が光り、ピグマリオンが転送された。らしい。
『数刻程時間が掛かるでしょうが、問題などあれば随時報告します』
まぁ、外敵はいないらしいし、数時間程度どうって事はない。
早速次に移る。
『次の報告です。此方をご覧ください』
宙から落ちて来たのは、大豆くらいの大きさの涙滴型をした茶色い物体。これは……種か?
『バド・アードから採取した果実から取り出したバド・ユレイドの種です』
「ほう、これが……数は?」
『500程です』
500……バド・アードの5倍も頭数を増やせるのか。こりゃ良いな。
手の内で転がすこの種が、育てば自分で立って動くイキモノが生まれる。何とも感慨深い代物だ。
「畑を増やせば良いか?」
『仮称イモムシ畑を拡張し、バド・アードとユレイドに世話をさせると良いかと思われます。拡張および土の補給で120Pです』
「実行で。因みにどのくらいで成長するんだ? 果実が成るまでの期間は?」
『短くとも3日。と言いたい所ですが、ここ数日の経験から、おそらく2日程度で成体になるかと。果実は同様に3日程ですが、幼体を育てる為にエネルギーが使われる為、およそ4、5日後になると思われます』
ふむ。ならまぁ、2回目の果実は1回目に産まれた連中に世話をさせれば良いだろう。そうすれば生産性も増し、また新人の経験にもなって2度美味しい。果実も食えて3度美味しい。
そしていよいよ、コアがワクワクしてる報告だ。ソワソワしてるから直ぐ分かるんだなコレが。
『最後の報告ですが……』
「イヨイヨダナ」
『シャドーウォーカー達が全員進化しました!』
「ヤッタナオイ!」
実際マヂでやったぜこりゃ。普通なら1万P掛かる所を1,010Pと魔石で済ませられたのは大きい。
……いや、それと時間もか、寧ろ時間短縮こそが強制進化の利点だ……多分ランクの低い内は進化しやすいのだろう。
後々自己進化と強制進化で1ヶ月とか差が出る様になるんだろうな。
件のシャドーハイカー達は、既に力を失い石に戻った元闇石の周りで進化したカニダンスを踊っていた。
俺が短剣を振ってる時と同じ様な手の使い方から見て、もはやカニダンスではない何かだ。
……妙な事ばっかり学習するよな。
「……ハイカーになると生命力を吸い取れるんだよな?」
『はい。影から対象の生命エネルギーを吸い取ります。基本的に影と対象が遠ければ遠い程吸い取る力が弱くなります』
「洞窟の中には基本的に影なんて無いと思うんだが、それでも吸えるか?」
『吸収自体は可能です。ただし収束率が低く光源がある時と比べて吸収速度が劣ります。何せ影しかない世界ですから』
あぁ、影が無いんじゃなくて影しかないのか。だから対象指定が上手くできなくて吸収をし辛くなると。
「それじゃあハイカーをサジェカントの巣に送り込もう」
『全体を弱らせて巣そのものを非活性化させる。動きが鈍り暗殺もしやすくなるので有効な手かと』
「あわよくば巣から出ない女王蟻もやれるかなと」
『高い効果を期待出来るでしょう。確保した小部屋に転送する為合計で160P掛かりますが、実行しますか?』
「よし、実行で」
……送るだけで160はちと高いが、致し方ない。
安全性向上の為の投資である。




