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第9話 剣を掲げよ

第三位階中位

 



 朝起きて、運動してから飯を食い、無駄とも思われる瞑想を開始した。



 大事なのは、集中。


 集中、集中、集中……自分の中を覗き込む様に、ひたすら集中。


 とくんとくんと静かに鼓動する心臓。体の隅々まで行き渡る血の流れ。


 ここの何処かに、魔力って物がある筈なんだよなぁー。

 ……そう、何処かに、必ず、ある筈なんだ。


 それが流れているのか固まっているのか、はたまた何処か一つの場所に集まっているのか。動けと念じれば動くのか? 集まれと念じれば集まるのか?

 それとも何か体の中を動かす必要があるのか?


 体を動かす? 歌でも歌う? いや、呼吸か? 中には無くて外から取り込むパターン? 魂があるらしいから、体じゃなくて魂の中にある? 魂って何処だ?


 ……蟻はいつ来んのかね? 木工修復の魔法も20回しか使えないし……いやいや、集中集中。


 あれこれ悩んじゃいるが、結局の所戦いはなる様にしかならないし、それに瞑想スキルだって、コアが更に奥を覗き込めって言ってたからな。


 これで良いんだ。ダメでも経験になるらしいしな。





 燦々と光が輝く。


 暖かい金色がさざなみの様に揺蕩い、夜空が共鳴して鼓動する。


 手を伸ばせば遠く、金と黒は星の様に混じり合う。


 光の群れは流れ巡り、ぐるぐると、ぐるぐると——



 ——……。



 循環する金と黒に、青白い粒子が混ざる。


 粒子は仄かに混じり合い、金や黒に迎合して行く。



 ——……ター。



 じわりじわりと様々な色が浮き上がり、空が鮮やかに色付いて行く。


 広がるのは銀河。


 果てしない無尽の夜空。


 ……あぁ、あれは金じゃなかったな、どっちかって言うと黄——



 ——マスター!



 青白い光が弾けた。





『マスター!!』

「ほわっ!? え、なになに!?」



 え? 俺今寝てた!? 意識飛んでた!?



「あ、ちょっと待って…………」

『……』



 ……なんか頭がふわふわするけど……良し、大丈夫。



「ふー……」

『落ち着きましたか?』

「うん、えーと、何か起きた?」



 なんかあったっけ?


 手元にシャドーウォーカーがしがみついていたので、それをぐりぐり撫でつつ考える。


 イモムシは……全部進化して蛹になっただろ? 蛹が羽化したのか? 違うか。もっとウキウキ伝えて来るもんな。

 ゴブリンは捕まえて豆は……。



「豆の収穫?」

『蟻の襲撃です』

「あー、それね」



 あったあった。そんなのあったね。蟻の襲げ——



「——蟻の襲撃!? やばっ!」



 ぼーっとしてる場合じゃねぇぞっ。


 直ぐにナイフを持って、手元のシャドーウォーカーを手に憑かせる。



『落ち着いてください。深呼吸』

「すぅ……はぁ……」

『……少しは落ち着きましたか?』

「……少しな」



 依然として焦りはあるが、取り敢えず落ち着いた。



「状況は?」

『現在、およそ8,000匹程度の蟻が迷宮内に侵入しました。数は今尚増加中です』

「はっせん……8,000?」



 ハッセン、ハッセン……8,000。



『マスター』

「はっせ——はっ!?」

『落ち着いてください。今10,000を超えました』

「いちまっ!?」

『落ち着いてください。所詮蟻です。既に鼠穴や横穴に入った個体をおよそ100匹程度撃破済みです』

「あ、あぁ」



 そうか、既に100匹倒してるのか、大した事ないのか?



「行けそうか?」

『想定よりも数が多いですね』

「やばそうか?」

『どうやら巣から飛び出して一気に此方に向かって来た様です。別の生命体の血肉が付着している事から、何度か戦闘を行なった事が分かります。その為、襲撃の密度は想定を下回っています』



 つまり、数は多いがどうにかなりそうって事か?



『広間への到達予測時間は、多少の障害物があるとは言え1分を切っています』

「OK、配置は?」

『配備済みです』

「橋の回収」

『完了しました』

「よし!」



 改めて、広場前方に並ぶ皆を見下ろす。


 既に戦闘は始まっている。

 場合によっては死者もあり得るかもしれない。


 少しだけ目を伏せる。



「……」



 これから、この世界で、俺は仲間を使い潰して生きて行く。


 神とやらが本気で世界の支配を望むなら、こんな事にはなっていない筈だ。


 つまり、これは俺に与えられた試練なんだろう。


 敵を殺せ。


 味方を犠牲にしろ。



 ——屍の塔を築け。



 俺はそうして、生きて行く。



 瞼を持ち上げた。



「……全員、戦闘配備!」



 ナイフを掲げる。



 仲間が、配下が生きる事は勝利条件じゃない。


 マスターとコアが生き残る事が、俺たちの唯一の勝利条件。



 ……それでも——



「全員、生きて勝利を祝おう!」



 ——生きて欲しいと願う事は、決して悪い事じゃない筈だ。



「勝つぞ!」



 ぐっとナイフを握った拳を突き上げる。



 音は無かった。


 鬨の声もない。



 ただただ静かに、仲間達は拳を突き上げた。



 

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