第9話 面白い人と知り合いになったぞ
「ありがとうございます」
馬車に乗っていた女性が降りてきてお礼を言ってくれた。
きっとお金持ち市民の女性だろう。
ちょっと変な服だけど、お金が掛かった服装だからね。
金髪の長い髪が印象的なスレンダー美人さんで年齢は20代半ばってとこかな。
「本当に助かりましたぞ。お礼はさせていただくのでなんなりと申してくだされ」
爺さんの方もお礼を言ってくれる。
そうか、お礼として何かを頼むことができそうだな。
「お二人は街に行く予定なの?」
「ええ。街で服のアトリエを開く予定なの。そしたら、襲われてしまって」
あ、そういうことか。
不思議な服を着ていると思ったら、服を作る人だったのね。
だったら、一緒に街に行けば知り合いになれるね……街に行くの初めてだったから、知り合いがいると安心だね。
「それなら、街まで一緒に行きましょう。あ、商人さん。この人達と一緒に街に行ってもいい?」
「お前、無茶するな! だいたいなんだ、あの穴は?」
「えっと。土魔法?」
「お前、魔法を使えたのか?」
つい、魔法が使えるって嘘を言ってしまった。
まぁ、それで納得してくれるならいいか。
商人さん、女性と話して取り決めをしている。
一緒に行くなら役割分断をしっかりとしないといけないらしい。
「それで、ある賊達はどうする?」
「どうしよう」
「街で衛兵に突き出せば、礼金をもらえるぞ」
「そうすると、あの人達、どうなってしまうの?」
街道で馬車を襲うのは重罪らしい。
街道というのは、街と街を結ぶ重要な道だから、安心して通れないと意味がない。
その安心を脅かす存在は、街に対する敵対行動と判断されるのだ。
「そうだな。犯罪奴隷として鉱山送りだな」
そういえば、僕がいた鉱山にも犯罪鉱奴がいた。
お金がなくて鉱奴になった僕よりも、ひどい扱いをされていたな。
「うん、それがいいね。犯罪鉱奴にしちゃえば、安心だし」
「もちろん、私達も証言しますわ。犯罪鉱奴なら報奨金も出ますし」
犯罪鉱奴は鉱山主にとって使いやすい奴隷らしい。
無理な労働をさせても、罪を償うためとして認識されるから問題になることはない。
「だから、鉱山主からお金が出るから突き出した者にも礼金がでるの」
「へぇ、それ、僕がもらっていいの?」
「もちろんよ。捕まえたのは、あなただから」
どのくらいもらえるのだろうと聞いてみたら、金貨10枚は出るだろうと教えてくれた。
なんと、5人だから金貨50枚!
またお金持ちになったね。
「でも、災難だったね。そんな奴らに狙われるなんて」
「ううん。災難じゃないわ。私が街に行くのを良く思わない人がいるってことね」
どうも、事情があるらしい。
ついつい、好奇心でいろいろと聞いてしまった。
あんまりややこしいことにくびを突っ込むのはどうかと思うけど。
「私、山の中腹の羊牧場に併設したアトリエを持っていてね」
彼女は元々、牧場生まれてで羊の世話をする両親の元で育ったらしい。
羊の毛糸はたくさんあったから、子供のころからそれを使って必要な物を作っていた。
成人してからは「街で売れる服を」という牧場主の依頼でいろんなデザインの服を作って街に送っていたら人気になった。
今では、貴族の中にもファンがいるほどの人気デザイナーらしい。
「だけど、どうも別のデザイナーが真似しているみたいでね」
大きな商会が援助しているアトリエで大々的に売り出して、いかにも自分達が作りましたって顔をしている。
それはまだ許せるけど、今や彼女の服が自分達の服のパクリ物だと噂を流して排除に掛かっているみたい。
ファンの貴族たちが怒って、彼女を街に呼んで新作を作ってもらい、どっちが本物かはっきりさせようとしている。
「だから、私が街に来ると困る人がいるのね」
「じゃあ、そいつらがあの賊を雇ったってことか」
「そうだと思うけど、そんな証拠出てこないわ、きっと」
直接、依頼するなんてことはまずしないようだ。
きっと、ただの山賊として扱われてしまうだろう。
「あ、遅くなってごめんなさい。私、シャルルって言います」
「僕はタイガ」
「よろしくね」
「こっちこそ、よろしく」
うん、変わった服の人だけど、ちょっと面白い人と知り合いになったぞ。
あとは、捕まえた賊を馬車に乗せて街に行くことにするか。