第12話 おやすみなさい
第三位階中位
座禅を組み、両手のひらにシャドーウォーカーを乗せ、瞑想する。
なんでも、瞑想には魔力感知をしやすくする他に、大気中の魔力を吸収して魔力回復を早める効果が微量あるらしい。
それを利用して、シャドーウォーカーを蝕む過剰な生命エネルギーを少しでも吸収しようと言う訳だ。
戦場の様子も気になるが、コアの情報によると、統率個体を失った事で蟻達は各個自由に暴れ回り、簡単に処理出来るとの事だったので、多分大丈夫だろう。
◇
暫く後、瞑想スキルを取得した。
思いの外あっさりと取得出来た。値段は140Pだが、全く高くない。俺への投資だからな。
瞑想を取得する頃には、シャドーウォーカーの崩壊は収まっていて、静かに眠りに付いていた。
峠は越えたらしい。
『瞑想はここまでで良いでしょう』
「……そうか?」
『ええ、それよりも残敵の掃討をしましょう。高い所にいる蟻を潰してください』
「分かった」
いつのまにか戦闘も終わっていた。壁の上の方とか行かれると他の奴等じゃとどかねぇもんな?
シャドーウォーカーをそっと枕元に置いて、立ち上がる。
いる場所が分かるコアに指示を貰い、蟻をプチプチ潰して回った。
「案外少ないんだな」
『牙が重く壁を登るのに要するエネルギーが多いのが原因かと』
「成る程」
牙デケェもんな。小指の爪くらいの大きさがあるし、大きい奴は第一関節まではある。
あんまり壁を登って来なかったのは重いからだった訳だ。そりゃ落とし穴が足止めになる訳である。
雑魚処理を終えたら、次は木工修復だ。
『どこをどう修復したい。そう念じる事でより効率的に修復が出来ます』
「そう言う物なのか。よし……木工修復」
何かがふわっと出て来て、手に持ったピグマリオンの中に入る。
ぼろぼろだった手と足が綺麗に治った。
「おお……治った」
『不備はありません。次へ』
流石に500体は治療出来ないが、戦闘行動に支障のある個体はいないので、一番傷が深い個体を20体修復した。
「これで終わりっと」
『お疲れ様です』
「どうって事ないね」
そんな事を言いつつ立ち上がろうとすると、ふらりと視界が揺れた。
「おおっと……?」
『言っていませんでしたが、魔法はどれ程簡略化された物でも精神疲労が伴います。マスターは深刻な精神ダメージを受けたばかりなので、暫く休憩していてください』
「そう言うもんなのか」
まぁ、毒食らって無かったらこれよりずっとマシだったって事だろ? それなら言う程でもないな。
コロンとベットに寝転がり、枕元でうずくまっているシャドーウォーカーの背を撫でる。
『ピッドとペルタ達に初級ポーションを使います』
「おーう頼むー」
『ピッド達が腹を下していたのは、幻痛毒の作用ですね。死に至る様な毒ではありませんが、痛みだけは直接魂に響くので、少量でもとても痛い毒です』
「なるほろー」
めっっっちゃ痛かったもんな。死ぬかと思ったし。
「俺、放っておいても死ななかったのか?」
『なんとも言えません。統率個体の毒は量、質共に下位個体の毒を凌いでいましたから。場合によってはショック死もあり得ます』
「ふーむ」
『痛撃系の力は死神の力の下位互換ですから、参考までにですが……強制的に魂が肉体から剥離しそうになる際に起こる症状があります。強烈な目眩や光が明滅する様な感覚はありましたか?』
「お、おう……あった」
『……良くぞ御無事で』
マジで死に掛けてたのか、俺。
『生産エネルギー量では間違いなくG級の域を超えない筈なのに、この戦闘力は明らかに異常です。解体し、詳しく調査しましょう』
「おう、頼む」
確かに、G級と言われりゃ……耐久力なら蛇より下だったが、飛び付きのジャンプ力と言い毒液とその射出スピードと言い、その上特徴的な牙まであった。
首が落ちても生きてたし、これはやっぱり異常だったのかね?
『その他戦果ですが……敵の総合数は32,249匹でした』
「30,000ねぇ、改めて聞いても多いのやら少ないのやら」
『統率個体がこれ程の力を有していた事を考えると、もっと数がいても不思議ではありません。その種にしては数が少ないのだと考えます』
「なら運が良かったって事で……肝心の収入は?」
『およそ7,530Pです』
「ほー」
…………マジ?
『マジです』
「え、じゃあ今10,000DP以上あんの?」
『現在は10,072Pありますね』
「はえ〜」
ようやく黒字って事か、やったぜ!
ようやく地に足付いた感じがする。
『ここから、ゴブリンの餌代。豆の土再生代。初級ポーション9本の購入代を引けば、10,044DPです。実行しますか?』
「それで頼む」
『完了しました』
いやっ、優秀だねぇ。
『豆は明朝にも収穫可能でしょう。予想収量はおよそ200DP分です』
「ざっと20倍か。数的には10日分だな」
『良い豆を選別し、新たに10倍の畑とバド・ユレイドを導入する事を勧めます。1,530Pです』
「じゃあ今準備しておこう」
高い買い物だが投資でもあるからな。
ピカピカと光り、土地が整備される。明日の収穫が楽しみだ。
『後は、ペルタが3,000匹増えた他、3,000匹が成熟したので明日からは最低6,000匹増加します。現時点では9,000匹ですね』
「……多いな」
これ聞くと30,000匹も大した数じゃないと思っちまうぞ。
「と言うかこれ、朝に報告出来たんじゃ?」
『瞑想取得の為に余計な情報を入れるべきではないと思いました』
「成る程」
ありがたい話である。
『プチモームは現在、1匹を除いた全てがプチモルムに自然進化しています。羽化が楽しみですね!』
「急に元気になったな……その1匹ってのは?」
『生成されてからずっとバド・ユレイドの葉を食べている様です。いつ進化してもおかしくは無いのですが……何故でしょう?』
「特異個体か?」
『コレと言う明確な特異性を持つ訳ではありませんが、通常規格と異なっている事は間違いありません。大量生成の際にエラーが生じたのかもしれませんね』
「ふーん」
エラーコインみたいな? そう言う事もあるんだなー。
100%は存在しないって訳だ。
『幾らかの案件はありますが、現状報告すべき事はこれで以上となります』
「うむ、御苦労」
『それではマスターはそのまま瞑想し、ピグマリオンの治療に勤めてください』
「うっす。了解」
さーて、唯一のお仕事だぞい。集中集中。
目を瞑り、己の深くを覗き込む。
ゆっくり、ゆっくりと、意識は微睡みに沈んで行った。