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★未来で王弟将軍は生贄なる我が子を抱き寄せる

 ガルゥヲン・ラゥ・カフカスが、スカイゲートとなるウーリュウ藩島から移り、漸く慣れた東宮を歩く。向かう場所は東宮の応接の間。


 従者が扉を開ければ、そこには見慣れた顔があった。


「お父上、お久しぶりでございます。 ますますご健勝のことかと思いますが、本日は如何様な要件で?」


 銀に輝く長い髪を降ろし、 いつまでも年を取らない様に見える自分の父親。

 ウーリュウ衛星藩島が主、王弟将軍でもある、テュルク・ラゥ・カフカス、其の人であり、



 今も、、異世界へと帰えりし想い人を人知れず待つ男だと、ガルゥヲンは考えている相手だ。



「自分の息子に会いに来るのに、何か要件がなければならぬという事はないのだろう?」


 いつもと変わらず些か固めのセリフで、 実の父親に簡単な挨拶をするガルゥヲンに、目の前の美丈夫は、月の如く静かな笑顔で答えた。


「そうは言いましても、父上は カフカス王帝領国の 関所でもあるウーリュウ衛星藩島を統べる。人間ではありませんか? 」


 目の前にいる此の父親は父である前に、敏腕なる王弟将軍としてスカイゲートで島民達の畏敬の念を集めている人物で、、


「そう簡単に島を出ていい 地位に、ついてるわけではございませんでしょう。 」


 それでありながら、何時でも息子ガルゥヲンには、気さくで愛情深い言葉を投げかけてくれるのだから。


「勿論、我が息子の顔を見に来たのも有るが、別件の用事も出来てな。ガルゥヲン、よく顔を見せてくれ。」


 少し親馬鹿の傾向がある父親の言葉に、やや呆れた顔でガルゥヲンが一歩近寄ると、テュルクが座る 向かいのソファへと 座る。


  この部屋は、ガルゥヲンがアリャラスと入れ替わり入った東宮でも比較的、王帝が居住する宮殿に近い位置にある部屋だ。


 よって何時何時、アリャラス や皇帝が顔を出してもおかしくない。 だから父、テュルクの前であってもガルゥヲンは変身魔法を施した眼鏡を外す事はない。


「特に問題はなく、息災にしておったか?」


 とはいえ 実の父であるテュルクは、ガルゥヲンの真の姿を 知ってはいる。

 最もテュルク自身、ウーリュウ衛星藩島においては常より城下町やギルドには、冒険者姿に扮して降りる。


「、、はい。問題は無く、やっております。ただ、外に出る事は、叶いません。ですから、、」


 時には島民と共に魔獣を狩り、城下の 労働者と共に生活設備の工事を自ら指揮するような人物だ。

 半年もガルゥヲンから往診が無ければ、衛星藩島に残してきた幼馴染から何等かの苦言が有ってもおかしくなかった。


「そうか、手紙が、、戻らぬと聞いていたが。検分や護衛が過ぎるようだな。兄上や大聖堂に物申そう。」


 いつもと変わらぬ柔らかで優しい表情を見せる父親が、懐に入れ出した手には封筒と、、


『パラッ』


 羽根ペンが間違えて擦り落ちてきた。


「父上、其のペンは、、」


「すまぬ。一緒に落ちてしまった。ガルゥヲンには此方の手紙だ。」


 遍く魔力を持つカフカス王帝領国では、すでに羽根ペンで筆記をする人間は皆無で、魔力を持たない他国民でも最近は魔力付加された自動ペンを使っている。


 故にガルゥヲンが知る限り、父テュルクが懐に忍ばせるまでする、元の羽根ペンの持ち主は只1人。


 異世界へと帰ったガルゥヲンの母、マイーケ・ルゥ・ヤンヴァの物だろう。

 ガルゥヲンは、静かに父親の胸元を見つめた。


「父上、元より手紙を、、出してはおりません。」


 そして、落ちた羽根ペンと一緒にテュルクの懐から出て来た、封筒の差出人名を認めたガルゥヲンが、顔を歪める。


「お前から出していなくとも、手紙が来ていただろう。届いていないのかも知れないと託されたのだ。開けてやってくれ。」


「彼女と、、は婚約も白紙にしております。伝えて下さい。、、迷惑だから、忘れろと。」


 出来ればこの部屋では、、おいそれと出したくない名前なのだと、ガルゥヲンは両手を指が白くなる程握った。


「どうせ、これまでの手紙も開けて無いのだろう。あの娘も、父親の目を盗んで手紙を書いているのだ。此れだけでも、此処で開けてくれないか?」


 

「、、、、、」


 再びテュルクから手紙を差し出され、羽根ペンの姿を見た事も相まって、とうとうガルゥヲンは諦め、手にした封を開ける。


『カサ』


『ブーーーワーーワーン!!』


「!!!」


 封を開ければ、其処には想像した手紙などは無く、開けられたと同時に魔法陣が展開され、目の前にウーリュウ衛星藩島の海が映像化された!!


〜『ルウ!』〜


 たった一言だけ聞こえた声と、広がる海。


 かつて、食べる事を無視され続ける声の主が、懲りずにサンドイッチを持って来た、、あの海だ。


「大丈夫か。」


 自分は今、どんな表情をしていたか?


 きっと酷い顔なのだろうと、ガルゥヲンは理解する。何故なら、向かいに座っていた王弟将軍が、わざわざ立ち上がり歩み寄り、成人もした自分の頭を両手で優しく包み込んだから。


「父上、もう其の様な幼子ではありません。」


「いつまで経っても可愛い我が子だな。」


 そもそも元の姿なぞ、もう父親と見間違える程に育った靭やかな筋肉を付け、到底同じ年頃の男子とは思えない屈強な姿。

 アリャラスが護衛と間違えたぐらいに。


「父上、脳筋と呼ばれるのが、真の姿の男ですよ?」


「良く似てきたものだ。何もかも。」


 本当はこんな父でも、孤独に堪えているのはガルゥヲンも知っている。無機質な物、、羽根ペンなどを持ち歩く程度に。


 父と自分。


 皇族とは言え、カフカス皇族達にとって体の良い防波堤ぐらいの価値にしか見られていない存在。


 其れを解っていて尚、己を殺しつつ押し付けられた皇族の義務を護る理由が、今は痛い程にガルゥヲンにも理解できる。


『ザザーーーーーン、、』


 幻のウーリュウ衛星藩島・スカイゲートの情景からは、懐かしい潮騒の音さえ響き、部屋には防音結界の魔法陣も浮かんだ。


「映像魔法が有る間だけは、盗聴も侵入も叶わないそうだぞ。さすがだな、お前の元婚約者は。」

 

 結局目の前の人物も、藩島の民を見捨てる事が出来ない、不器用な為政者なのだ。


「父上。 何も問題はございません、、たまたま疲れがたまっている、、それだけなのです。」


 自分の頭を撫でてくれる父は、最愛が異世界に戻る穴を見た瞬間に、一緒に入る事を考えたと、幼き頃話をしてくれた。

 

「そうか。 スカイゲートとは違って。 外に気晴らしに出ていく事も出来ないのか。 」


 ガルゥヲンガの表情を見ながら、顎に手を当て残念そうにテュルクが映像の海を眺める。


 変わらない父の仕草と暖かさに 少しだけ心を癒さた様にガルゥヲは感じた。


 「日々、禊という名の祈りを、、マザー・ エリベス・カテドラルの祈祷室で行います、、、建前上、王帝継承第1位 の人間としての教育を受けますが、、きっとアリャラスが受けた内容の比ではないでしょう。意味が、ないのですから、、。」


 王帝継承二おける教育の裏では極秘に、『封印の宮』についての教育を受けるガルゥヲン。 約半年の間、明らかに『封印の間』の心得の比重が多い。


「、、待つ人が居る事は意味もなく、、、心を寄せられる事は害悪でしかないのです。」


 嫌悪をアリャラスに投げ付けられ、魔力無しの継承1位の皇子と、王都貴族に陰では揶揄される。


 息つく暇も無い半年が間。取り分け昨日は 自分と同じく、古の『封印の宮』へ共に旅立つ2人が任命者を受けた。


  任命を聞いた聖女トモミは号泣し、取り乱して手が付けられない状態に。ガルゥヲンが懸命に宥めていた事もあり、かなり疲れていた。


「どうした?手紙の彼女は害悪ではないだろう。」


『ザザーーーーーン、、、』


 幻影の海が引いては寄せる波を創り、テュルクとガルゥヲンの足元に打ち寄せる。

 其の海は、かつて母が異世界から飛ばされ、生きる為に潜り続けた海で、


 父と出会った海でもある。


「嫌なのです。彼女に執着していると解れば、『封印の宮』に入っている間にもアリャラスが、攫っていく。だから、忘れろと言ったのです。」


 スカイゲートとして半島が上空にあれば、目の前には広大な空の 景色が眼下に広がっているだろう。


 其の証拠に、幻影魔法が見せる映像は、空を映し出している。


 あまりにも吸屈に感じる、王都の窓からの見える景色とは次元の違う衛星藩島が、ガルゥヲンの護るべき人達が住む場所で、、


「本当は帰りたいと思う時もあります。でも無理であり、戻れもしない。ならば手酷く婚約を白紙にして、何時迄も彼女の心の傷となって残れば良い。」


 ガルゥヲンは思わず本音を漏らした。


  もはや自分の心打ちを曝け出したのは、元婚約者マーシャが作る魔法の光景 のせいだと謂わんばかりに、ガルゥヲンは封筒を閉じると、


「だから待っていなくて、いいのです。」


 ガルゥヲンは切れてしまった結界から部屋の外へと出て行った。

 

 其の為、父テュルクが呟いた、


「もしかしたら、君もガルゥヲンと同じ気持ちだったのか、、」


言葉をガルゥヲンは知らない。



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