第16話 武運長久を祈る
第三位階中位
さて、そんなこんなで戦力把握も終わり、サジェカントコロニー攻略作戦を話し合う。
「先ずは何と言っても情報だな。地脈からじゃはっきりとした情報は分からないんだよな?」
『はい。ですので、敵のコロニーが山側にある事を利用し、その土地を支配する事をお勧めします』
やっぱそれしかないよな。ゴブリンみたいに閉じ込めるのは多分無理だろうけど。
『最短距離を繋げば、およそ2,500Pで実行可能と思われます』
「良し、実行!」
『完りょ……うしませんでした』
「んん?」
……んんん?
「なんて?」
『サジェカントのコロニー近傍ですが、予測値よりも多くDPの消耗が発生します』
「なんで?」
『おそらくですが……その領域を信仰により支配する存在がいるのかと思われます』
マジか。袋小路の森のボスみたいなのがいるって事?
「支配は無理そうか?」
『いえ、消耗量は通常値の1.5倍程度。支配は可能です。現在その領域に触れる距離まで支配を進めており、消費量は300P。更に3,000Pでサジェカントコロニーを支配可能だと予測します』
「3,000か」
そこそこするが、払えない額じゃないな。
いや、まて……なんか勢いで実行とか言ってたが、元も2,500とか言ってたな。
「サジェカントコロニー、デカ過ぎじゃね?」
『周辺の山脈は山としては非常に小さいのですが、サジェカントコロニーはその山をほぼ一つ分程度支配下に置いています』
「デカ過ぎぃ」
『保留しますか?』
「いや、実行で」
どのみち情報は必要で、サジェカントとの戦いは避け得ない。
『支配が完了しました』
「良しっ」
『新たにこのエリアを『大鳴蟻塚』と命名します。敵の総数は計測中ですが、おそらく…………30万を超えます』
「はぁ、多いな」
いやマジで。多過ぎぃ。
『卵や蛹を加えるとその倍近いです。また統率個体は11体です』
「あのボスが11……戦力が足りねぇ」
『拡散されるエネルギーとその動きから見て、内10体はあの個体よりも弱い様です。1体は一回り程大きく、エネルギー量から見てG級の極点に達しています』
10体は弱いが1体は物凄く強いって事だな。また厄介な。
「前回の戦いではシャドーウォーカーがばれなかったし、暗殺に送り込むか?」
『それが被害を抑えつつ勝利する最良の手段かと思われます。ただし工夫は必要でしょう』
まぁそうだろうなぁ。多分だがサジェカントの統率個体は高い知能を持ってる。そいつの前で殺しまくったら流石にバレるからな。
『卵と蛹は襲わない様にしましょう。それらは負傷兵と同じ扱いですから』
「世話に兵力を裂かせるって事だな」
『はい。それに卵や蛹がある所は統率個体の部屋なので』
それもそうだな。そりゃ産む奴がいる所が卵置き場だわ。合理的に考えて。
「暗殺は統率個体の通らない場所で行う」
『急速に数が減ると異変を察知される可能性があります』
「外から帰ってくる個体を優先的に狙おう。そうすれば外で死んだと思われるだろ? 出入り口付近の部屋とかに配置すれば良い。一人頭5、6匹、日に5,000〜6,000くらいなら……バレないか?」
『統率個体に群れの頭数を正確に数える能力はありません。統率個体の知覚範囲にだけ気を付ければ、外敵の存在に気付くまで相当な数を屠れるでしょう』
だと言いがな。最悪なのは、シャドーウォーカーが見つかって殺される事だ。
「サジェカントの知覚能力はどんなもんなんだ?」
『優れた嗅覚を頼りに特殊なフェロモンを撒いて行動する様です。流石に目の前で味方が影に呑まれたら何かあると気付くでしょうが、遠くや物陰でいなくなっても気付かないでしょう』
「死体回収時にフェロモンが残ったりは?」
『全て回収しますので問題ありません』
送り込んだら俺にできる事は何も無いし、そう言う所は専門家に任せよう。
サジェカント暗殺作戦はそれで良い。問題はいつやるかだ。
「決行はいつにする?」
『巣穴に直接送り込むと、光りと微細な振動で異変を察知される可能性があります。山脈地帯に前哨拠点を設置して夜間に送り込むと良いでしょう』
「OK。夜だな。送り込むのは新しく増えたシャドーウォーカー。進化待ちの連中は……明日以降かな」
新しく増えたシャドーウォーカー達には前祝いになんか贈っときたい所だ。
……これが最後になるかもしれないしな。
◇
瞑想して治療し、偶に剣を振り、飯を食った。
作戦に送り出すシャドーウォーカー達には、サジェカントの成体の魔石を与えた。
毒あるし、そんな物で良いのかと思わない事も無かったが、コア曰く属性の近しい魔石は美味しく感じるんだとか。
……美味いんかコレ。
そしていよいよ日は沈み、夜陰に乗じた暗殺作戦が幕を上げる。
出動する勇士達に改めて向かい合う。
「勇士諸君。今宵、敵の牙城へと忍び込み、蔓延る尖兵供を闇に引き込まんとする勇士諸君! 君達の武運を祈る。栄光を我が手に!」
おおーっと拳を突き出すと、シャドーウォーカー達も拳を突き上げた。
『……何やってるんですか』
「いや、なんか鼓舞とか応援とかそう言う感じのスキル手に入らんかなって」
『成る程』
何事も経験だからな。取り敢えずやってみる事。それはきっと無駄にならない。
「それじゃあ、コア。頼んだ」
『承りました、マスター』
光を放ち、魔法陣が現れる。
戦場へ向かう兵士達に、俺は敬礼した。
シャドーウォーカー達は俺を真似て、無邪気に同じ敬礼を返し、消えて行く。
……彼等が人型をしているからか、或いは知能が高いからだろうか? こんなにも心が騒つくのは。
右手に纏うシャドーハイカーを撫で、シャドーウォーカー達が立っていた場所を暫し見つめる。
『……マスター、死は終わりではありません』
ゆっくりと、鼓動する様に明滅し、コアは言葉を紡ぐ。
彼女の役割は俺を補佐する事で、これは労りであり慰めだ。
「……記憶を失う事と死ぬ事、何が違うよ」
己の生きた軌跡を失い、新たな生を得たとして、それは生きていると言えるのか?
『例え死に、記憶の全てを失ったとしても、その魂に刻まれていた強い思いは必ず誰かに受け継がれます。マスターが失ったかもしれない喜びや幸せは、それが世界と比べて微々たる物でも、連なる全ての世界に確かに良い影響を与えていますよ』
「ふーん?」
それじゃあ俺の記憶が殆ど無くても、それらは拡散して世界にばら撒かれただけで、無駄にはなってないかもしれないんだな。
『その点、彼等は幸せですよ? 産まれを祝ってくれる主を持ち、彼等にとっての御馳走を与えられ、その命が少しでも長くあってくれと願ってくれる者がいる』
「そうだと良いが……」
ふむ……俺にもそんな人がいたのだろうか? 失われた記憶の中に、そんな幸せがあったのだろうか?
……あったら良いな。それがあればこそ、失った甲斐があると言う物だ。
俺は肩を竦め、冗談めかして口を開く。
「……まぁそいつに、戦場に送り込まれてるんだけどなー」
『送り込んだのは私です』
「指示を出したのは俺だ」
『では、彼等が戦死した時は、私とマスターで一緒に十字架を背負いましょう』
「そうならない事を祈っておくよ」
『まったくです』
まったくまったく…………よく出来た秘書で。
今俺に出来る事は、己を鍛える事と健康である事のみ。
瞑想を再開すべく、ベットに腰掛けた。
「……ところでさ」
『何でしょう?』
「あいつら、いつまで踊ってんの?」
コアの周りで進化した謎の踊りを踊るシャドーウォーカー達。
朝から一度も休まず踊り続けているが……頭おかしくなっちゃったんかな?
『進化するまででは?』
「しなかったらどうしょぅ」
ただ踊り狂わせただけになっちゃうぜよ……。
〜4日目・夜〜
マスターがすやすやと眠っている。
また瞑想をして、そのまま眠ってしまった様です。
まぁ、瞑想も魔術行使の一種ですから、精神の消耗を伴います。コレは眠ると言うより気を失うと言う方が正しいですね。
『マスターを』
声を掛けると、ハイカーやピグマリオン達がマスターを横たえた。
生命力の補給で健康な身体が保たれるとは言え、蓄積された苦痛が直ぐに抜ける訳ではありませんから。
ベッドの上で穏やかな寝息を立てるマスターを見てから、戦場へ意識を向ける。
シャドーウォーカー達は無事に巣の中へ侵入している。
サジェカントの巣穴は、多数の通路と無数の部屋からなる、小さな山の片面を覆い尽くす程に巨大な巣窟。
部屋は沢山あるが、用途がはっきりしているのはゴミ部屋と蛹部屋、卵部屋、食糧庫くらい。後は敵を迎え撃つ部屋と思わしき物があります。
無数の用途不明の部屋がある理由は、入り口が複数ある事から想像できます。
おそらくここは、複数の巣が掘り進める事で接続されてしまったスーパーコロニーなのでしょう。それは女王に該当する個体が複数いる事から明らかです。
用途不明の各部屋は、通常の蟻と比べて巨大なサジェカントがすれ違う為に掘られた部屋か、もしくは接続されてしまった通路を掘り直して整えた結果なのだと思われます。
他の巣のサジェカント同士がお互いに殺し合っていない点。周囲を食い潰す異常とも言える繁殖速度。
まるで種の保存よりも大切な事があると言いたげな妙な生態。
統率個体の遺伝子異常で発生したのか、それとも何か別の意図があるのかは現時点で不明ですが、このまま放置すれば早くて一月以内に、袋小路の森はサジェカントに飲み込まれていたでしょう。
巣に侵入したシャドーウォーカー達は、複数ある入り口から程近い部屋や、入り組み折れ曲がった通路に配置し、積極的に狩りをさせている。
個体によって役割が違う事が想定出来た為、狩りの対象は小型のサジェカントのみに限定している。
今のところは問題なく狩りを進められている。このまま何事もなく終わってくれると良いのだけれど……。
とにかく、今は私に出来る事をやるしかありません。
シャドーウォーカー達を管理し、サジェカント達の動きを予測して狩りを補助、此方の迷宮の侵入者も此方の戦力で狩らせ、ゴブリンの動向を監視し、残りの演算力で周囲に我々を利する何かがないかを調べる。
やる事は沢山ありますが……夜はまだまだこれからですから。
《4日目》
【出費】
闇の属性石×100 1,000P
初級ポーション×30 10P
畑用土 5P
豆加工 1P
朝食 1P
昼食 1P
夕食 1P
痛撃耐性 500P
精神耐性 1,000P
短距離転移 10P
支配領域拡大 3,300P
合計:5,829P
【収入】
地脈吸収 123P
生産量 31.5P
ゴブリン生産量 2P
サジェカント生産量 60P
サジェカント ×6,000 1,200P
その他
小虫×31 3.1P
合計:1419.6P
所持DP:6,605.5P
【所持アイテム】
石塊(中)×220
木材(中)
枝
蛇?(大)の牙
蛇?(大)の皮
蛇?(大)の骨
蛇?(大)の肉
蛇?(大)の魔石
蛇?(中)の牙×5
蛇?(中)の皮×5
蛇?(中)の骨×5
蛇?(中)の肉×5
蛇?(中)の魔石×5
鼠?(黒)の歯×6
鼠?(黒)の毛皮×6
鼠?(黒)の魔石×6
サジェカントの牙× 26,658
サジェカントの魔石× 26,658
サジェカント(大)の牙× 10,749
サジェカント(大)の魔石× 10,749
サジェカント(女王)の牙
サジェカント(女王)の魔石
鼠?の毛皮×20
バド・アードの実×50
バド・ユレイドの種×500
石屑は畑に、木屑はピッドのベッドに加工しました。回収したバド・ユレイドの種は翌朝マスターと相談します。
【兵力】
《H級》
ジェリー×300
ペルタ×21,000
ピッド×4674
プチモルム×300
バド・ユレイド×1,000
ピグマリオン×501
シャドーウォーカー×2000
《G級》
プチスライム
グァーム
ノルメリオ
モーム
バド・アード×100
ユレイド
シャドーハイカー
《E級》
マスター