表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

森の熊さんの困った一日

作者: 高橋ひかり

物語に出ている時刻や身長は、分かりやすいように、現代の数字で書いています。

 午前7時ごろ、野良猫がたくさんいる通称<猫猫長屋>と呼ばれている長屋に、一人の同心が現れた。同心は、長屋木戸から一番奥まったところにある部屋で立ち止まった。


「重蔵とやらはいるか?」

 声をかけると、一人の男が引き戸を開けて顔を出した。

「俺になにか用ですか?」そう言うと、男は部屋から出てきた。

 男の名前は森の重蔵。歳は40代。身長は180センチぐらいの大男で、長屋の子供たちには<熊さん>と呼ばれて親しまれている。


「夜鷹蕎麦の仕事で疲れているんですが」

「重蔵、昨夜、自身番に暴漢を突き出したんだって?」

 重蔵は、「ああ……」と無精髭の顎をサラリと撫でた。昨夜、夜鷹蕎麦を営業していたが客足が鈍く、早めに店じまいをしようと思っているときに、女性の悲鳴が聞こえた。駆けつけると、3人の男が若い女性を取り囲んで、今にも襲い掛かろうとしていた。

 重蔵はあっという間に3人の男を叩きのめすと、女性を連れ自身番に行き、3人の男を突き出すと、さっさとその場から離れた。


 なんでいなくなったんだ?という質問に、「あまり目立ちたくないので」と言うと、同心は、その大きさじゃ無理ないかという苦笑いをした。

「昨夜の娘さんが、お礼をしたいと言っているんだが、なにか目立ちたくないわけでもあるのか?」

 重蔵は困った。重蔵が仕事としている夜鷹蕎麦は、ある藩邸を張り込むための偽装なのだ。


 又十郎に頼まれた――なんて言えるはずもない。

 重蔵が言い難そうにしている又十郎とは、将軍家指南役の柳生飛騨守宗冬のことであり、この<森の重蔵>という名は偽名で、本当の名前は<柳生十兵衞三厳>

 鷹狩のため出かけた先の弓淵で急死したと言われている、柳生十兵衛なのだ。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言]  拝読しました。  時代モノ。  ボクの世代でもテレビで視るぐらい。  イメージできても、それを“言葉”で表現するとなると逃げ腰になってしまいます。  それを誤魔化さずにきちんと真正面…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ